第4話 城での日常 死んだふり作戦2

「困ったな。発音を訂正するにしても、僕の発音のどこが悪いのかわからない」


「お坊ちゃま、無詠唱を試みてくださりませんか。威力が極小になるだけで、無詠唱はそれほど難しいものではありません」


「わかったよ。じゃあ、無詠唱でって、そんな簡単にいくわけないでしょ」


 と思ったら、簡単にいけた。

 石に囲まれた練習場で訓練を行っていたのだけど、

 指の先から突風が吹き荒れたのだ。


 イメージをしっかり持てば、

 詠唱を暗唱することで魔法を発動できる。


 暗唱は一瞬だからな。

 何しろ、詠唱文句が頭脳に焼き付いている。

 暗唱というよりも文句を思い出すだけで、

 魔法も瞬時に発動できた。


 確かに、詠唱してたら実際の戦闘では問題がある。

 ゲームだって、詠唱時間に攻撃されたりしてた。

 実際だったら、大変だ。


 初級ならまだしも、上級とかだと

 詠唱するのに1分ぐらいかかるのがある。

 そんなの、実戦だったら戦闘が終わってるか、

 やられて死んでるか。

 そんなのになりがちだ。

 使い所がかなり限定される。



 でも、風魔法のお陰で部屋の中がぐちゃぐちゃだ。

 そよ風程度の呪文のはずなのに、

 突風が吹き荒れてしまった。


「お坊ちゃま、無詠唱の威力じゃありませんよ。驚きました。魔法上級者のようですね」


 無詠唱は通常、威力が出ない。

 まず、大変な修業が必要だ。

 そうして魔法上級者になったものが、

 ようやく詠唱と同程度の威力を身につける。


 あれだろうか。

 次元渡りの特典って奴。

 異世界転生に成功したものは、

 稀なる力を得ると聞いたことがある。


 それとも、単にロレンツォが

 類稀なる魔力の持ち主ということなんだろうか。

 知力は天元突破している。

 それは間違いない。

 知力も魔法発動時には非常に重要だ。

 その知力が魔法の威力をサポートしたのだろうか。


 ◇


 午後からは図書室にこもり、読書三昧。

 城の図書室にある本はすでにすべて読破している。

 今やっているのはほぼ記憶の確認作業と、

 新たな発見をするためだ。


 新たに追加された本もある。

 ページを開くとそのまま頭脳に光景が焼き付く。

 これ、なんとかっていう才能だな。

 映像記憶能力か。

 さすが、天才ロレンツォだ。

 前世のときは、英単語一つ覚えるのに

 四苦八苦だったのに。


 ◇


「お坊ちゃま。もう私には教えるものがありません」


 フィナの授業は半年ぐらいで終了した。

 風魔法がどんどん発現していき、

 フィナの教える魔法がなくなったからだ。


 そもそも、フィナの得意魔法は水魔法。

 対して、僕には水魔法の才能があまりない。



「では、坊っちゃん。私と森で修行しますか」


 得意魔法を伸ばすために

 僕は実戦レベルに移行した。

 ランベルトと森に行くことにしたのだ。

 城を抜け出すときは、秘密の抜け穴を使ってね。


「坊ちゃまの魔法は威力が凄いですな。ただの初級魔法が中級魔法のように見えます。しかも、無詠唱でこの威力。天才としか言いようがないです」


 イメージが強いのか、前世の知識ゆえなのか。

 前世の物理法則の知識が役に立っているのか?


 しかも、ランベルトはすぐに僕をおだてる。

 いいぞ、もっと褒めてくれ。


「坊ちゃま、褒めてるんじゃありませんよ。誰だって坊ちゃまの才能には驚きますぞ。私など、剣はともかく魔法には散々苦労しましたからな」


 ランベルトは剣が凄腕だった。

 僕は魔法はともかく、剣はちょっと分が悪い。

 いや、ちょっというかかなり分が悪い。

 刃をつぶした小剣を使うのだけど、

 剣を振ってもヨタヨタしてしまう。

 

「坊ちゃま、剣はゆっくり体力をつけてからですな」


 まだ8歳だし。

 時々、侍女のフィナも剣の練習に混ざるが、

 彼女にも負けるのは悲しい。


「お坊ちゃま、すぐに私なんか抜き去りますよ」


 慰めてくれるフィナ優しい。

 フィナは侍女とはいえ、男爵家3女だ。

 一通りの教養・武芸は身につけている。



「おにいさまだけずるい。わたしもおそとにでたい」


「セリアさまはもうすこし魔力の勉強を頑張りましょうね。魔力が発現したらお外にいけますよ」


「えー」


「セリア様、お外はとっても危険なんですよ。G以上に怖いものがたくさんいるんですよ」


「え、うそ。じゃあいくのやめる」


 Gとは黒くてカサカサ動くあれだ。

 セリアだけじゃなくて苦手な人がいっぱいいる。


 ◇


 魔法の練習と同じくらい大事なことがある。

 食料の調達だ。


「料理はフィナがやってくれるとして、材料はどうしよう」


「城のものは信用できませんから、自分たちで調達するしかないですな」


「森で訓練がてら、狩猟してやりくりしましょう」


 ランベルトは元B級冒険者で狩猟はお手の物だ。

 フィナも実家は田舎で狩猟は

 老若男女関係なくみんなで行っていたという。


 僕も貢献できればいいんだけど。



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