第8話 炎神アンリと竹刀手ボコ

 三つ違いの妹。

 いつだっておれの後をつけて、真似をする妹。


 鬱陶しいけど、少しだけ悪い気はしない。

 おれが何かゲームを始めれば、妹もその画面を隣で覗いてた。


「お兄ちゃん、このゲーム隣で観せてね! 発売したらさ!」

 そんな妹の言葉に、

「ああ、約束だ!」

 と返したのを覚えている。


 そんな毎日がずっと続くんだろう──

 という考えが変わったのは、

 おれが十歳・妹が七歳の時。

 妹が入院したからだった。


 難しい名前の病気にかかったらしい。

 それから妹は何度か入退院を繰り返し、長い入院生活が始まった。


「隣で観せてね!」

 と約束したゲームは、結局観せられないまま。

 少し肌寒い、秋口の頃だった。


「わたし、もう出られないのかな? ここから」

 真っ白な病室、妹はベッドの上で呟いた。

 ただ真っ直ぐと天井を見つめる妹。


 それは、おれへの問い掛けって感じじゃない。

 心から溢れた不安が、不意に口から飛び出した。

 そういう風だと思う。


 でも、おれは何か答えなきゃって思ったから、

「きっと出られるさ!」

 なんて励ましをした。


 でも、妹は少し寂しげな表情で、

「ありがとう」

 と言う。


 なんで寂しげな表情をするんだろう?

 おれにはよく分からなかった。

 けど、何となく悔しさを感じた。


 妹が苦しんでるのに、おれは何もできない。

 おれの励ましだって、妹には届いてない。

 そうだよな。

 約束を守れなかったんだから。


 妹のお見舞いには、毎日来てた。

 けど、長時間一緒にいれるわけじゃない。

 だから、おれたちの日常──おれのゲーム画面を妹が観る機会も、次第に無くなった。


 妹との約束を果たせてない──

 そんなおれの言葉に、どれだけの重みがある?

 そんなおれに、何ができる?


 妹のことを考えたら、大好きだったゲームも息苦しいものに感じられた、

 あの日までは。


「ゲーム実況?」

「うん! 自分のゲームプレイを載っけるんだ、動画サイトに!」

 おれが質問すると、友だちは何から何まで教えてくれた。


 必要機材、動画編集、投稿方法──

 これなら、守れる! 妹との約束を!

 以来、おれは動画投稿の勉強をした。


 そして一ヶ月後──

「なあ、覚えてるか? 前にしてた約束」

「うん。でも、もう良いんだよ。わたし、入院してばっかだし、それに──」


「とにかく、これを観てくれよ!」

 タブレット端末を渡し、おれは妹に自分の動画を観せた。


「おーい、観てるか? 病室から」

 画面内から聞こえてくる自分の声。

 少し照れくさいけど、それ以上に誇らしい。


 だって、これで守れるんだからな、妹との約束を。

 妹が動画を視聴するのを、おれはドキドキしながら見守る。


 そんな変じゃないハズだ! よな?

 最初は投稿してたのは、お試しの短い動画。

 けど、一ヶ月もすると少し慣れてきた。

 だからこの動画は、おれの努力の集大成なワケだけど……。


 モヤモヤ考えてると、妹は動画を観終わったようで──

「ありがとうね、お兄ちゃん。約束守ってくれて」

 と微笑む。

 今度は、少しの寂しさも無い顔で。


「入院した時、思ってた。『ここから出れなかったらどうしよう?』『もうお兄ちゃんと遊べないのかな?』って。でも──」


 妹はタブレットを抱きしめ、もう一度こちらへ微笑みかける。

「もう、そんな不安無いよ。だって、こうやってお兄ちゃんのゲームプレイ観れるから。きっと楽しい、病院から出られなくっても……!」


「ああ、もう一度約束する! お前が退屈しないよう、これからも観せるから、おれのゲームプレイを」

「じゃあ、そうだな……珍しいのが観たいな! 他の人がやってないような!」

「いいぜ! ならおれは極めるよ、マイナーゲームを……!」

 おれたちはもう一度、指切りした。

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