第78話 ツォン帝国1
ツァン帝国はブロクシュ大陸の西側を占める大帝国だ。ツァン族は遊牧民であり、定住しない。ゲルというテントの大きいものを住処とし、草を求めて移動する。
彼らの生活の大半は馬上で過ごす。
場合によっては、睡眠も馬上で行う。
彼らはこの生活を千年以上繰り返してきた。千年前のやり方を今日も行う。そして、千年後も同じやり方で過ごすつもりであり、それを誇りとしている。
彼らの武器は弓矢である。馬を見事に駆りつつ、ヒットアンドアウェイで短弓を放ってくる。身軽さが身上ゆえ、軽装である。
彼らにとっては魔法よりも弓矢である。魔法は詠唱を唱える。無詠唱はめったにない。魔法を唱えても、素早い彼らはその場にはいない。また、動いているものを魔法で当てるのはかなりの繊細な操作が必要だ。だから、彼らは魔法を馬鹿にしている。
そして、この戦闘スタイルで大陸の西半分を制覇した。スタイルを変える必要がない。
彼らの戦いは非常に残忍で知られる。
しかし、それはお門違いというもの。
彼らのメンタルでは、自分≧家族≧仲間≧家畜、奴隷>降伏した敵>>>敵対した敵 という順番があった。基本的に、敵は人間とみなされない。それどころか、家畜にも遠く及ばない。
ゴキブリを殺すときに残忍とか言われるであろうか。虫けらを殺すがごとく、家畜を殺すよりも無感情で敵を殺すのである。流石にこの考え方がおかしいことにソージンは薄々気づいていたが、それでも長年の伝統になじんでしまっていた。
ソージンは自分たちのスタイルに概ね満足していた。しかし、ほんの僅かであるが、どこか物足りなさを感じないわけではなかった。それが何なのかは漠然としていてわからなかったが。
そんなある日。
いつものように、旅行者を襲いにいった襲撃部隊が半壊して戻ってきた。
「何が起きたのかわからんが、敵はおそろしく強いぞ。あっという間に5人がやられた」
「このへんで我々に楯突くやつがいるとは。で、敵は何人だ」
「見える範囲では2人だ」
「そんなバカな。そんなのにやられたのか」
「だからいったろ。筒のようなものをこちらに向けたと思ったら、連続して発光してあっというまに味方の額が撃ち抜かれていた」
「まさか、物の怪のたぐいではあるまいな。よし、一個小隊でかたきをとるぞ」
彼らは騎兵40名で一個小隊を編成する。号令とともに、彼らは憎き敵めがけて馬を走らせた。
「なんや、さっきの奴ら。いきなり襲ってきたとおもったら、あっという間に退却していったで」
いつものようにフードにおさまっている猫マリア。
「ランベルト、あれがツァン族なのかな。多分、味方を呼びにいったんだろう」
「おそらくツァン族でしょう。彼らは弓主体の軽装騎兵部隊の運用に長けています。弓と馬だけでここまで版図を拡大してきました。彼らは残忍で強壮だといいます」
その割にあっという間にやられていたけど、モブチームだったのかな。
「彼らは魔法をバカにして弓しか使いません」
「なんで魔法を使わないの」
「通常、魔法は詠唱が必要です。これが致命的ですね。それから、魔法は動くものに対してコントロールが難しいです」
ああ、確かに。普通の魔法使いって、味方の後方でためを作って魔法を発動するもんな。ちょっと使い勝手が悪い。
「そんなこと言ってる間に、地平線の彼方に土煙。敵がもどってきたようですね」
「ざっと40ぐらいか。広域魔法でやっつけようか」
数百mまで近づいたときに、ロレンツォは魔法を発動した。敵を一気に補足してそれぞれに風刃を飛ばす。
一瞬にして、40近くの騎馬兵が倒された。
指揮者とおぼしき騎馬兵を残して。
彼は暴れる馬から振り落とされ、呆然と座り込んでいた。腰をしたたかに打ちうつけたのである。
「君は指揮官だね。名前は」
「ソージンという。お前らは鬼神か何かか」
「いや、ただの旅人だけど」
「ただの旅人があんなに強いわけあるか」
「あのさ、世の中広いんだよ。僕クラスの人間なんてたくさんいるよ」
衝撃を受けるソージン。
「嘘をつけ。そんなのみたことがない」
「東の方へ行ってご覧よ。神聖イスタニアンの向こう側。神聖イスタニアンはつぶれちゃったけどね」
「神聖イスタニアンが崩壊したという噂はほんとうなのか」
「うん。今はボネース帝国の一部。で、キミらは山賊か。ちょっと本拠地まで案内して」
「オレたちは山賊じゃない。ツァン帝国遊撃隊だ。それに本拠地に案内しろだと。アホか」
猫マリアは誘導・自白魔法をかける。
彼女はこういった魔法が非常に強力だ。
「……わかりました。こちらです……」
ソージンに案内されて遊撃隊のキャンプへ向かう。
「じゃあさ、降伏するよう、司令官か誰かに言ってきて」
「……はい、わかりました……」
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