第13話 庶民の生活にショックを受ける

■ロレンツォ9歳


「ランベルト、街の中って思ったよりも貧しい人が多いんだね」


「我々は普段城の中か森にしかいませんからな。庶民の大多数は貧民ですよ」


「ストリートチルドレンとか物乞いも目立つし」


 ロレンツォは当然王族だし子供だ。

 僕にしても日本から外に出たことはない。

 物乞いなんてみたことがない。

 ホームレスだって見たことがないぐらいだ。

 だから、眼の前の光景にはショックを受けた。


「街でこれだと、農村とかはもっと酷い?」


「うーん、どうですかね。確かに裕福じゃないです。でも、少なくとも村では自給自足ですから、それなりじゃないでしょうか」


「じゃあ、村に行けばいいのに」


「結局、村であぶれた人たちが街にやってくるんですよ。職があるかもってね。で、やっぱり街でもあぶれるんですよ」


「ああ、なるほど」


 僕たちは森には毎日のように通い詰めている。

 そして、熟成肉を市場で売って必要な品物を買う。

 これが週1程度だ。

 市場は週1程度しか開かれないから。

 だから、週1のサイクルで街に訪れる。

 どうしても、庶民の生活が目に入る。


 庶民の食事だと、肉はもってのほか。

 固い黒パンと薄い塩味のスープだけ。

 そういうのが普通だ。


 パンだとましなほうかもしれない。

 雑穀のお粥を食べる人もいる。


 日本では雑穀って健康にいいとか言われたりする。

 だけど、例えばオーツ。

 薄い塩味だけのオーツ粥にする。

 これを主食にできる日本人はどれだけいるだろう。

 健康やダイエットのためとかで理由をつけないと、

 ほとんどの人には常食は難しいと思う。


 特に目立つのが街なかの子供たちだ。

 ストリートチルドレンが多い。

 ストリートチルドレンとは露頭生活者の子供だ。

 孤児もいるし、

 仮に親がいてもほったらかしにされている。



「手を差し伸べて上げたいんだけど」


 かっこよく言うと、ノブリス・オブリージュ

 という奴だ。

 眼の前に困っている人がいる。

 助けてあげたいと思うのは自然じゃなかろうか。


「坊っちゃん、幼い子供はともかく、ある程度、そうですね、12歳ぐらいになったら、必要なのは自分で稼ぐ能力と実際の仕事なんですよ」


 これはアルベルトの弁だ。

 彼の父は騎士爵だった。

 貴族階級としては一番下であり、

 一代限りの名誉職でもある。


 彼は幼い頃から父親から厳しく鍛えられた。

 自分のスキルこそが身を立てる証になるのだから。


 アルベルトの父は彼が10歳のときに戦死した。

 母も夫の後を追うように病死した。

 彼は僕のお祖父様、母上の実家に引き取られた。


 アルベルトはそれをよしとせず、

 12歳になると冒険者になってしまった。

 決してお祖父様たちと対立したわけじゃない。

 独り立ちの意思が非常に強かったのだ。


 そんなアルベルトだから、

 悲惨な境遇の子どもたちにシンパシーがあるし、

 そして、彼らがどうすべきかなのかを

 非常によく理解している。


「口を開いていたら誰かが餌を運んでくれる。そういう境遇に甘んじてしまうと、人間が駄目になります。ましてや、不幸な境遇の子供ならね」


 ああ、それは僕でも理解できる。

 金持ちとかは善行のつもりで援助しまくる。

 言葉は悪いが、恵んでやる、というわけだ。

 優越感が背後にある。


 援助される側はいつしかそれが当たり前となる。

 既得権益と勘違いしてしまい、

 援助がなくなると怒り出してしまうぐらいだ。



「じゃあ、どうすればいい?」

 

「まあ、私が授けることができるのは、剣の腕。それから、冒険者としてのイロハぐらいですが」


「うーん、じゃあ僕は最低限でも魔力が発現するよう指導してみようか」


 魔法が当たり前の世界ではあるけど、

 庶民レベルでは決して魔法は当たり前ではない。


 魔法は才能も必要であるとともに、

 教育が必要なのだ。

 そして、庶民には特に教育が欠けている。


 僕たちはその欠けているものを

 補うつもりだが、

 うまくいくだろうか。



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