第10話 ご飯をなんとかしてほしい3 揚げ物

■ロレンツォ9歳


「お坊ちゃまたちが外で狩りをしてくれるおかげで、このところ食材が増えましたね。量も種類も」


 僕たちには一応王宮から食材が一定量回ってくる。

 それと、食材費も与えられている。

 これで市場で直接食材を購入するのだ。


 さらに、僕たちは肉類を売ったお金で

 野菜や穀物を購入している。

 この国は割合温暖で、雨も適度に降る。

 だから、比較的食材が豊富だ。


「お肉の質も物凄くよくなりましたけど、野菜の種類が豊富でいろいろな料理が楽しめて嬉しいです」


 この世界での料理方法は、焼くか煮るしかない。

 僕はこれに油で揚げるというのを追加した。


「特に、フライドポテト。あのジャガイモにこんな料理方法があるなんて」


「おにいさま、私もフライドポテトだいすき」


「ロレンツォさま、フライドポテトは手が止まらなくて困ります」


「ジャガイモは貧民の作物だが、そこに油で揚げることで素晴らしい一品になる。さすがは古代書ですな」


 僕の料理知識はすべて古代書由来としている。

 もちろん、日本での素人料理知識だ。


 王国では地面の下にある植物は格下に扱われる。

 じゃがいもが最たる例で、

 ジャガイモは王国では貧民しか食べない。

 いろいろと食の優等生なんだけど。


 王国ではジャガイモは煮て食べられていた。

 スープの具材とか蒸し芋とか。

 そこに僕は揚げることを導入した。


 この世界では油は高級品だ。

 手に入りにくいというほどではないが、

 庶民レベルだと購入するのはためらわれる。

 そんなポジションである。


 その高級品である油を惜しげもなく使って

 ジャガイモを揚げていく。

 貧民用のジャガイモが高級料理に変身するのだ。



「ジャガイモに溶かしバターを振る舞っても美味しいよ」


 バターはさらに高級な食材になる。

 ただ、新鮮な牛乳があれば自作できる。

 牛乳を密閉容器に入れて振るだけなんだ。


「高級なバターをジャガイモに振る舞う、なんだか徳に背いてる感じがします」


「フィナ、ジャガイモは食の優等生らしいよ。育てやすくて栄養が豊富で、この通り美味しい」


「我々はジャガイモを見くびりすぎたということですか」



 ジャガイモだけじゃない。

 前世でも主力となる野菜はこの世界にもある。

 玉ねぎ、人参、ジャガイモ、カブ、キャベツ、

 トマト、ナス、きゅうり、ピーマン、大豆、

 ニンニク、香辛料、各種オイル

 といったところだ。


 ああ、これらの野菜とかは前世のとは微妙に違う。

 というか、似た野菜に前世の名前をつけただけだ。

 実際は王国での呼び名がある。


 やっぱり、保存しやすい野菜が多い。

 痛みやすいのは流通にのってこない。

 それと、前世日本と比べると野菜は癖が強い。


「テンプラっていうんですか?野菜を油で揚げると本当に美味しくなるんですね」


 正直、テンプラは難しいので僕の腕では

 料理屋さんみたいな味は出せない。

 分厚い衣にドボドボ油という田舎料理になるけど、

 それでもこの世界では出色の料理になる。


「ナスなんて見向きもしなかったですけど、テンプラにするとこの通り」


「ニンニクをたっぶりオリーブオイルで炒めたものをパンに付けるとこれまた美味」


「ああ!ホント!」


「だけどさ、揚げ物料理はほどほどにね。食べすぎると健康に良くないし、太りやすいからね」


「えー、おにいさま、いじわるすぎますわ」


「そうです、悩ましすぎます」



 そのニンニクオイルで手が止まらなくなるパン。


 王家クラスだと、管理された小麦粉を使う。

 つまり、石などが混入しておらず、

 未熟な小麦を弾いてある。

 小麦の皮も取り除く。


 そうした小麦粉を使うので、

 庶民の食べるパンよりも色は白いし、

 きめ細かい。

 だが、そのようなパンは高価で、

 僕たちのところまで回ってこない。


 そこで、僕たちは小麦を市場で買い、

 自分たちで製粉している。

 勿論、魔法で。

 そんなに難しくない。


  ①石や未成熟な小麦を弾いて、

   しっかりした小麦のみ選別する。

   この段階で庶民のパンと大きな違いが出る。

  ②小麦を水に濡らす。細かくしやすいからだ。

  ③小麦を細かく製粉する。

   製粉は僕の風魔法で。

   王国で使われる臼よりもきめが細かい。

  ④あえて、表皮を残す。

   栄養が詰まっているからだ。

   全粒粉という粉になる。

   ただ、表皮は青臭いことが多い。

   膨らみにくくさせる酵素も含んでいるという。

   だから、熱処理を加えている。


 こうした手順を踏む。

 魔法の精緻なコントロールが身につく。

 ポイントは何よりも余分な物を取り除くこと。

 どんなに素晴らしい製粉をしても、

 砂粒一個で台無しだ。

 

 製粉は熱を出さないことと、

 真空状態を意識している。

 酸化して品質が劣化するからだ。


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