第2話 暁鐘
いつまで待っても熱は来なかった。
どうなっている?タイミングからして、俺に着弾していてもいい気がするが?
そう思って立ち上がると、音が戻ってきた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
女の声だった。何が何だか分からない。土壇場で外したのだろうか?
女の外套が燃えていた。パニックを起こして手間取っているらしい。
地面に倒れこんでバタバタとしている。
この隙に逃げようか?と一瞬思ったが、それは悪手だ。
この森を俺は知らない。女の言葉を信じるなら、武器なしでこの森にいることが悪魔の証明になるくらいには危険な森なのだろう。
選択肢は一つしかなかった。
「大丈夫か!今、助ける!」
そういってスーツのジャケットを脱いで、火を叩く。女は外套は脱いでいたが、その下の服にも引火していたようだ。
「うわ、悪魔!なんで!」
「なんでって、そりゃ助けるだろ!目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いだろうが!」
正直やけくそだった。しかし、俺は彼女を失いたくないという気持ちは本物だった。この殺し屋こそが、俺の唯一の命綱だった。
火はなんとか消し止めた。
「悪魔め、なぜ助けた!な」
「ありがとうは?」言葉を遮る。
「え?あ、はい。あ、ありがとうございます。」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい。」
恩着せがましくしておこう。負い目は感じておいてもらった方が、要求を通しやすいだろう。
なんだ素直な子じゃないか。とはいうものの、女はう、え、ああ、とか声になれなかった情緒を悶々とさせている。
「少し話そうか。ほら、雨も降って来たし。」
山火事は許さぬとばかりに、強めの雨が降ってきた。幸い木の葉が重なり合っているので、大樹の根本は濡れ無さそうだ。
生きている木はなかなか燃えない。火は延焼することもなく、すぐに鎮火した。
「俺は橘晃だ。よろしく、君は?」
「私はディアナ。ディアナと呼んでくれ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます