エルフェンシュピーゲル~鏡魔法の使い手になった俺の瞳は異世界を写し出す~

戦徒 常時

エルフの森

第1話 遭遇戦! 

 悪魔よ滅べ!【三散火さざんか】!


 怒号とともに放たれたのは、3つの炎塊。俺の頭くらいある大きさだ。

 それを放ったのは女。


 この炎、幻覚じゃない。確かな熱を持っている。


 待ってくれ。走馬灯にはまだ早いし、ガス灯にしては光熱量が凄まじい。放射状に放たれた3つの炎塊の間をすり抜ける。すんでのところだ。


 炎は直進し、森を焼いた。鬱蒼とした森がにわかに明るくなる。

 女の顔が良く見える。耳が長い。俗に言うエルフだ。実在したんだ。いや、やっぱり夢であってほしい。


 華奢な女だ。この奇怪な炎さえなければ、喧嘩で負けることはないだろう体格差はある。

 が、勝てる見込みはない。


「待ってくれ、俺は悪魔じゃない!人間なんだ!殺さないでくれ!」


 女からの応答に慈悲はないようだ。


「たわけ!この魔力量、この森の中を非武装で生き残っている。悪魔ではないとしても、魔物の類だろう!」


 いやいや、出勤前の服装だから、濃紺のスーツ上下は当たり前だろう。

 あ、でも森が暗いから黒に見えるのか。

 いや、そうじゃない。


「だから!人間ですって!落ち着いてくれ!話し合おう!話せば分かります!」


 【火矢かし】!それが答えだった。今度は3つの炎塊を全部合わせたような大きさだ。


「嘘だろ、こんなところで!」


 再びダッシュで避ける。サッカーをやっていてよかった。敵の重心の動きを見て、なんとなく軌道とタイミングが読めた。


「猪口才な。【火矢折かしおり】!」


 一瞬何をしているのか分からなかった。先ほどとは違う。女のか細い腰は動かなかったし、青い瞳は虚空を捉えていた。


 異変は背後にあった。避けたはずの火球は4つとも俺に迫り来る。


「嘘だろ!やめてくれ!」


 二度あることは三度ないらしい。解けた靴紐を踏んだ。無様にすっ転ぶ。

 【火矢折かしおり】は放った炎塊を制御するようだ。転んでなお、俺に再照準している。

 ダメだ、避けられない。


「いやだ、死にたくない!」


 女の方を見やる。それは懇願だった。哀願だった。勝利を確信したのだろう。

 女の顔は、薄暗い森の中で煌々としている。俺を焼き殺す炎塊の光を受けて。


 俺の目に走馬灯は映らなかった。

 ああ、美人と言うやつは、残酷なことをしても映えるものなのか。


 目を閉じ、ぎゅっと縮こまることしかできなかった。

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