第15話 「魚の悪魔」

「ぎゃああああああああ!!」


 「嬉しい悲鳴」だ。この悪魔に炎は効くらしい。熱が通るのに時間が必要だ。じっっくりこんがり火を通していきたい。


「まあまあ、あったまっていけよ。」


 悪魔の腕をがっしりと握り、拘束する。3つの炎塊はしだいに悪魔だけを包み込むように移動する。

 これは最初に俺に対して放たれた炎と違い、今なおディアナの軌道制御下にある。


 悲鳴が聞こえなくなった。それでも炎は執拗にまとわりつく。

 焦げた魚の匂いが辺りに充満してきたところで、火入れは終わった。


「やったか。」あっ


 手を離した瞬間だった。焼き魚だったはずのそいつは、一匹の鯉になって、湖へと宙を泳いでいく。


「待て、こらああ!」


 怒号とともに魔力弾が、外に飛び出すことはなかった。


「くそ!あいつ、中心に引きこもって耐えてたってわけか。」


 そいつの抜け殻は確かに焦げた魚になってオブジェと化したままだ。生命の中枢部分だけ、魚の形にして籠城したということか?

 湖に逃げ込むとすぐに体が再生する。でも、なんでヤギ頭なんだろう魚で良くないのか?


「くははははは。一本取られたわい。屈辱だ、この姿を見せることになるとは。しかし、まさかエルフェンシュピーゲルが復活しているとはのお。」


 湖の上に顔を出して話しかけてくる。魔力を展開中だ。何をしてくるか分からない。ディアナとの間に入り、防御に備える。


「エルフェンシュピーゲル?」


「なんじゃ、聞いておらぬのか?そこのエルフなら知っておろうに。」


「すまない。アキラ、後で説明する。」


「ということだ。ところで、悪魔くん、なんでヤギの頭に拘るの?」


 緊張感に満ちた空気が一変した。

 ・・・あれ、俺なんかやっちゃいました?


「今、そこ重要か?」ディアナに呆れられる。


「はっはっは。変な小童じゃのう。が、答えは簡単じゃ。空気中では鰓呼吸ができんじゃろう。」


「「え?」」


 なんだそんな理由だったのか。聞いてみるもんだな。ちょっとがっかりしたけど。


「まあ、よい。今日は良いものを見た。鏡の小僧、また会おう。次が貴様の命果てる時じゃ。」

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