第14話 湖畔にて

「一匹取り逃がしたか。しかし、随分な大魚よのお。若いのにようやる。」


 古めかしい喋り方に聞こえる。ディアナはそうでもないのに。


 背後に突如として現れたそいつは、一言でいえば悪魔だ。ヤギの頭に人間の体、半人半獣。金属光沢のある黒肌は、豊潤な魔力を帯びている。

 ツノも黒々として立派だ。とりわけ魔力がこもっている。ほの暗い魔力の輝きは、少し俺の魔力にも似ていた。


「こいつだ!こいつが探知した魔力の源だ。」


「ほう、この儂の魔力隠蔽を見破るとは、小童の方もなかなかやるようだな。」


 その悪魔は少し驚いた風なそぶりを示す。

 たしかに、ディアナを基準にすれば、間違いなく小童なんだがなんかむかつくな。


「【三散火さざんか】!」


「効かぬわ。【氷壁】!」


 どちらも予備動作なしで魔術を使う。速い!

 その悪魔は氷の壁で炎を防ぐ。蒸発し白煙が上がる。ディアナの【三散火さざんか】も最初に撃たれたときに比べて二回りほど大きい。


 白煙の中から悪魔が飛び出してくる!


「まずは一匹!」


 狙いはもちろん俺だ。人間の体と思っていたが、すごい爪を持っている。人体など容易く貫かれるだろう。


「ぐお!おぬし、何者だ。」


 爪は砕けた!


「おおおおらああああああああ!」


 カウンターに一発顔をぶん殴る。拳に手ごたえは感じない。しかし、悪魔はきりもみ回転しながら飛んでいく。

 鏡魔法の基礎、反射の【鏡盾きょうじゅん】だ。


「もっと魔法使いみたいな戦いがしたいんだがな。」


 今はこれしか使えない。だから拳で戦うのだ。


「おのれ、小童、面妖な術を使いよる。」


 一番面妖な奴がそれをいうか。


「【三散火さざんか】、【火矢折かしおり】!」ディアナの追撃。


 俺の背中を飛び越えたところで収束を開始。悪魔に向けて進路を変更する。


「無駄だ。【氷壁】!」


 悪魔が再度氷壁を展開する。そいつの張る氷は空気を多く含んでいるからだろうか、白さが強く、見通しが悪い。


「おらああああ!」飛び蹴り。


 せっかく張った壁もおれの【鏡盾きょうじゅん】の前で砕け散る。


「なに?!」


 刹那、3つの炎塊が俺と悪魔を包み込んだ。

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