第80話 ツァン帝国3

「現状で指揮官は誰?」


 当たりを見渡すツァン兵。

 多くの指揮官が倒されたため、混乱している。


「多分、ソージンです。ただ、今は牢屋の中です」


 ソージンというと、彼か。

 ああ、魔法がかかったままだった。


「つれてきて」


 ソージンは目を虚ろにしたまま、ロレンツォの前に立たされる。マリアは魔法を解く。


「ああ、オレはなんということを……」


 頭を抱えるソージン。


「あのね、僕たちと君たちとでは随分と戦力に差があるの、わかるでしょ。そもそも、君たち、やり方が古すぎる。戦法もそうだし、いきなり襲ってくるなんて、蛮族そのもの」


「蛮族だと?」


「いきなり襲ってくるのは、奇襲ってことで納得できるけど、僕らはただの旅人、民間人。それを理由もなく襲ってくる。蛮族じゃなければ、山賊?」


「蛮族でもないし、山賊でもない」


「この国は鎖国でもしているのかな?民間人をいきなり襲うその理由は?」


「……」


「逆にきくけど、ツァン族が僕らの国を訪れていきなり襲われた。君たちはどうする?」


「……」


「答えられないよね。君たちは僕たちの国を蛮族扱いして報復するに決まってるから。答えが出たよね、蛮族君。僕たちの文明がどれだけ進んでいるか、見せてあげよう」


 ロレンツォはマジックバッグから次々と品物を取り出す。


「これがマジックバッグ。無制限に品物を入れられる」


「じゃあ、次。今出した製品。これ、エールなんだけど、飲んでみて」


 といいつつ、缶の蓋を開けるロレンツォ。缶の冷たさに驚き、蓋に驚き、そして飲んでみてあまりの美味しさに驚く。


「これがエール?冷えてる。この泡がきめが細かい。香りがフルーティ。濃厚でまろやかな味。信じられん。オレらの飲んでるエールはこれに比べると馬の小便だ」


「次はパン。これは庶民が普通に食べてるもの」


「白くてフワフワパン。貴族が食べるものを庶民が普通に食べてるだと?」


「嘘じゃないよ。さっきのエールもそう。疑うなら、隣の元神聖イスタニアンに行ってご覧よ。大きな街なら普通に売ってるから。安いよ」


「おまえらの最初の武器はなんだ?筒のようなもの」


「ああ、魔導銃ね。僕の領地では兵士が常備してる武器。ランベルト、頼む」


ランベルトは100mほど先に生えてる数本の木に向かって連続して何発か発射した。音をたてて倒れていく木々。


「わかるよね、この銃の威力。狙って引き金を引くだけで、自動的に的にあたる。子供でも扱える武器だ。もっと威力を増やすこともできるから、小隊程度なら一発で爆散するよ」


 衝撃を受ける兵士たち。魔法といい、食べ物といい、武器といい、彼我の差があまりにもおおきすぎる。


「わかったかい?君たちは非常に遅れていて、しかもマナーは蛮族なみ。よし、全員はムリだけど数人、街に連れて行こう」


 ソージンに人を数人選ばせて、ロレンツォは転移魔法で領地に戻ってきた。


「今のはなんだ。オレたちはどこにいるのだ」


「転移魔法。ここは元ジョージャン王国のザップ。ちなみに僕は領主ね」


 本日何度目かの衝撃を受ける兵士たち。もう、何に対して衝撃を受けているのかもわかっていない。


 兵士たちを食堂につれていき、適当に注文する。


「牛ハンバーグ、とんかつ、鶏の唐揚、アジフライ、こちらは卵のサンドイッチ。エールにウィスキー。飲めない人は苺のショートケーキにフルーツ・サイダーとかあるよ」


 兵士たちの周りにいる領民はどうみても庶民だ。彼らの食べているものは、今テーブルの前に並んでいるものと同じである。


 食べ始める兵士たち。あまりの美味しさに目をむき、うなりながらガツガツと胃に詰め込んでいく。


「慌てなくてもなくならないし、おかわりが欲しかったいってよね」


 そして、食後のドリンクで一服する。緊張がとけたのか、周囲を見渡す余裕ができてきた。それで気づく、建物の斬新さ。


 壁が綺麗。窓が大きな1枚ガラス。照明は魔道具。トイレに行けば、排泄物は分解してくれる。手洗いは温水だ。そういえば、室内は適度な温度に保たれている。ほのかに花の香りが漂ってくる。



「……よくわかった。オレたちの置かれているポジション。お前たちがオレたちをどう眺めているかも。屈辱だが、これが現実だ」


 ソージンは最近感じていた漠然とした不満が、はっきりと形を表していくのを感じ取った。それは現状に甘んじることへの焦りであった。


 十年1日がごとしの生活。それがいやというわけではなかった。厳しい鍛錬の毎日だ。甘えているわけではない。


 しかし、このまま年を取り朽ち果てていくことに漠然とした不安があった。オレはまだ老いさらばえていない。可能性が潰えたわけではない。まだ見ぬ未来があるはずだ。ソージンは心の底から沸き上がる渇望を感じていた。


 他の兵士たちはどうだったであろうか。ソージンと同じ感情を持つものもいた。現実を受け止められず、ひたすら否定するものもいた。それぞれである。



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