第21話 お祖父様の家に遊びに行く5

■ロレンツォ10歳


「美味いエールを作るだと?俺以上のエールが作れるはずがねえだろ」


 エール作成のために、領内のドワーフを呼んだ。

 エール職人として有名な存在だ。


「このエール、飲んでみて」


「は?……なんだ、この香り。フルーツのようじゃないか……うめえ。口当たりもいいが、コクも甘みもある。なんて酒だ。これがエールだって?」


 エールは作成自体は難しいというほどではない。

 何事も同じだが、品質高く、が難しいのだ。


 エール作成の大きな流れは、


 大麦を発芽させる⇒乾燥⇒除根⇒麦芽粉砕⇒

 お湯を加える⇒麦汁を濾過


 領内にいるエール製造に携わるドワーフを呼ぶ。

 工程の細かなチェックを検討するためだ。



「……わかった。俺の過去は一切忘れる。今日から王国一のエールを作ると宣言する」


 ドワーフは頑固であるが、

 自分の対面よりも事実のほうが大事である。

 美味いエールがある。

 それはドワーフには何よりも大切なことであった。


 ドワーフと共に、エール行程の細部まで検討した。

 その結果、次のとおりになった。


 前提として、シャワー室で体を洗い、

 新しい服に着替える。

 余計な菌をもちこまないためだ。


 ①成熟した大麦だけを選別する。

 ②大麦に水を与え、発芽させる。

  水は何度か取り替える。埃などを取り除くため。

  発芽させるのは大麦を麦芽糖に変化させるため。

 ③温風で乾燥させ、発芽を止める。麦芽完成。

  温度によって、ビールの色が決まる。

 ④除根する。

  これは風魔法で根にあたる部分を一気に除く。

  根は不要なものだからだ。

 ⑤麦芽を粉砕する。

  デンプンが糖に効率的に分解されるように。

 ⑥お湯を加えて糊状に温めた後、濾過する。

  この時、酵素がデンプンを糖に分解する。

 ⑦濾過した麦汁に苦味成分を添加して煮沸する。

 ⑧麦汁を冷まし、苦味成分の元を取り除く。


 ここからは、常温発酵をさせるとエールになる。

 冷やして発酵させるとラガービールになる。

 エールとラガーの違いは酵母の違いである。


 発生する二酸化炭素は、

 魔道具でドライアイスにする。


 なお、酵母は小麦エキスで培養する。

 果物などから酵母を培養しても

 個性的な味わいになるかもしれない。



「ハイホー!」


 ドワーフがごきげんだ。

 最初にしては質の高い酒ができたのでは?


 ただ、問題はホップが見つからない。

 そこで、ハープや柑橘類で味の調整をしてみた。

 確かに、ビールではない。

 しかし、いい感じで苦みばしるいい酒ができた。



「東の国に苦くておいしいエールがあると聞くぞ。ドワーフの間では噂の飲み物だ」


 今度はドワーフが貴重な情報をもたらしてくれた。


 調査に飛んでみることにする。

 その結果、ホップがあることを発見した。

 それも数種類のホップだ。


 市場に行っても売ってなかったのだが、

 生産地へ行けば気軽にホップを売ってくれた。

 ここではそこら中にホップが生えているらしい。


 さらに、僕は専用の冷蔵魔導装置を開発した。

 出来上がりのエールを冷やした上で

 マジックバッグに保管する。



「どうでしょうか、もう少しエールの味を追い込んだら、製品化してみますか?」


「おお、そうじゃの。これを飲んだら、ぬるいエールなぞ飲めんな。しかし、けっこう面倒なものじゃの」


「そうですね、お祖父様。基本はそんなに難しくはないのですが、細かい気配りを列挙していくと、どうしてもややこしく見えてしまいます」


 行程の一部を魔道具化して作業の効率を高めた。

 しかし、醸造は繊細なので、

 職人の経験がものを言う場面が多い。


 できれば、全行程を魔道具化したいのだが。



 とりあえず、キンザの街で富裕層向けと

 庶民向けの2店舗を出してみた。


 富裕層向けには、肉の特上部位を提供した。

 庶民向けとして内臓を安く提供した。


 内臓は富裕層にも評判が高く、

 結局、内臓は富裕層にも提供することにした。


 この世界では、冷凍・冷蔵技術が高くないので、

 内臓という傷みの早いものは食べるのが難しい。


「ロレンツォ、凄い勢いで売上が上昇してるぞ!」


 焼き肉レストランは評判を呼び、

 1日50万pほどの売上をあげた。

 キャパいっぱいの売上であった。


 ガルディーニ牧場製品はレストランだけでなく

 肉屋にも卸した。

 高級品として喜ばれたので、

 領内の肉類や乳製品とはバッティングしなかった。


 マヨネーズ、ゴマダレ、タルタルソースも

 人気が集まった。

 特に評判をとったのが、テリヤキソースだ。


 後年、領民も一家に必ず常備する程度には

 人気の調味料となった。

 肉・魚・野菜いずれに使っても美味しくなる

 万能調味料だ。


 キンザは港町だから、

 魚のテリヤキも評判の高い料理となった。

 他のと違って日持ちがするのも人気の出た要因だ。


 テリヤキソース以外は日持ちがしないので、

 一般販売できなかった。

 そのかわり、店ではそれらのソースは

 大変な人気となった。



 お祖父様との話し合いで、

 他領地への出店は見送ることにした。

 他領地へ出店となると、

 どんな横やりがくるかわからないのと、

 お祖父様は王家の一部から睨まれているとの

 感触を持っていた。


 前にも話したとおり、

 僕のお母様の死とお祖父様の事業失敗、

 そして僕の病気は繋がっている、

 そうお祖父様は考えていた。

 3つには毒が共通する。



 焼き肉レストランの出店は見合わせたが、

 肉類と乳製品は流通させた。

 評判を聞きつけた貴族や富裕層が

 こぞって購入していくのだ。

 それらの製品は、

 すぐにでも王国随一の評判をとるようになった。



「ロレンツォよ、これで数年で借金が返せそうじゃわ。爺孝行の孫で誇らしいわ」


 実際、お祖父様は2年で借金を完済したという。



「牛さん、僕らのためにありがとう」


 僕とお祖父様は毎週ティオルマー島の

 パパ平原の事務所横にある牛慰霊塔で

 感謝の念を捧げるのが通例となった。



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