第16話 悪魔は常に嘘をつかない

 悪魔は捨て台詞を吐いた後、雲散霧消して消えてしまった。湖とともに。


 ひとまず危機は去った。ディアナに目配せをする。

 彼女の基準に照らしても、あれは逃げたようだ。


「とりあえず、村に戻ろうか。」


 後方の警戒もしつつ、村に戻る。


 悪魔が去ったからと言って、村の異変が収まっているなどと言うことはなかった。

 家々は潰れたまま、生死を問わず人の気配はなかった。70人くらいが暮らしていたという。


「う、ううえ、なんで。なんでよおおおおおお。」


 ディアナの泣く声がこだました。


 とりあえず運よく倒壊を免れた家にお邪魔する。これからのことを考えねばならない。

 人数が多いほど、人間は安全らしいが、2人では心もとない。そもそもこの村に変えるのだって、彼女の家がここにあるからなのだ。

 場所を変えると、彼女は落ち着いてきた。


「ごめん。取り乱した。」


「いや、いいんだ。それよりこれからどうするか、今話してもいい?」


「うん。いや待って。まずあなたの話をしよう。エルフェンシュピーゲルの話を。」


 エルフェンシュピーゲル。それはエルフの鏡という意味らしい。シュピーゲルが鏡ってことだ。


「あなたが最初に見た祠というのは、エルフェンシュピーゲルの保管庫だったの。割れた鏡こそエルフェンシュピーゲルと言われてた。でも、悪魔の反応からするとこれはあなた自身を示す言葉ね。」


「なるほど?つまりエルフの伝承ではエルフェンシュピーゲルはあの祠の鏡を指しているが、悪魔の定義によれば俺を指すってことか?」


「ええ、で、多分悪魔の話の方が信用できる。奴らに寿命はないから。私達より失伝しにくいはずよ。なにより、彼らは嘘をつけない。」


「ほうほう。え?そんなことあるか?」


 嘘をつくというと悪いことのように聞こえるが、それは今ここにない世界を想像することなのだ。嘘をつけないということは、彼らには過去も未来も語り得ないことになる。


「ううん、彼らが嘘をつかないのは強くあるためなの。嘘をつけばつくほど、彼らは弱体化する。だから弱体化せずに嘘をつくことはあり得ない。記憶力もいいしね。」

 

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