第3話 城での日常 死んだふり作戦1

■ロレンツォ8歳


 毒殺未遂後、執事ランベルトらの忠告もあり、

 死んだふり作戦を遂行中。


 それにしても、僕は転生の混乱もあまりなく、

 あっという間にこの世界に適応している。

 こんなにできる奴だったのだろうか。

 いや、ロレンツォの頭脳が桁外れだからだろう。


 それと、ロレンツォは死んでいない。

 僕の心の奥底でひっそりと眠っている感じだ。

 頭脳と記憶は僕に受け継がれた。

 感情は眠ったままだけど、

 ゆっくりと僕の感情と混ざり合っている感じだ。



 さて、僕は王家の三男だけど、

 城の離れに妹とともに住んでいる。


 使用人は3人。

 ランベルト、フィナ、そして

 セリア専属侍女のローリアだ。

 3人共使用人という立場だけど、僕の親戚だし、

 家族同然の存在だ。


 料理はフィナが作ってくれる。

 これは城からほっとかれているというのが一つ。

 僕たちも城の中心から離れたいというのが一つ。

 料理には、眠り毒を入れられ続けたからね。


 朝食は僕と妹、3人の使用人の5人で食べる。

 僕が目覚めた当初は僕と妹だけで食べていた。

 でも、味気なかったので、

 ランベルトたちも一緒に食べるようにしたのだ。


 いくら親戚の3人といえど、僕たちは王族の末席。

 3人には抵抗されたけどね。

 


 朝食の前には軽く朝の散歩の時間がある。

 朝6時頃に起床、僕たちの住んでいる離宮の庭を

 てくてくと歩くだけだけど。


 それだけでも病み上がりの僕にはきつい。

 同行するのは妹とランベルト、ローリアだ。

 二人は僕たちの護衛目的もある。

 その間にフィナが朝食の準備をする。


「おにいさま、あさのさんぽっていいですね」


「そう?僕は朝弱いし、結構キツイんだけど」


「坊っちゃん、病み上がりだから少しずつ体をならしていきましょう」


 これはランベルト。

 まだ28歳の美青年だ。


「セリアはキツくないの?」


「たいへんですけど、おはだがきれいになるんですよ」


 セリアは7歳なのに、とてもおマセさんだった。


「おぼっちゃま、そうなんですよ。朝食もおいしくなりますし」


 そう言うローリアはまだ12歳だ。

 前世でいえば小6か中1。

 僕と妹から見れば随分とお姉さんなんだけど、

 僕には前世の記憶がある。

 その僕から見れば彼女はまだまだ子供っぽい。


 なお、ローリアは新人侍女だけど、

 母上の親戚で花嫁修行にきている。

 王国では若い女性は上位の家に修行にいくという

 習慣がある。


 フィナも12歳からお城で働き始めている。

 彼女は男爵家三女で一通りの教育がある。

 普通は3年程度でお勤めを終えるんだけど、

 フィナは花嫁修業でうちにきて

 そのまま居着いてしまった。



 軽く散歩してから朝食だ。

 メニューは王族とはいえども実にシンプルだ。

 パンと薄い野菜スープの2品である。


 パンも小麦パンじゃない。

 黒パン、ライ麦パンだ。

 食べ慣れていないせいか、食が進まない。


 ◇


 さて、朝食後でものんびりしている暇はない。

 生き残り競争が始まっているのだ。

 少し休憩をはさんで午前中は魔法と座学の勉強。

 先生はフィナ。

 生徒は、僕、セリア、ローリア。


 フィナの授業は魔法学が中心。

 初心者編から。

 初心者は魔力を感知することから始める。


 ただ、僕には既に魔力が発現してた。

 魔法の発動はまだできないけど。


「ふつう、魔力の発現は早くても10才ぐらいです。そんなに早く才能を見せたら、警戒されるのは当然です」


 フィナの言うとおりだ。

 天才すぎるのは不味いのだ。

 だから、僕の魔力発現は城的には内緒にしている。


 セリアは一生懸命に魔力感知の練習をしている。

 ローリアはすでに魔力を発現しており、

 セリアにつきそって魔力増強の訓練をしている。


「セリアさま、私の手を握ってください」


 ローリアは体内で魔力を循環させ、

 それをセリアに感じさせようとしている。

 魔力感知のためには有力な方法だ。

 ローリアも魔力増強の練習になる。


「体の中に暖かいものを感じませんか?」


「うー。ローリアのてのあたたかさだけ」


 セリアの魔力感知はまだまだ先の話のようだ。

 そもそも10歳前後で魔力を感知し始めるのだ。

 それでも、地道に訓練を重ねる。



 僕は次の段階。

 魔法の発動だ。


「お坊ちゃま、正しい魔法のイメージと正しい詠唱。魔法の発動にはこの2つが大切です」


 魔法のイメージと正しい詠唱。

 詠唱は映像記憶能力ですぐに頭に刻み込めた。


  土魔法 石礫 小石を飛ばす

  水魔法 ウォーター水を出す

  風魔法 ウィンド 風を吹かす

  火魔法 ファイア 種火をおこす


 イメージも、初級ならば難しいことはなかった。

 風を吹かすとか小石を飛ばす、なんて

 誰でもイメージできる。


 だけど、なかなか魔法が発動しない。


「正しい魔法のイメージと正しい詠唱。正しいつもりなんだけど、魔法は発動しないね」


「おかしいですね。初級魔法ですから、イメージが難しいことはありませんし、詠唱も完璧に聞こえますが」


 ひょっとしたら、と僕は考えた。

 僕はこの世界に来てから人との会話に

 不自由したことはない。

 ロレンツォならわかる。

 でも僕は?

 こてこての日本人というか異世界人だぞ。


 翻訳スキルが備わっているのかもしれない。

 なろう系だと、そういうのが多いぞ。

 翻訳スキルによって、

 人の耳には発音は正確に聞こえているだけで、

 本当は、言葉を正しく発音していないのか?



―――――――――――――――――――――――

ブックマーク、ポイント大変ありがとうございます。


励みになりますm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る