第81話 ツァン帝国4

「それで、おまえらは何をしたいんだ」


「僕たちは何もする気はないよ。君たちの国を侵略するつもりはないし。まあ、こちらに攻撃してきたら、叩きのめすけどね。それは文字通りになるよ」


 ぞくりとするソージンたち。確かに、目の前の二人だけでもツァン帝国は落とせそうな気がする。


「うん。壊滅させるだけなら、僕たちだけで十分だね。広いツァン帝国だけど、中心人物はたくさんいるわけじゃない。すぐに捕捉できるし、何なら都市ごと燃やし尽くしてもいいしね。今から試してみようか?」


 目を見開き、ブンブンと首を横にふるソージンたち。先程のロレンツォが発した核激魔法を思い出して身震いする。


「まあ、それは冗談として、こちらに攻めてきちゃ駄目だよ。僕らより好戦的な皇帝がいるから」


「その皇帝が我々を攻撃することはないのか」


「僕にはわからない。ただ、彼は商売に夢中だから、その線で話が行くんじゃないかな。帰ったら、そちらの族長なり皇帝なりに報告しておいて」



 忠告したにも関わらず、ツァン帝国はその数50万でこちらに押し寄せてきた。何しろ彼らは遊牧民族。家ごと移動しているようなもので、移動が苦にならない。


「アレ程言ったのに」


 僕はツァン軍の野営地の上空に到達した。見渡す限りのゲルだ。地平線まで埋め尽くしている。


 とりあえず、大音響の声で警告を発した。そして、威嚇のために核激魔法を上空に放った。相変わらず、地響きがすごそうだ。いくつかのゲルが倒壊している。


 3分の1程はそれで腰をぬかして戦意を喪失したようだが、残りは煽られたと勘違いしてこちらに攻撃をしかけてきた。


 攻撃は弓矢で僕には効果がないが、数が多すぎて戦術的な対応はムリだ。指揮官がいそうな場所を選択して、僕の最大の威力の風魔法をぶっ放した。秒速100mを遥かに越える突風が吹き荒れる。


 瞬時にして、ツァン族の戦力の3分の1が喪失した。呆然とするツァン族。


 僕は大音響の声で


「だから、何度も警告したでしょ。まだやるのなら、次は君たち全滅だから」


 神か悪魔か。

 ツァン族は膝を折った。そして地にひれ伏した。

 この人達は力を見せないと理解してくれない。


「じゃあ、マリア。君の見せ場だよ」


 マリアはそう言われると、後光を光らせて敵の前に立ちはだかった。そして、彼らに手をかざし、マリアの最大出力の広域回復魔法を発動した。


 命の失われたものはムリだが、怪我や手足が欠損など、全てが元通り回復した。


「奇跡だ」


「聖母様だ」


「そうだ、彼女は聖母マリア様だ」


 この世の奇跡を目の当たりにしたツァン族は改めてマリアにひれ伏した。中には五体投地するものも少なくなかった。


 マリアはこの魔法で体重をげっそり減らして、ダイエットができたと喜んだ。


「また機会があったら、魔法使ってみるわ」


 マリアは嬉しそうに言うのだが、ランベルト・ブートキャンプよりも消費カロリーが激しいのであった。常人ならば命を落とすのは必至、という特大の魔法であった。



 さて、ツァン皇帝には駄目を押しておくか。

 僕は、皇帝のいそうな場所まで飛行魔法で飛んだ。


 今回はちょっと演出に凝ってみる。まず空を飛びつつ、後光を盛大に光らせた。そして、特大の核激魔法を空に向かって放った。大爆発を起こし、地面が盛大に震える。いささか1パターンではあるが、効果てきめんだ。


 慌てて表に出てきた人々は、空に僕が浮かんでいるのを見つけると、その後光に驚いた。


「神の怒りか」

「空を見ろ。神が浮かんでおられるぞ」

「ホントだ」

「なんという眩しい後光なんだ」


 人々はひれ伏して僕を拝み始めた。


「やめんか、バカ者共。あれは神なんかではない」


 マリアの鑑定魔法で皇帝を特定するつもりだったけど、不要だった。大きなゲルから傲慢そうな爺が出てきた。アレが、皇帝に間違いない。


 マリアの鑑定魔法で皇帝を確定させる。

 魔法で捕縛して、空中に放り投げた。


「ワシを誰だと思うとる。ツァン帝国の皇帝じゃぞ!」


 空中でジタバタする爺がわめく。


「皇帝、初めまして。いま、あなたには2つの道があります。①ここで爆散する ②侵略をやめる さあ、どっち」


「ふざけるな。どっちもありえんわ」


「では、僕も③を選びます。さようなら」


 皇帝は、はるか上空でジェットコースターのように飛び回った。


「ワシが悪かった、すまん、おろしてくれー」


 上空で何やら喚いている。しばらく遊覧飛行を楽しんでもらってから、地上におろした。


「さあ、どうしますか。もう一回やりますか」


「ばかもの。誰がお前のいうことな……ギャー!」


 結局、皇帝は合計3回空を飛び回ることとなった。その間、ツァン軍が僕に攻撃をしかけてきたが、しょせん、弓矢攻撃だ。


 僕の結界・防御魔法に跳ね返される。それどころか、跳ね返された弓矢が自分たちに向かってきた。


「オレたちの攻撃がまるで通じない」


「弓矢を放つほど自分たちに被害が出る」


「やはり、神か。それとも悪魔か」


 僕は2・3発、先程の威嚇よりも大きい核激魔法を放った。これもお馴染みだが、効果は絶大だ。遠くの荒野で火球が着弾、天空に数百mの爆煙が上がる。


「おお、神よ、怒りを沈め給え」


 ツァン軍は一斉にひれ伏して両手を組み懇願し始めた。流石に皇帝は上も下もずぶ濡れになり、降参した。少し、精神に影響があったかもしれない。ヘラヘラ笑っている。



 ツァン帝国はしばらくすると、息子たちの時代になった。ジョージャン王国とは違い、息子たちは後継者争いをせずにいるようだ。


 しかも、前皇帝がワンマンで超保守的だった反動か、積極的に東の新しい風を受け入れ始めた。


 ボネース帝国皇帝とも親しくなり、毎日、白くてふんわりパンやしっとりフワフワスィートとかに囲まれている。果たして、それが良かったかどうかはわからない。領民は歓迎したので、良かったということにしよう。



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