第39話 領地に到着
「これからはトーハウ川に沿って北上するんだよ」
「どれくらいかかるん?」
「1日10時間は船に揺られて、それで3日ほどかかるって。それでようやく、領地の隣街バイシュの船着き場にたどり着く」
バイシュは人口が8千人ほど。
それでもこの近辺の中心的な街だ。
ここまで400kmほどの船旅だった。
ここから北上するには小舟以外は難しいらしい。
マジックバッグ持ちの我々は殆ど手ぶらだから、
小舟に乗り換え北上を続ける。
バイシュからザップ船着き場までは80km弱。
実は、既にザップのそばに
転移魔法陣を置いた小屋を設置してある。
しかし、賊が待ち伏せしているであろう。
それを迎え撃つために船旅を選択した、
というのもある。
早めに排除しておきたかったのだ。
賊を排除した後も、
ゆっくりと風情を楽しみつつ、船旅を続行した。
しかし、3日目にはつくづく後悔していた。
退屈でたまらない。
◇
ようやく、船着き場に到着する。
ここからは比較的開けた場所が見通せる。
この先、5kmぐらいのところに、
目的の街ザップがある。
船着き場からは馬車だ。
酷い道をガタガタ揺られながら、
やっとの思いでザップにつく。
ここまで来たなら、
最後まで魔法を使わずに到着するぞ。
と無駄な意気込みをしたことを再度後悔した。
転移魔法でみんなまとめてこればよかった。
なんで馬車使ったんだろ。
「私は退屈しませんでしたよ。久しぶりの旅でしたし」
フィナは優しい。
ただ、この時代の人達はのんびりしている。
「クッキーがたくさんあって退屈しなんだわ。もっとクッキーない?」
マリアは聖女設定を忘れたらしい。
ザップは東側は開けた場所だが、
残りの北・東・南は森に囲まれている。
遠くを眺めれば、北には険しい山脈が。
西はそこまでではないが、
やはり山脈が視線を遮っている。
南はずっと森が続き、
20kmほどで隣の領地との境に出るという。
しかし、森はちょっと危ないので、
領民は川を使いたがる。
「ここまでくると、空は透明だし空気は爽やかですね」
我々の癒やし担当メイドのフィナだ。
「お腹すいたー」
我々のイラン子担当のマリアだ。
ぶらぶら歩いて、
農作業をしている穏やかそうな人に尋ねる。
「村長さん、おられますか」
「ワシが村長のアベラルドだけんど、どちら様で」
「申し遅れました。新しく領主に任命されましたロレンツォです」
「はえー、王子さまとかいう噂の。こりゃひれ伏さにゃあかんかね」
「いや、そんな肩苦しいことをしてもらっては困ります」
この領地、ザップ以外で住民はいないとのこと。
森の中は野獣・魔獣で危ないらしい。
ただ、野獣・魔獣は人里には降りてこない。
人口は300人程度。
農業と林業がおもな産業だ。
一見してだいぶ貧しそうなことがわかる。
村長さん宅で夕飯を呼ばれた。
固くて黒い石の混じった雑穀パンに、
薄い塩味の野菜スープ。
それに干し肉だった。
これは割とこの国の標準的なご飯。
とりあえず、お土産でクッキーを渡した。
「「うわっ、サクサクシットリあまーい」」
奥さんのバンビーナと長男のアマートが叫ぶ。
「やっぱり、都会のお菓子は美味しいね」
「これ、僕のお手製です。みなさんもこの程度ならすぐに作れるようになりますよ」
「ホントですか? こんなに美味しいものを?」
「準備が整ったら、僕の家でお茶会でも開いて、その時にお話しますね」
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