絵画の街

第19話 フロレシアに至る道

 結局、街に出るまでには12日かかった。さすがに毎晩ではなかったが、朝が遅くなる。まあ、応じてしまう俺にも半分は責任がある話だ。


「森を抜けたな。」


「ああ、でも今度は石の森だぞ?」


 なるほど石造りの街か。遠くからも見える街の中央の教会のような建物は、大聖堂とでもいうべき威厳を醸していた。


 緩やかな下り坂になっているから、遠くの都市が見えるのだ。森のすぐ近くには、小麦畑が広がっていて、家がぽつぽつと散らばっている。日本の田舎よりも家の間隔は広いのは、小麦の収量の少なさ故だろう。


「街にはどうやって入るんだ?村はノーガードというか、柵もないけど。」


「ああ、私が入城証を持っているから、その連れと言うことで入れる。」


「ああ、公的な付き合いもあったのね?」


「いや、多分ないぞ?」


 ?


 どうやらハンターズギルドと言うものがあるらしい。ディアナはそこで認められたから、特別にフリーパスにしてくれているということらしかった。

 ギルドが城門管理を委託されてるのか?よくわからん。まあ、ディアナ先生についていけばいいだろう。


 道があるということは、人類の活動圏内であることを意味する。ということは、基本的に安全で、快適な旅が待っているものなのだが、なにごとにも例外はあるようだ。


「あ、少年が危ない。」


 遠くから良く見えたものだ。まず少年が見えない。が、馬車が全速力で走っているのだけは分かった。

 彼女につられて走りだす。


「【火矢かし】!」


 うわ、こいつ、この可燃物だらけのところで撃ちやがった。

 天気は快晴。湿度は高くない爽やかな陽気だ。


 矢と呼ぶにはあまりに太い炎の塊は馬車の少し前に炸裂した。


 馬が驚き、慌てふためいているが、御者も優秀だ。すぐになだめて進路を変更した。


「ちっ、逃げたか。」


 少年はと言うと、絵を描いていたようだ。美術室にあったようなイーゼルに画用紙を置き、筆を走らせている。

 爆発の音くらい聞こえただろうに、絵を描き続けていた。いや、彼の心には響かなかったのだろう。凄い集中力で書き続けていた。

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