第11話 転生の宝珠

「だが、詩歌──お前はここでゲームを降りろ」


 迷宮の最終フロア。

 消滅していく第一のボス。

 それを横目に見ながら、突き当たりの扉を示した。

「あそこを潜ればこのエピソードはクリア。そうすれば、きっと第1のデスゲームは降りれるハズだ。だから──」


 言い終わらないうちに駆け出す詩歌。

 それでいいんだ。

 そのままゲームを降りてくれ。


 組み上げた攻略手順には危険が伴う。

 だから、詩歌には同行させられない。

 ここから先はオレが──

 オレ一人が命を賭ければいい。


 その時、

 何かがオレの腕にしがみついた。

 それは──


「詩歌! お前、どうして? 危険性はさっきあれほど説明しただろ!」

「No kidding. 何言ってるんですか? 同行しますよ、私は、危険なところこそね♪」


 イタズラっぽく笑う詩歌。

 ああ、そうだったな。

 コイツは、そういうやつだった。


「死ぬ時は一緒に死にましょうね! アンリくん♪」


「しょうがねェな、お前は」

 オレは詩歌の手を握り返した。

「でも、オレがやろうとしているのはグリッチ──バグを利用した裏ワザみたいなものだ。ミスればオブジェクトに挟まって、身動き不可。実機ならリセットすればいいけど……」


「今はデスゲーム。ミスれば動けなくなって死ってことですね?」

「でも複数人なら、失敗した時に救出できる。失敗をケアするため、どうせならもう一人くらいいたらいいんだがな」

 苦笑いする二人。


 と、

 ちょうど良いところに──


「よお無名クンw相変わらず辛気臭い顔してんなw」

 クスネが入ってきた。

 狐耳をぴょこぴょこさせ、品の無く笑いながら。

「苦労無くゲームクリアできそうだなあwお前がボスを倒してくれたお陰でw」


「LOL. 来ましたね、三人目のメンバーが」

「ああ、そうだな。これでリスクケアできる、オブジェクトの隙間に入り混んだ時も」

「えw」


 瞬間──

 驚くクスネの懐に入り、オレは無理矢理取り押さえた。

「ぐえ! 何すんだよ、お前ら!」


「──と言うわけで、蘇生アイテムを取りに行きたいんだ」

 オレはこれまでの経緯をクスネに説明する。


「確かにおれだってナエには世話になった」

「なら──」

「だが、命を掛けた上で、蘇生アイテムなんて不確定なものを……」

 

 確かに、クスネの言うことはもっともだ。

 けど、少しでも失敗確率を減らすため、仲間に引き込めたらな。

 何か無かったか?

 コイツの趣味嗜好で、説得材料になりそうなものが。

 そういえば──


「言ってましたよね? 『不条理ゲーも一人で攻略した方がファンも湧く』って」

「あァ? それがどうした?」


「なら、ファンは湧くんじゃないですか? 夢丘ナエを蘇らせたら」

「ッ……!」

「見たくありませんか? みんなでハッピーな大団円を」


「はァ〜、ムカつくぜ」

 クスネはため息を吐き、オレを睨み付ける。そして、

「けど──」

 不敵に笑い、オレの肩を小突いた。


「面白い。乗ってやるよ、ナエの顔に免じて」


「やりましたね! アンリくん」

 オレの背中に抱き付く詩歌。


 オイオイ、オレより喜んでどうする。

 まあでも、そういうよく分からない危うさは、コイツの味だよな。


「じゃあ説明するぞ? このグリッチは──」

 オレはメニュー画面を開閉し、プレイヤーの位置が少しずつ進んでいくことを示す。


「このまま連打すれば、オブジェクトの隙間に入りこめるんだ。ほら」

 ダンジョン壁と扉──その間にめり込みながら二人に話しかける。


「うわ、シュールな絵面ですね。ナエ後輩先輩が消滅した後で何やってるんですか? 炎上ものですよ?」

「詩歌に言われたくね〜」


 しょうがないだろ!

 助けるためなんだから!

 オレはため息を吐き、二人も壁にめり込ませた。


「この状態なら、マップの壁を無視して移動できる。海だって渡れるんだ」

「それなら、蘇生アイテムも取れそうですね!」

「ああ! このまま転生の宝珠を手に入れるぞ! ナエを蘇らせるためにも!」


 目的のダンジョンに行けば、何もかも上手くいく。

 そう信じていた。

 けれど、


 ダンジョンに辿り着いた時、


 転生の宝珠は、

 何者かに持ち去られていた。

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