第13話 犯人の正体



「ナエ後輩先輩を蘇らせないため? どういう意味ですか?」

 頭のヴェールを揺らし、首を傾げる詩歌。


「敵意が無いなら、こんなことはしないハズなんだよ。仮に、詩歌が宝珠を手に入れたとするだろ? そしたらどうする?」

「それは……みんなに伝えますね! 全員生還の手段を手に入れたんだから! 叩き割りたい衝動を抑えて」


 今、最後に何か聞こえたな?

 けどここはスルーしよう。


「そうなんだよ、詩歌。転生の宝珠は、オレたちに利のあるアイテム。手に入れたことを隠す意味が無いんだ」

「なwるwほwどwなw つまり、宝珠を隠し持ってることこそ、デスゲームを肯定する側の仕草ってワケか」

 クスネは下品に笑い、宝珠の宝箱を足蹴にする。


「無名クン、それならどうするんだ? 持ち物検査でもしてみるか?」

「それには及ばない。妨害が目的なら、手に入れた時点で処分してるハズだ」


「でもアンリくん、『みんなに報告するつもりだったけど言えずじまいだった』ってパターンもあるんじゃ?」

「そうだな、詩歌。でも、それがあり得るのは、夢丘ナエしかいないんだ」


「なるほど! つまり──」

 意を得たかのように頷く詩歌。

 お、分かってくれたようだな。

 伊達に語学堪能なワケじゃない。理解が早くて助かるぜ。


「つまり、どういうことですか? アンリくん!」


「秀才設定どこ行った!?」

「冗談ですよ、アンリくん♪ ちょっとからかいたくなって!」

「この野郎〜!」


「分かってますよ♪ 犯人はアンリくんの全員生還計画を聞いて、復活アイテムを葬ったんですね! しかもこの手際、グリッチ利用しかありえません!」


「オレ以上に詳しく推理しないでくれる!?」

 秀才設定出し入れすんな!

 いや、別にいいけど!


「となると、アレも怪しいですよね! ナエ後輩先輩がうんこに囲まれてたヤツ」

「岩蛇な」

「確かになw 蘇生を対策するってことは、誰かを殺す算段してたってワケだ!」


「ああ、そうだ。このゲームは不条理だ。だが、そうそう無いんだよ、あんな数のモンスターがプレイヤーを囲むなんて。」 

「無名クンはそれも、犯人が仕掛けたって言いたいワケだ」

「それに、洞窟の宝箱も、初期ダンジョンにあるようなものじゃ無いんだ」

「確かに、クソみたいな火力してましたもんね!」

 オレは無言で頷く。


「夢丘ナエの死は、事故じゃなく他殺──オレはそう思っている」


「以上をまとめると、この三人の誰かが犯人ってワケだなw 無名クン」

「じゃあ、クスネちゃんが怪しいと思います! 詩歌は!」

 手を挙げて発言する詩歌。


「あァ!? 何言ってんだよ、うんこ女!」

「だって、めちゃくちゃ怪しいじゃないですか!」


 唐突な脳筋推理!

 けど、方向性は間違ってない。


 極論、この一件はグリッチを使えば、誰にだってできる犯行。

 争点は、宝珠入手のため充分な時間があるか。

 アリバイがある詩歌とオレはシロ。

 逆に、クスネは終始姿を消していた。

 彼女を疑うのも筋が通ってる。


「おれじゃねえ! そもそも、ナエがピンチなのがおかしいんだよ! 岩蛇ごときで苦戦するなんて──」

 ナエがピンチなのがおかしい?

「それ、どういう意味なんです?」


「勉強不足か? 無名クン。ナエは元々、この『DRAGON SWORD』の実況でバズったんだ。それ以来、配信でも定期的にプレイしてる。グリッチ使うプレイだってしてたぜ? そんだけやりこんでんだ。だから、ありえねえだろ、雑魚モブでピンチなんか」


 刹那──

 オレの脳内で繋がった、全ての違和感が。


「夢丘ナエ殺しの犯人は、夢丘ナエ自身だ」

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