第30話 山賊退治2
「ボス様々だぜ」
「ホントだよな。肉を森で狩ってこいって前はよく言われたけど、狩りなんて簡単にできんての」
山賊たちは、鶏や山羊、牛を飼い始めた。
狩猟が難しいことを彼らは良く知っている。
僕は定期的に食料を提供した。
「しかし、山賊になったはずなのに小麦植えてるってのはウケるな」
「体が勝手に動くってのが怖いぜ」
「子どもの頃はサボってばっかりだったが、この年になって勤労を知るってか」
小麦栽培は問題なかった。
子供の頃からさんざん手伝わさせられてきたのだ。
僅かながら、自分たちの畑もあるしね。
ついでに、野菜も栽培するようになった。
収穫の前に、僕は市場で食材を買い込んできた。
そして、パンの作り方を教えた。
魔道具の使い方なんだけど。
「えらく簡単に製粉できるんでやんすね」
「しかも、王族や貴族が好むという白いパン。本当にこの世にあるんですね」
「最高のパン作りには修練が必要なんだけどね」
肉の熟成も順調だ。
「肉を熟成させる必要があるってのも、寒い地方のことで、ここら辺りじゃ暑くて難しいってのが常識でしたが、この魔道具のお陰ですか。柔らかくて、臭みもなくて、本当に上等な肉になるんでやすね」
一ヶ月もすると、
すっかり安定した運営ができるようになっていた。
みんな、パンと熟成肉に喜色満面だった。
「順調みたいだから、今日はエールを持ってきたよ。樽の中身、全部飲んでいいよ」
山賊は30名ほど。樽は200㍑はある。
「これがエール?これがエールなら、今まで飲んでたのは、馬のションベンでやすな」
「いや、まったくだ。ワインばっかり飲んでエールを馬鹿にする貴族連中に飲ませてやりたいな」
「そんなもったいないことするなよ」
「まったくだ」
みんなたらふく飲んで食べて、
その日は全員つぶれた。
次の日、二日酔いで頭痛の残る元山賊たちを前に
「村長はグストフでいいよね。今後は、武器の練習も行ってよ。普通の村なら、自警団がいるでしょ」
グストフは山賊の頭の名前だ。
「坊ちゃま、村長はあっしでいいんでしょうか」
僕は、いつの間にか呼称が坊ちゃまで統一された。
ランベルトがそう呼ぶからだけど、
僕も王家の一員。
どうしても育ちの良さが出る。
「グストフは山賊の頭だけあって、リーダーシップがあるから。それに根っからの悪人じゃないし」
僕は、1週間ごとに村を視察しにきた。
ランベルトには山賊の剣の指導をしてもらう。
彼は元冒険者Bクラスというだけではなく、
精進して王国でも有数の剣士になっている。
その分、指導は鬼のように厳しいんだけど。
僕もランベルトに力を見せて欲しいと頼んでいる。
彼は僕以上にそこらへんの機微に詳しい。
彼が山賊になったら、
数千人の集団の頭になるかもしれない。
山賊の群れを上手く村経営に誘導できるようだ。
僕は周囲半径50~100km以内の山賊たちを
拳で会話して、
見込みがあるようならこの村に連れてきた。
見込みのない山賊や指名手配されてる悪質なのは、
街の冒険者ギルドで引き取ってもらった。
数年後には山賊村は200人ほどの集団となる。
一度ははみ出した連中である。
気が荒いし、ワガママなことが多い。
しかし、そこは飯の美味さと、
僕とランベルトの拳でねじ伏せている。
それでも急ごしらえの山賊集団だから、
どうしても軋轢が出る。
「わかったよ。じゃあ、トップになりたい人、手を上げて。これからデスマッチを行うよ」
腕に覚えのあるのが8人ほど出てきた。
トーナメント戦を行う。
「一応、僕は回復魔法を使えるけど、殺したりしたらダメだよ。腕とかとれちゃったりしても回復手段はあるから、多少無茶しても大丈夫だけど」
勝ち上がったのは、グストフと
山賊の元頭の一人だったバジーリオという人物。
バジーリオは東隣のボネース帝国の
元百人隊長だった。
博打好きらしい。
二人の闘いは拮抗してなかなか勝負がつかない。
そこで年齢の上のグストフが村長、
バジーリオが副村長ということにした。
「坊ちゃま、お役人が来たらどうしましょう」
「君たち、過去はともかく今は法律に反していないから。ここは君たちの土地だよ。それに過去のことだって、黙ってたらわかんないでしょ?」
無主の土地は開拓したものの私有地となる、
という法律が王国にはある。
一人あたり約10ヘクタールまでだけど。
山賊とかの犯罪者は、貧乏ゆえの部分が大きい。
犯罪は確かに罪であるが、
重大な犯罪を犯していないのならば、
ある程度情状酌量の部分がある。
「仮に理不尽なことを役人が言うようなら、僕に言ってよ。こっそりと相談してくるから」
「坊ちゃまの相談はおっかないね」
「いや、マジでおっかない」
「冗談抜きでおっかない」
ちょっと、怖がらせすぎたかな?
拳で会話するのは好きじゃないんだけど。
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