第9話 ご飯をなんとかしてほしい2 熟成肉

■ロレンツォ9歳


 少し話がずれたけど、僕に必要なのは?

 なんといっても、食卓の改善。

 フィナたちには古代書にかかれてある、なんて

 嘘をついているんだけど、

 勿論、日本で得た知識だ。


 僕達は、食材を近くの森の中で狩っている。

 鹿、キジ、カモといったところだ。

 探査魔法と飛行魔法で、

 数キロの距離ならばすぐに獲物を見つけられる。


 気配を消してそっと近づき魔法で一発でしとめる。

 僕は魔法を使うが、

 狩りの上手なのはランベルトもフィナも同じだ。

 ランベルトもフィナも弓一発で仕留める。

 フィナは魔法を使うことも多い。



「冒険者は植物採取か獣を狩ることから始めますからね」


 ランベルトは元冒険者だから

 狩りの得意なことは納得できる。


「お坊ちゃま、地方の貴族は狩りをしないと食卓が貧相なんですよ」


 フィナは地方の貴族出身だから狩りは日常らしい。

 領民から譲ってもらうこともあるが、

 そもそも量が少ない。

 狩りをしないと、食卓にはパンと野菜スープだけ

 になってしまう。



 狩った肉は森の中に建てた熟成室に放り込む。

 熟成室は地面に穴を掘り、底に横穴を作る。

 氷魔法で氷を置いて、

 魔道具で常時軽く空気の対流を起こす。

 土の中だから、湿度は適度にある。


 鳥系ならば半日程度、豚系ならば、2~3日程度、

 牛系ならば、10日程度の熟成期間を置く。

 もちろん、血抜きした上で。


 前世日本でもジビエブームとか言われてたけど、

 野生の動物は熟成しないと固くて食べられない。

 筋肉質で脂が少ないからだという。


 魚も同じだけど締めるときは苦しませずに一気に。

 そして、血抜きを完璧に。

 そうしないと、臭みが出る。


 この熟成室、

 この世界的にはかなり進んだ設備だ。

 この世界では一般的に

 肉を保存するのは干し肉か塩漬け肉になる。

 熟成させる、という意識はほとんどない。

 そういう意識があるのは、ほんの一部の狩人

 ぐらいなものだ。


 あと、日本人的な感覚かもしれないが、

 小屋の隣に動物の慰霊碑も建てた。


 熟成させた肉を焼く場合、

 大事なのはジューシーさを失わせないこと。

 肉を中~低温でじっくり焼き、

 肉汁が出るようになったら一旦下ろして

 予熱で熱を内側まで浸透させる。

 

 それと、焼く前に塩を振るわけだけど、

 焼く前にキレイに拭き取る。

 塩は味付けの意味と

 肉の表面の水気を外に出す働きがある。

 

 胡椒は焼いたあとに振る。


「お坊ちゃまに言われた通りに調理してみましたけれど、すっごくジューシーで味が格段によくなりました!」


「坊っちゃん、そもそも熟成肉が素晴らしいですね。目から鱗の美味しさじゃありませんか!」


「おにいさま、お肉がくさくなくておいしい!」


「これが本当のお肉の味なんですね!」


 熟成肉と低温焼成方法は絶賛の嵐だ。


「さすが、古代書様です!」


 古代書の嘘は今後も使えるね。


 ◇


「坊っちゃん、毎度当店をご贔屓頂きありがとうございます」


「いいえ、こちらこそ、毎回高く買ってくれてありがとうございます」


 熟成させた肉は自分たちで食べるだけじゃない。

 市場で売ったりもしている。

 森で手に入らない食材を買うためだ。

 すぐに僕の肉を評価してくれる人が何人か現れた。


 その中で信用できそうな人と数人取引している。

 基本的に商人はこちらを騙そうとしてくる。

 特に、僕が子供だと見ると露骨に嘘をついてくる。


 あんな嘘で騙せると思っているのが不思議だ。 

 この時代の人達は素朴な人が多くて、

 ミエミエの嘘でも簡単に引っかかってしまう。


 その中で信用できそうな商人と取引するのだけど、

 やっぱり心底信用することはできない。

 気をつけていないと、騙される。


 商人たちは騙されるのが悪い、という感覚だしね。

 何か商売をゲームのようにとらえている。


 もっとも、商人だって大変だ。

 農村などへ買付にいく。

 小麦に石を混入させて重さをごまかしたり、

 小麦袋の半分は雑穀であったり。



 僕は身分を隠しているし、軽く変装もしている。

 でも、どうしても振る舞いに育ちが現れてしまう。

 だから、貧乏貴族の息子、ということにしてある。


「坊っちゃんの持ってくる肉は、高級肉として取引できますからな。なんであんなに美味しいのでしょうね。北のほうだとこういう肉があると聞きましたが。いや、探るという意味ではありませんよ。単純な疑問ですよ」


「それに皮の状態からも察せられますが、ベテランの猟師が狩ってくるんでしょうか。傷みが殆どありません。氷がついているのも驚きですね」


 探りを入れても無駄だよ。

 僕が狩ってくるんだから。


 この世界でも肉の熟成は行われている。

 しかし、熟成するために適した洞窟は

 もっと北のほうにある。

 零度近い低温でないと、

 むしろ臭みがでてしまうからだ。


 さらに、南の土地まで運ぶのが難しい。

 暑いし、道路が全く整備されていない。

 輸送費が非常に高価になる。


 それに、多くの人はそこまでの味を肉に求めない。

 血抜きにも神経を注がない。

 肉というだけで満足してしまう。


 下手すると、臭いから旨いという人もいるのだ。

 肉バンザイの世界なのだ。



 この世界で肉の処理方法では、熟成は珍しい。

 まず、乾燥。

 これは肉だけじゃない。

 穀物も果物もステップ1が乾燥であることが多い。


 そして、次は塩漬け。

 長期保存に向いているからだ。


 燻製もよく使われた方法だ。

 酢やレモンに浸すことも多い。

 ピクルスが代表だけど、

 肉でも“酸洗い”は行われた。



 つまり、肉は臭い、塩っぱい、固い、酸っぱい。

 前世日本の記憶があるだけに、

 この世界での肉食はキツイものがある。


 だから、僕の熟成肉は

 この世界ではとびきり上等な肉になる。



 こうして食材の改善から始まり、

 料理方法もフィナと一緒に研究していた。

 僕もムリいって台所に入っているのだ。

 古代書の実践研究だとか言って。

 すると、僕の料理スキルもどんどん上がってきた。


 僕の料理スキル、一人前のシェフなみか

 ひょっとするとそれ以上になってるかもしれない。

 僕のスキルはかなり上がりやすくなっている。


「お坊ちゃまの指導が入るようになって、私の料理スキル、格段にアップした気がします」


「気ではありませんよ、フィナの料理、とってもおいしくなりましたわ」


「私もお肉あんまり好きじゃなかったけど、料理がずっと楽しみになりました」


「ですな。私も30年近く肉を食べてきましたが、こんな美味しいもんだとは思ってもいませんでした」


 僕と一緒に料理するフィナも

 どんどん料理スキルが上がってきた。

 もともと料理の上手なフィナであったけど、

 僕の前世の記憶とかも取り入れることで

 一流シェフ並になってきた。


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