第6話 妹 セリア
父である王には子供が5人いる。
男4人、女1人。
その中でロレンツォと妹は母親が同じで、
あとは母親が違う。
辛いことだけど、
ロレンツォが6歳、妹が5歳のときに
母親が突然なくなった。
原因は不明だけど、毒殺が疑われている。
ロレンツォもかなり落ち込んだのだけれど、
妹の落ち込みようはひどかった。
1年ほどは精神が非常に不安定で、
ロレンツォ、アルベルト、フィナの三人は
しっかりバックアップした。
ロレンツォも悲しかったのだけど、
妹を支えなくちゃ、という気持ちが強くて、
ロレンツォの気持ちがかえってしっかりした、
というぐらいだ。
ようやく妹の気持ちが癒やされたときに
ロレンツォの眠り毒事件が起こった。
妹にとっては気が気でなかったろう。
ロレンツォは妹の事実上の唯一の肉親なんだ。
そのロレンツォの役割を僕が受け継いだ。
今でも妹は一人でいることを非常に嫌がる。
急遽呼び寄せた侍女のローリアが
セリアのいいお姉さん役を努めている。
最低でも侍女ローリアと一緒にいるし、
できれば僕と一緒にいたがる。
ただ、ロレンツォの心もケアする必要がある。
ロレンツォは死んだわけじゃない。
僕の心の奥に眠っているのだ。
その魂は母親の死から開放されていない。
いくら天才だと言っても心は幼いのだ。
しかも、母の死の痛手を負ったまま、
ロレンツォは眠りについてしまった。
そして、ロレンツォの心の傷みは
徐々に僕の心と混ざり合ってきている。
つまり、母親の死への傷みを
僕も共有しつつある。
この気持ちをどうにかしてケアしなくては。
◇
魔法の練習もいろいろな勉強も僕とセリアは
極力一緒に行ってきた。
今は僕が先生になっているけど。
でも、僕たちが森にいくようになってからは、
流石にセリア達を同行させることができない。
「Gよりきもちの悪いものがいるらしいけど、わたしもそろそろ森を見てみたいわ」
セリアは少しずつ幼さから脱却してきた。
「それには前から言っているように武道や魔法の発現を頑張らなくちゃ」
「うーん、がんばってるんだけど」
日中は僕とアルベルトが森へいくため、
セリアはローリア・フィナといっしょにいる。
フィナは僕たちに同行することも多いが。
セリアたちは遊んでるわけじゃない。
一緒に勉強したり素振りとか。
王国は女子も武術の稽古をする。
「おにいさま!私、聖まほうをつかえるようになりましたわ!」
ある日、僕たちが森から帰ると、
セリアは喜色満面の顔で僕にそう報告した。
「おお、凄いじゃないの。セリアって8歳になったばかりなのに」
「坊っちゃんも魔法が発現したのが去年、8歳のときです。さすが、兄妹というべきでしょうか」
魔法は通常は10歳以上でないと発現しない。
「で、属性は?」
「せいだって」
「聖魔法か……」
「えっと、あんまりよくない?」
「いや、良くないどころか、良すぎるんだよ。だからね、ふつうならすっごく喜ぶところなんだけど……」
僕たちが微妙な顔をしたのには理由がある。
よりによって聖魔法はまずい。
教会案件だ。
王族といえども、教会がすっ飛んできて、
教会で働くことを強要される。
僕以上に、能力を隠さないといけない。
王国では3つの権威がある。
王族・貴族。
ギルド。
それから教会。
どれも馬鹿にできないのだけど、
特に教会は王国の枠を超える。
「セリア、わかるでしょ?聖魔法は良すぎるから、教会の人たちがやってきて、セリアを教会に連れて行っちゃうんだ」
「教会へ?ここにかえってこれないってこと?」
「そうなんだよ」
「えー、ぜったい、いやだ」
「だからね、絶対にばれないように。でも、聖魔法自体はすっごい目出度いことだから、これからも魔法の学習を進めていこうね」
「はい、わかりました」
◇
聖魔法の根幹は回復魔法だ。
セリアはまだ回復魔法を発現していない。
発現したのは清浄魔法だ。
いわゆる生活魔法と言われるものだ。
生活魔法は若干軽く見られがちだ。
しかし、清浄魔法は高度になるにつれ
非常に精緻な魔法コントロールが必要となる。
表面的な清浄ならば初級で十分だ。
でも、まるで洗濯したようなレベル、
或いはお風呂に入ったようなレベル、
そういうレベルに達するには
並以上の技術力が必要なのだ。
セリアは既に初級清浄魔法を越えつつある。
やがて上級清浄魔法に達するだろうし、
回復魔法もすぐに発現するのではないか。
僕といいセリアといい、魔法の才能は、
母親から受け継いだのだろう。
母はその美貌も並外れていたが、
魔法も人並み以上だった。
その反面、父である王は魔法は凡庸だ。
いや、それは厳しすぎる評価か。
王はさほど魔法力が劣っていない。
王という地位にその魔法力が見合っているか。
そう問われると、少しだけ疑問がつく、
という程度だ。
僕以外の3人の息子は魔法は平凡である。
まあ、王族として恥ずかしくない程度だ。
決して、誇れるようなレベルではない。
若干、次男の魔法力が優れているぐらいだ。
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