第24話 清純、美少女の聖女様

「もしもし」


 教会から、とぼとぼと部屋に戻る途中、

 誰かから声を掛けられた。


「ちょっと、お待ち下さい。聖女マリアです。少しお話があるのですが、お時間とれませんか」


 ああ、エメラルドの瞳とピンクシルバーの髪。

 この超美形は記憶にある。

 一度だけ会ったことがある。

 話したことはないけど。

 でも、どうしたんだろう。


「どのような件でしょうか」


「はっきり、申し上げます。ステータス操作の件です」


 僕は咄嗟に彼女を消し去ろうと殺気をみなぎらせた。


「ちょっと待って! 私はあなたの味方よ!」


 彼女は僕の殺気を感じ取ると、慌ててそう言った。

 味方?どういうことだろう。



 僕は気配を消しさって

 彼女と廊下のスミで会話した。


 聖女マリアは有名人だ。

 魔法的にも美貌的にも。

 そんな彼女と話をしているところを

 誰かに見られたくない。

 気配を消し去れば、第3者の目は僕に及ばない。


 彼女は言う。


「貴方がステータスを誤魔化しているのに数年前から気づいていました。そして、その理由ですが、貴方は宮廷からの追放を狙ってますね?」


 驚いた。彼女は鑑定魔法を持っているのだという。

 そして、それを明かしたのは僕が初めてだという。


「私もその計画に乗らせて欲しい。この世界はもう嫌なの」


 彼女の捨て身の発言に僕はうなづくしかなかった。


「わかったよ。でもどうやって?」


「貴方、変身魔法を使えるよね? お城を出ていくとき、私を動物か何かに変えてここから連れ出して。普通では城を脱出できないの」


 彼女、どこまで知っているのか。

 ちょっと鋭すぎないか。

 再び、彼女をどうすべきかと思案していると


「チョッ待って! 気が短すぎ! 私はけっこう使える女よ。回復魔法持ってるし。貴方、苦手でしょ? 私、鑑定持ってるし。あなた持ってないでしょ?」


 なんだか、微妙に口調が変わってきている。


「よしわかった。でも本当に内緒だよ?」


「私も後がないの。一生、城に張り付けられるのはごめんだわ。おかしな話も増えてきたし」



 彼女は結婚適齢期が近く

 うんざりするほどのプロポーズがあるらしいが、

 彼女は貴族が嫌いだと。

 特に次男王子から秋波を送られるのが、

 背筋をぞわぞわさせるらしい。


「あんな醜い社会にいたくないの。それにあなたは私をいやらしい目で見ないしね」


 あのさ、僕の精神年齢は30歳越えてる。

 多分。自信ないけど。

 聖女マリアは14歳。

 子供にしか見えない。

 いやらしい目で見たら、変態だ。



 その後、彼女と軽く打ち合わせをした。

 15歳の成人になる日前後で王位継承権喪失と宮廷追放になり、貧しい領地に追い出されるだろうことを彼女に告げた。


「私の想像やけど、貴方、その途中で賊に狙われるかもね」


 恐ろしいことを言う聖女様だな。

 形・姿は清純な美形の乙女なのに。


「あのね、その位想像できずに宮廷を生き残るのはムリ」


 彼女は断言する。


 僕が毒殺されそうになったことを言うと、


「私なんか、何回殺されそうになったか。だから、毒を消す魔法、覚えてもたわ」


 彼女は段々地が出てきたのか、訛りがでてきた。

 僕は緊急連絡用に、通話のできる腕輪を渡す。


「えっ、なんかラブラブって感じ?」


「僕、年増ムリ」


「何ゆーとんの。二個違うだけやで。年上女房は土下座してでももらえって昔からいうでしょ!」


 そんな話、初めて聞いた。

 ホント、清純な美少女だったのに、

 イメージが狂ってきた。


 もっとも、僕には彼女は年増じゃなくて

 ロリなんだけど。



 彼女と別れてから、

 彼女のことはアルベルトとフィナに伝えておいた。


「あの聖女様にもそんなお悩みが」


 いや、お悩みってタイプじゃないと思う。


 そんなこと積極的に言うようなことじゃないし。

 言うと、聖女様に怒られるような気がするけど。



 何度か、彼女に頼まれて

 いろいろな動物に変身させた。

 一番のお気に入りは猫だった。


「だって、寝てても文句言われないし」


 うーむ。

 少しずつ彼女の性格が読めてきたぞ。

 城や教会が窮屈と言うよりも、

 かなりのナマカワなんじゃないかな、彼女。

 彼女の外面だけを評価してる人多そうだ。


 一度、彼女を毛虫に変身させたら、

 怒ることこの上なし!


「あんたね、やっていいことと悪いことがあるわよ!今度やったら、思いっきりどつくからね!」


 あのさ。

 僕をグーでどついてからそんなこと言われても。



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