第77話 イスタニアン正教
イスタニアン正教は、教祖の男系子孫がトップである総神官長を努めてきた。そして、神聖イスタニアンの実質上のトップでもあった。現在の総神官長はリートフェルト。
ジョージャン王国で信仰されているのはジョージャン正教である。こちらは、もともとはイスタニアン正教ジョージャン派が母体だ。教祖の死後、一時期奥さんが教団をとりまとめていた時期があった。奥さんの弟が凄腕で、その子孫がずっと勢力を保ってきた。その一族が独立したのが、ジョージャン王国。
つまり、ジョージャン王は王でありかつ総神官長である。これは本家よりもはっきりした形で決められている。
ただ、ジョージャン王国はボネース帝国に滅ぼされた。したがって、ジョージャン派はそのままボネース正教に移行した。
ボネース帝国で主に信仰されているのもイスタニアン教会である。そこのボネース帝国で展開していた教会が独立性を高めたのが、ボネース正教だ。
ボネース正教は、ボネース皇帝にほぼ完全にコントロールされている。実質的にはボネース皇帝が総神官長を兼任しているのだが、形式的には政治と宗教は分離しており、総神官長は別にいる。
3つの教義に実質的な差は殆どない。
単なる勢力争いだ。
下に連なる各個の教会も似たようなものだ。
教会の1日は荘厳な聖堂にて祈りと共に始まる。
毎日唱える文句も同じだ。
「新しい朝を迎えさせてくださった神よ、今日一日私を照らし導いてください」
それから向かうのは、お布施統合管理局だ。昨日のお布施の状況が個々に集まってくる。ここで、イスタニアン正教とボネース正教とでは反応が違ってくる。
イスタニアン正教は困っていた。
「昨日のノルマは達成できたのか」
司教は焦っていた。このところ、全くノルマを達成できていない。このままだと、降格は確実だ。嫌だ。上司に散々嫌味を言われてのお布施周りは。
「半分にも到達しておりません」
なぜだ。
ほんの数ヶ月前までは曲がりなりにもノルマを達成してきた。優良教会として表彰も何度もされてきた。このままならば、もう一つ階段を登れる。そう思っていたのに、なぜだ。
原因はわかっている。
帝国発の新ビジネスが教会の収益を圧迫しているのだ。
ビールは庶民の飲み物ではないのか?上流の人間が飲むべきものはワインだ。ワインしかない。高貴な色をしたワイン。うっとりするではないか。それがビールだと?あの苦い茶色の液体に何の魅力があるというのか。
しかし、返ってくる答えはどいつもこいつも同じ。
「帝国資本の○が凄い勢いでハンバーガーチェーン店を拡大しておりまして。そこが出しているフルーツ・サイダーなる飲み物から火がつきました」
「缶の意匠が面白くて手を出す人が多いのです。それで飲んでみると面白い味だと。何故かハマる人が続出しております」
「その流れで同じ意匠のエールを飲んでみると、従来のエールとはかけ離れた品質の飲料で、大変のどごしが良いそうで」
「特に、暑くなるとワインよりもエール、という方が多くなります。何しろ、冷蔵魔導装置というもので飲み物が冷やしてあります」
「しかも、ウィスキーなるものもありまして。非常に酒精が強く、酒好きがこぞって求める味だとか。特にドワーフが」
「そのルートにのって、帝国産のワインが流れてきました。帝国産のワインも品質が高く、プレミアムがついているとか」
「ブランデーなるものまで」
「領主の○がビールとウィスキーにはまりまして。領主の○はブランデーを」
イスタニアン正教教会は東から順番に、ボネース正教教会に鞍替えした。ボネース帝国を背景としたボネース正教の圧力に抗えなかったこともある。しかし、いざ鞍替えしてみると、圧倒的に教会の収益が良くなった。
何よりも自分たちの食卓が豪勢になった。明日の食事を気にする必要がなくなったのだ。教会といえども、末端は貧していたのである。
この波は、瞬く間にイスタニアン全土に波及した。イスタニアン正教はボネース正教と実質的に同一の教会となった。もともと教義に殆ど差がない。隣町との方言の違い、程度の差だ。
元イスタニアン正教教会の司教は眠る前に、神に報告する。そして感謝すべきこと・反省すべきことを素直に謙虚に振り返る。これは、翌日以降の自分の歩むべき生き方・他者への接し方を把握し、自分の弱点を客観的に矯正する機会となる。
一日の働きを終えたわたしに、
やすらかな憩いの時を
与えてくださる神よ、
あなたに祈り、感謝します。
1日の終りに神への感謝の気持ちを述べ、圧倒的に生活の豊かになった司教は安らかに眠りにつくのであった。
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