第31話 山賊グスタフ
オレはグスタフ。
年齢はわからん。多分、30歳ぐらい。
王国の寒村出身だ。
どのくらい寒村だって?
とにかく貧乏だったんだよ。
毎年、春先には餓死者が出るのが当たり前。
ちっこい畑を耕すだけじゃ全然暮らしていけない。
だから、森での狩猟が当たり前だ。
俺んちは兄弟が5人いた。オレは一番下だった。
だが、小さい頃から暴れん坊で、
付近のガキどもを従えて、毎日、狩猟生活さ。
森の中はおっかねえぞ。
イノシシ、野犬、狼、このへんは当たり前だ。
森の奥には人を迷わす妖精がいる。
これにつかまると数日は森から抜け出せられねえ。
実体験した俺が言うんだから間違いねえ。
しかも、森の奥には巨大な蜘蛛がいるって話だ。
それも何匹も。
徒党をくんでやがる。
こいつらに出会ったら最後、体がしびれる毒液を飛ばされて、あっという間に蜘蛛の糸で雁字搦め。あとはチューチューとディナーになるって寸法さ。
冗談じゃねーぜ。
小さいうちはせいぜいうさぎとかキジとかを狩っていい気になってたが、そのうち、イノシシクラスを捕るようになった。
もちろん、オレだけじゃムリだ。
配下の野郎どもとの連携が大切だ。
オレには狩りの才能とボスの資質があったようで、村だけじゃなくて、他の村のチンピラ連中も従えるようになった。
ちまちま村で生活してるわけにもいかねえ。オレたちは村を飛び出して、自分たちの村を作っちまった。
30人ぐらいの集団だ。維持するのは大変だ。たまには、遠くの方へ出張して旅人とか裕福そうな村とかも襲った。
オレたちの出身地は襲わなかったがな。
そもそも、襲ってもなんにも出てこない。
悲しいかな。
要注意人物としてオレの存在は冒険者ギルドでも有名になった。オレたちは神出鬼没で、正体がわからねえようにしてたから、セーフだったが。
ただ、指名手配は時間の問題だったと思うぜ。
そんなときに現れた二人組。偉そうなガキとヤバそうな雰囲気をプンプンさせた大男だ。
大男は初見でわかった。こいつは武の達人だと。
オーラの出方が普通の人間と全然違う。
だが、本当にやばかったのはガキのほうだ。どうみても体は10歳ちょっとの少年なんだが、中身はおっかねえ、鬼神のようなガキだった。
いや、鬼神か悪魔の類そのものかもしれん。
何しろ、ぶっ放す魔法がとんでもねえ。
魔法一発で半径数十mの穴ができるとこ見たことあるか?空にぶっ放した魔法で地面が大揺れするなんて経験あるか?
しかも、空を飛ぶ。
本当だぞ。
オレたちも神出鬼没で名を売ってきたが、
こいつらは本当に神出鬼没だ。
現れ方が変だ。
村にも突然現れるし、帰るときもあっという間にいなくなるし。やっぱり妖怪かなんかだとオレたちは噂し合った。
だが、物の怪だとしても坊ちゃまはオレたちに恵みを与えてくれた。オレたちの目の前であっというまにだだっ広い畑を作り上げた。森の中でだぞ。
普通なら木一本掘り起こすのに数人で半日がかりだ。それを見渡す限りの広さの森をあっというまに更地にしやがった。
目が飛び出て顎が地面におちるってのはあのことだな。攻撃魔法もおっかなかったが、オレたちは農民の倅だったから、開墾の難しさはよく知っている。
しかも、肉の熟成室とやらをつくっちまった。氷込だぞ。北の方ならいざしらず、この辺りで氷なんて真冬でもめったに見ないぞ。それを惜しげもなくぼんぼんと。魔法ってのは便利なもんだな。
それで、小麦を作れとか牧畜しろとか、もうするしかない。オレたちは大喜びで取り掛かったさ。
狩猟生活、盗賊生活、楽じゃないぜ。地道に働くほうがナンボ楽か、オレたちはよく知っている。
ただ、地道に働きようがなかった。畑がないし、開墾するのは大変だからな。
地道に働きたくないから盗賊やってた、
ということもあるが。
ああ、ガキのことを坊ちゃまというのは、
あんな上品さはそこらの貴族でも見たことがねえ。
王族クラスじゃねえか、って冗談言う奴がいたが、冗談には聞こえねえぐらい、立ち居振る舞いに品がある。
それなのに、オレたちをビビらす肝の太さも持ち合わせている。見かけは10歳ちょっとのガキなのにな。
だから、自然と“坊ちゃま”という呼称が口を出てしまう。坊ちゃまのおつきのランベルトがいつも“坊ちゃま”というから、それがオレたちに移ったということもあるがな。
このランベルトにしても、オレの初見通り、
物凄い剣の達人だった。
動きがまるで見えねえ。
突風が吹いたと思ったら、もう斬られたあとだ。
こいつも物の怪の類いか?
しかも、度量が半端ねえ。
坊ちゃまの度量も凄いが、坊ちゃまは度量というよりも神に近いからな。畏怖の対象というやつだ。
ランベルトは坊ちゃまと比べると人間くさい。
年もおれより上だしな。
大軍の将の器っていうのはああいうのかな。
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