第7話 気分転換

「ナエさん、見つからないですね」

「あの人、いったいどこまで探しに行ったんだ? 詩歌を探しに行ったのに、一度もすれ違わないなんてな」


 オレの言葉を聞き、青ざめる詩歌。

「まさかもう、死んでるんじゃ……!」

「スゲー不謹慎ッ……!」


 N G行動連発ってこういうことか。

 逆によく、今まで炎上してこなかったな、コイツ。


「でも、N G行動に許可出したのオレだもんな。お前の不謹慎でオレが炎上するかも……」

 すると何故か、詩歌は腕を振り上げる。

 今度は楽しそうな顔だ。


「え、私の一言で、アンリくんの人生を終わらせられるんですか? なんか興奮してきました〜!」

「むしろ終わってんだよ、既に! デスゲームなんだから!」


 もしかしてコイツ、配信の時よりイキイキしてるんじゃないのか?

 だって今はデスゲーム中、命をかけた火遊びもし放題だ。


 いや、そもそも薬が切れてるんだっけ。

 やっぱ、早いとこクリアしなきゃな、

 コイツが放送事故を起こす前に。


 オレは、目の前の詩歌を見つめた。

 こんな初見殺しばかりのダンジョンで、楽しそうにスキップしてやがる。

 刹那──


 カチリ。

 響く何かのスイッチ音。

 次の瞬間、詩歌めがけて弓矢が飛んできた!


「知ってた知ってた! やっぱりね!」

 詩歌に当たる寸前、オレは飛んできた矢を掴む。


「おー、やりますね、アンリくん」

 楽しげに拍手する詩歌。

 サーカスの観客気分?


「ま、まあな」

 オレは冷や汗を拭い、肩の力を抜く。

「お前、どうしてそんなN G行動したがるんだよ」


「あー、それは──」

 詩歌は黙ったかと思うと、虚空をスワイプし始める。

 そして、


(個別チャットでお話ししますよ)

 と、メッセージが届いた。


 そういやそうか。

 ウッカリしてたが、今は配信中。

 個人的なことは、メッセージでやり取りだよな。


 きっと、V Rゴーグルの画面で操作して──

 オレも虚空から操作タブを引き出し、メッセージを送った。

(分かりました。配信に載ってる会話はテキトーに繋げますね)


(私って、真面目な両親に育てられたんですよ。幼稚園の時から受験して、産まれてからずっと勉強尽くしでした。もちろん、語学だって)


 なるほど。

 そもそも彼女のウリは、多国語で色んな国に訴求できるV シンガー。

 それは、両親による教育の賜物かもしれない。


(私は両親の望む通り、規則を守って生きてきた。門限だって何だって。それこそ、経典に従う修道女のように)


 両親の存在は絶対的だったワケか。

 でも、『ルールに従うこと』こそ、詩歌の愛情表現だったのかもしれない。


(けどその後、ちょっとイヤなことがあって……。少しだけルールを破っちゃったんです。そしたら、なんか、世界が広がった感じがしたんです。だから……)


 そうか。

 詩歌のこと、少しだけ理解できた。


 厳しく生きてきた彼女にとって、N G行動は『気分転換』の延長線だったのか。


 逆に、こうも考えられる。

 詩歌は今、『気分転換』を欲してる。


 デスゲームに巻き込まれ、大きなストレスを感じてるんじゃないのか?

 だからこそ、N G行動をして、過去の安心をなぞってる。


(そういう意味ではVは良いですね。N G行動も肯定的に取ってくれて)

(ありがとうな、詩歌。教えづらいこと教えてくれて)

(いいですよ! だってアンリくんは、命の恩人ですからね! 腹筋は殺されたけど!)


 メッセージに既読をつけると、

 同時に目配せをしてくれる詩歌。

 腹筋は、自分で勝手に壊したんだけどな。


(じゃあ逆に訊きますね? アンリくんゲーム上手いですよね? 有名ゲームやれば伸びそうなのに、どうしてマイオナしてるんですか?)

(ギリギリ失礼だな! 気を遣ってるっぽいけど!)


 でもまあ、いいか。

 あのことを話したって。

 オレはメッセージで語った、

 自分と妹の──

 炎神アンリと竹刀手ボコの成り立ちを。

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