異世界に召喚された⁉️俺も勇者になれるのかと思ったら何故か探偵になったんだけど 〜ただの元サラリーマンがやったこともない探偵を異世界ですることに、勢いだけで乗り越えてやる‼️

ケルケル

第1話

 「何度言ったらわかるんだ‼️調子に乗るなよこの青二才が!――」


 今日も今日とて上司の罵声が職場に響き渡る。

 職員たちは皆各々の机にあるパソコンで仕事に取り組んでいる中、一人だけ立たされて者がいる。

 そう、俺だ。そして怒鳴っているのは異名が「無能拡声機」の俺の上司だ。

 まあそう呼ばれていることを本人は知らないが。

 こいつは自分は仕事ができないくせに、無理難題の仕事を部下には押し付けてくるクソ野郎だ。部下の俺たちに。

 そして、なんとか終わらせてもその出来にいちゃもんをつけてくるようなやつだ。

 こいつは日々俺たちに説教というなのストレス発散をしているだけなのだ。正直付き合ってられないが。

 

 今日のことに関しては本当にどうでもいいのだ。

 こいつは今日、お偉いさんも参加した会議で俺に恥をかかせられたと言って怒っているのだ。

 途中でこいつが行った質問がすでに資料に書いてある内容だったから「お手元の資料をよくお読みになってみれば?」と言ってやっただけだ……最大限の皮肉を込めて。

 そしてら面白いぐらい顔を真っ赤にしちゃったんだから、俺としてはその場で笑いを堪えるのに必死だったよ。


 そんなわけで、俺は今日も説教をくらい、本日の仕事に取り組む時間を奪われたおかげで、会社を出たのは日付が変わってからだった。


「なんだよあいつ、お前が馬鹿だから問題なんだろ……あーあ、飯どうしよ」


 俺は不満をぶつぶつと呟きながら帰り道を歩いていた。

 そんな時、急に目の前の視界がぼやけた。

 俺は不審に思い、目を凝らしてみたが――ダメだ。地面も見えない。

 俺は混乱に襲われた。急な出来事で脳の回転が追いつかない。

 そしたら今度は急に当たりが光り出した。

 最初は懐中電灯が光ってるのかな、ぐらいだったのが、俺を囲むように全方位光出して、その光もどんどん強くなっていって、俺は視界一面が白の世界となった。


 その時間は一時間ほどだったかもしれないし、一瞬の出来事だったかもしれない。

 気がついたら俺は見たこともない建物の中に立っていた。

 床には赤いカーペットが敷かれたおり、左右には何やら興味深そうに俺のことを見てくる人々。そして前方には鎧?を着込んで槍のようなものを手に持った者が二人おり、その後ろの二段だけの階段の奥には何やら偉そうに椅子に座って頭に金の冠を被った人がいた……なんか俺の上司と似た雰囲気がある。

 建物はヨーロッパのどこかの王宮のような見た目……どこだここ?

 俺は不思議に思いとりあえず、すぐ近くにいた年季のあるローブをつけた老人に話しかけた。


「なああんた、ここはどこなんだ?教えて――」

「黙れ!ここは王の御前であるぞ!勝手な発言はするな!異界人風情が!」

「いや、ちょっと聞きたいことが――」

「黙れと言ってるだろうが!」


 何故か槍を持った奴が邪魔してくる……なんだ、コスプレ会場か?なりきるのはいいが、俺は参加する気無いんだから、帰らせてもらえないかな。それと異界人ってなんだ?何言ってんだこいつ?

 すると、隣の老人が喋り出した。

 

「王、ご覧になられたでしょうか。召喚魔法は成功です。予言の通り、この国を救う救世主を召喚いたしました。これで安泰でしょう!」

「よくやった、元老。もう良い、下がれ」

 

 何やら王様っぽい奴の一言でこの老人はこの部屋から出ていった。

 そこが出口か、じゃあ俺もここで失礼して――

 そう思い、老人の後を追って回れ右をすると


「おい、どこに行こうとしている異界人。王の許可なく勝手に行動するな!そんなことも知らんのか、これだから異界人は」


 と後ろから鎧のおっちゃんに止められた。

 なんだよ、帰らせてくれよ、明日も早いんだよ俺は。

 すると、偉そうな奴が俺を見つめてきた。

 

「お主が異界人か?」


 そして何やら変な質問をしてきた。


「どういうことですか、異界とか何言ってるんですか?コスプレになりきりにいい加減にしてください。俺明日も仕事あるんでもう帰らせてもらっていいですか」


 イライラしていたのか少しきつめの言葉になってしまった。

 しかし、王様なるものは俺の質問には応える気がないようだ。

 

「そうか、何も知らんか……では宰相、説明したまえ」


 そう言われると、右からちょび髭を生やした爺さんが一歩前に出てきた。


「では、ここからは私、リゼルが説明をさせていただきます。異界人さんまずはお名前を聞いても?」


「名前?夢見暁だけど……」


「ではサトル様と呼ばせていただきますね。単刀直入に申し上げますと、サトル様にはこの国を救っていただきたいのです」


「救う?さっきの老人も言ってたけど、どういう事なんだ、それ?」


「疑問に思うのも無理ないでしょう。何故ならサトル様のいた世界と、この世界は違うのですから、この国のことなど知らないのが当然です。なので順に説明していきます――」

 

「えっ?ここ異世界なの?」


 宰相はこの国の現在の状況と、俺を召喚した意味について話し出した。

 宰相曰く、その世界は人間の王国と魔物の王国の二つが存在し、普段は戦いは拮抗状態きっこうじょうたいで問題ないのだが、近年魔王が復活したことでこの国<グレミー王国>の領地が段々と侵略されており、主要都市にも攻めてきてるとか。

 そのため、この現状を打開するために俺を呼んだとか。


 俺は途中まで、まだこいつら全員が演技して俺を騙そうとしてるのか?と疑っていたが、目の前で「この世界の地図です」と言って手にしていた赤の石がはまっている指輪を掲げたと思ったら、目の前に立体映像の地図が出てきたのだ。

 俺のいた世界も技術は発展していたが、こんな芸当は再現できない。

 曰く、魔法だそうで科学とは全く異なるようだが。

 そのため、俺はここが異世界だと信じざるを得なくなった。

 しかし、それが悪いことだけではなかった。異世界に来たということは、俺はあの地獄みたいに毎日からの解放を意味する上、話を聞いてみると、何やらよくゲームにありそうな設定なのだ。

 俺の知識が正しければ、そういう類のゲームのお約束は召喚した者に、「どうか勇者としてこの国を救って下さい」と言うのではではなかったかな?

 もしそうだとしたら、俺は勇者として呼ばれたってことだろ、魔王を討伐するために――うひょー。

 じゃあじゃあ、俺ってもしかして、異世界転生?召喚?特典でメチャクチャ強かったりするのかな?魔物ってことはドラゴンとかドラゴンとかいるのかな?――えー楽しみすぎるんですけど!

 俺は年甲斐もなく一人はしゃいでしまった。いやだって、仕方ないじゃん、異世界とか、男の夢なんだから、テンションあがんない訳ないじゃん。


 そんなこんなで宰相の説明も終盤に差し掛かり、


「という現状なのでどうかこの国を救っていただけないでしょうか?――」


 うおー、キタキタついに来た、まさか俺が勇者になるなんてなー

 もう説明とかどうでもいいから早く次に進みたいんだけど……そう思い宰相の話を話半分で聞い流していた。そのため、宰相が最後何を言ったかよく聞き取れなかった。


「――探偵として」


「はい!……はい?」


「ありがとうございますサトル様!それでは早速でございますが仕事についての話がありますので別の部屋で――――よろしいですか王様」


「よかろう。――おい、サトルと言うものよ。もしをヘマをしたら、わかっているだろうな?」


 ?????????

 どう言うこと?

 探偵?勇者じゃなくて?

 わかっているだろうなって、何俺使えなかったら殺されるの?……どゆこと?どゆこと?


「ではサトル様いきましょう」


 そう言って、宰相リゼルは呆然と立ち尽くす俺を別室まで引っ張って行った。

 俺は引きずられながら言葉に出さずにはいられなかった


「どう言うことだってばよーーーー」



 **



 俺は宰相に連れられ別室で詳しい事情を聞くこととなった。

 曰く、魔王の誕生による近年の人類陣営への進行により、我が国の内側に魔物が侵入してきたと。そして、それがただの魔物だったら良かったものの、人型であったり、人間になりすます魔物がいるため、手を焼いているそうだ。

 そして、その変化した魔物たちによるテロも各地で起きてしまい、今都市では市民同士が疑心暗鬼となってしまう状態となったそうだ。そのため、俺にはその状況をなんとかして貰いたいらしい。

 ……無理くない?俺、本職探偵じゃないよ、サラリーマンだよ?無理ゲーにもほどがあるんだろ?

 もう一回ぐらい異界人召喚してその人にやって貰えばよくない?

 そう思い丁重にお断りをしようと俺は心に決めた。俺には荷が重すぎるからな。


「えー……今回はご縁がなかったという――」


「ちなみに、お断りされますと、申し訳ございませんがここで処刑させていただきます。異界人の召喚は召喚された人が亡くならないと、再び行使することができないのです。その点ご了承をお願いいたします。また、無いとは思いますが、万が一あなた様が失敗などをしてしまい、王がこれ以上は任せられないとお思いになった場合も同じように処刑させていただくこともご了承お願い――」


「喜んでお受けさせていただきます。探偵夢見暁にお任せください。なんでも綺麗さっぱり解決してご覧に入れましょう!」


 俺は若干食い気味に承諾をした。

 いやだって、それしか無いじゃん、死にたくないじゃん。

 いや意味分かんないでしょ「断ったら殺しますけど宜しいですね?(ニッコリ)」とか。

 そんなの断れる奴がいる訳ないじゃん、この宰相分かっててやってるだろ、故意犯だろ。


 そんなわけで、このグレミー王国に奇妙な異界人の探偵が生まれた。



 **



 「では、後は若いものたちに頼むとするよ」


 そう言い残し、宰相のリゼルは部屋から出て行った。

 そして俺は会話中ずっと気になっていた視線の方向に目を向けた。

 実は宰相との会話中ずっと俺は見られているという視線を痛いほど感じていた。

 俺の感覚が特別敏感なのではない、本当に俺のすぐ横に立ってずっと睨むように見てくる人がいるのだ……いやでも視線に気づく。

 そこに立っていたのは、白い髪に看守のような格好をした女性であった……軍人か何かだろうか?

 控えめに言っても美少女の部類に入るその人はまだ睨むのを続けてくる。

 二人っきりでそんな睨まれるって、めっちゃ気まずいんだけど。何か話題はないか?

 

「……あの〜〜……今日は天気がいい……ですね?」


 考えなしに適当に喋ったせいか、途中でこの世界の天気が今どうなっているかも知らないことに気づき、語尾が少し上がってしまった。我ながら少しキモいな。

 しかし、彼女は全く口を開く様子を見せない。

 俺が頑張って話題を提示したのに。乗って来てくれよ。

 しょうがない。次だ次!

 数打ちゃ当たるんだよ!

 

「……お名前は?」


「…………」

 

「えっと、ご趣味は?」


「…………」


「……好きな、食べ物……は?」

 

「……………………」

 

「……特になし、そっかそっか…………休日は何してますか?」


「…………………………」

 

「へ〜……へぇ〜特になしか、ヘぇ〜〜…………do you like sushi?」


「………………………………」


 無言!無音!部屋に響くは俺のcall on!そうこれは一方通行!Oh,yeah!!!!

 

 …………………………


 いやこんなんおかしくなっちゃうだろ!こちとら喋り上手でもない割には頑張って話題捻り出したんだぞ!それをコイツと言ったら全部無視して……グスッ……無視しやがって……SNSあったらで悪口書いてやる。


 すると、そんな俺の様子に見かねたのかついに目の前の彼女が口を開いた。


「……アンナ……です……好物は……オムライス、です……」


 第一印象は声ちっさ!だった。

 俺を親の仇のように睨んできていたため、相当気の強い方と思っていたが、全くの見当違いだったようで、ほとんど真隣にいてもぎりぎり聞こえるかどうかの小ささだった。

 彼女……アンナと先ほど言ってたかな?……は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして目を瞑って小さなその口をもごもごと動かしていた。

 注意深く耳を澄ませると、どうやら先ほど俺がした質問に必死に答えてくれているようだ。


「……休日は……いつも一人で訓練、してます……sushi?……は良くわからないですけど……」


 可愛いか!なんだこの娘、無茶苦茶庇護欲が湧いて来るんだけど⁉️今すぐお持ち帰りしたいんですけど!


「……あの、すみません……私……口下手で……喋るのも……苦手で……友達も少なくて……」

 

「いやいやいや、そんなことないですよ!」


「本当は……私から説明……しなくちゃいけないのに……人と喋るの久しぶりだったから……緊張しちゃって……」


「うんうん、分かる分かるよ〜〜その気持ち。友達と久しぶりに喋る時って緊張しちゃうよな?なんて声掛けたらいいか分かんなくなっちゃうよね?あるあるだわ〜」


 とりあえず、自分を卑下して泣きそうになってしまっているアンナのフォローを入れるために俺は適当に相槌を打った。

 しかし、これが予想外にもアンナには聞いたらしく、


「そうですよね!やっぱみんななりますよね!……よかった〜私一人だけおかしいのかと思ってた」


 と急に饒舌となった。

 どうやら自分と似た境遇の人を見つけられてよほど嬉しかったらしい。

 すると、急に勢いよく話し出した事が恥ずかしかったのか再び顔を真っ赤に染めて、俯いてしまった。

 そして、遠慮がちながらも本題を切り出してくれた。


「すみません……急に喋り出して…………ごほん、えーっと、私がここにいるのは……仕事で、貴方様を護衛兼監視することになっているからです……サトル様を」


「護衛と監視?」


「はい……サトル様は探偵として……この国で起きているテロを解決してもらいます……その時、随時サトル様の身を守り、活躍を報告する者として……私が選ばれました……足手纏いにはならないようにするので……よろしくお願いします……」


 俺は彼女がここにいる理由に納得すると同時に心からの歓喜に襲われた。

 ――え⁉️こんなに可愛い娘と四六時中一緒にいられるってこと⁉️はっきり言って最高なんですけど!ご褒美なんですけど!

 しかし、そんなことを顔に出せばその瞬間好感度が奈落の底へと墜落してしまうため、ポーカーフェイスを必死に保ちながら、できる限りのキザったい表情で


「こちらこそ、よろしくお願いします。Ms.アンナ」


 と返し、右手を前に差し出して握手をした。

 アンナもこちらに微笑みを返してくれている。

 ひとまずのファーストコンタクトは上々と行ったところか。

 この調子で好感度を上げていけば、いずれ…………グッへッへ


 ――ドカーーーーーーン――

 

 しかし、その時突然微かに遠くから爆音が聞こえてきた。

 その音を聞いた瞬間アンナを覆っていたオーラのような雰囲気が一気に変わり、


「サトル様、事件です。テロが起こりました、急いで現場に急行しましょう……失礼します」


「どういう――――って、イヤーー――」


 と俺の手を引くや否や、世にいうお姫様抱っこをして即座に窓を蹴破って外に出たのだった。

 まさかのアグレッシブな動きに俺は悲鳴をあげることしかできず、アンナはそれを特に気にする事なく現場に急ぐのだった。

 ……アンナは仕事になると性格が変わるんだな、覚えとこ



 **



 ものの数分のうちに俺はアンナに運ばれて現場についた。

 事件が起きたのは俺が呼び出された王宮からおよそ3km離れたところにある、商店街だった。

 どうやら爆発による火事が広まってしまったのだろう。

 いつもならおそらく、防具や武器、または薬草など色とりどりな商品を売って賑わっていたのだろうが、今はその面影はなく、無造作に飛び散った瓦礫と、まだ燃えている炎だけがそこにはあった。

 緊急で消化活動が行われており、俺の元いた世界のような消防士がホースを持って水をかけるのではなく、何もない空中から水を生み出していたり、炎を自在に操り、自分の手元に寄せて消滅させたりとしていた。

 全く理屈がわからない。アンナに聞いたところ、こんなのも知らないんですか?と可哀想な目で見られたが、どうやらこれが’’魔法’’のようだ。

 この世界では、魔法は訓練すれば誰でも使えるようになるものだそうだ。教育機関なるものも存在し、そこで幼少期から魔法に関する訓練を積み、なりたい職業になるというのがこの世界の社会だと……俺がいたとこよりよっぽど良いじゃん。


 そんなことを考えていると、アンナに背中を押され、俺は爆発が起きたであろう、最も崩壊度の高い建物に入っていった。

 まだ炎があちこちに燃え滾っており、まるで俺たちが入るのを拒んでいるようだった。


「アンナ!無理だよ!入れないよ!燃えてるよ!……もう少し消化を待ってからにしようよ、そうしようよ!それまで近くでお茶でも――」


「はいはい、駄々捏ねないで下さい。……もうお仕事の時間ですからね、サトル様」


 アンナは俺の必死の抗議を無視し、堂々と燃え盛っている建物だった跡地に入っていった。


「サトル様……ここからは探偵の領分でございます。何か犯人に関する手がかりがあるかもしれませんので探しましょう。……私はこの周りに怪しい動きをするものがいないか探してきます」


 そう言い残し、アンナは飛んで行ってしまった。

 ……あれ?監視は?

 そう思ったが、俺には好都合だった為、口には出さなかったが。

 ひとまず状況を整理しよう。

 俺はこの世界に探偵として呼ばれ、仕事をして成果を出さないと殺されることになってる。

 そして俺は探偵などしたこともないし、何すれば良いかも分かんない。かと言って逃げても、あのアンナの身体能力(これも魔法かもしれないが)とこの世界の魔法を見たら、何もできない俺が逃げれる訳もない……詰んでね?

 俺に残された選択肢はたった一つ……もう腹括って探偵のふりするしかないっしょ。

 犯人は…………もう、どうにでもなれって感じ。


 そう決めてからの行動は早かった。フリだけなら、それっぽい跡を自分で作って、さもアンナが戻ってきた時に発見した顔ようにしよう、そうしよう。

 そうして、俺は柱には犯人っぽい手形をつけ、床には犯人が逃げていったかのような足跡を作ってやった。

 そして、仕上げには偶々近くに落ちてた葉巻きを足跡の付近におき、犯人が慌てて逃げた時に落としたかのようにしてやった。

 ちょうど全ての準備が終わった時だった、アンナが戻ってきた。


「すみません……あたりに怪しい行動をするものは見つけられませんでした。……サトル様の方はどうでしたか?」


「ああ、いくつか怪しいのを見つけたよ……まずは見たまえ、この手形を……おそらく犯人のものだろう。そしてこの裏口へと続く足跡……これは犯人が逃げた時の足跡だろう。そして最後にこの葉巻き!……急ぎの逃走で落としてしまったののだろう」


 俺はできる限りの平常心を装い、アンナに自作の跡を見せた。

 この世界には指紋解析なんかはないだろうから、俺が作ったとはバレないはずだが、ここが正念場だ……そう思い、アンナの反応をまった。

 ここで嘘がバレたら終わりなんだけど――


「素晴らしいですサトル様!まさか、初日でこんなに証拠を見つけてしまうなんて……では犯人に検討がもうついたのですか?」


 アンナはピュアなんだろう。俺の嘘を疑わずにそのまま信じてくれた。これはいける……そう思い、俺は意味もなく意味深に言葉を濁した。


 「……ふっ、アンナよ。確かにもうわかったが、答えるのはこの場じゃない。もっと革新的な証拠を見つけてからじゃないとね……まあ、それは後日にしよう」


 と俺は嘘をついて今日のところは、と帰ろうとした。本日の分の仕事はもうしたからと。

 アンナは純粋だから、これで騙し続けられるだろう。

 そう考え、俺は回れ右をしたが、そこでアンナに止められてしまった。

 一瞬アンナに嘘がバレたのか?とかなり焦ったが、


「ではすぐに証拠を集めに行きましょう!すぐ行きましょう!」


 そう言ってまたもや俺を担ぎ上げて運び始めた。


「どこいけば証拠が集まりますかサトル様?」


「あーいや〜、その〜、今日はもう仕事したから、後日にしません?」


「何言ってるのですか、サトル様。事件が解決するまで休みなんてある訳ないじゃないですか。できることはすぐやるが騎士のモットーですよ……それで、どこに行けば良いのでしょうか?」


「いや、流石にそれはブラックじゃないですか……もう夜ですよ?……これ以降は残業ですよ、残業代ちゃんとあるんですか?」


「いえ、問題ないですよサトル様……国民が安心して生活できるようになる、それが私たちの目的なのですから、ザンギョウダイ?……は良く分かりませんが、民の笑顔が私たちの報酬ですよ。それを見たら、無限のエネルギーが体に生まれてきませんか?」


「プライスレス〜〜……やりがい搾取じゃねえか、ただのブラック企業じゃんここも、い〜〜や〜〜」


 俺は行きたくない行きたくないとアンナの肩の上で手足をジタバタさせたが、彼女には効果がないようでしばらくしてから諦めた……すれ違った消防士的な魔術師が皆、憐れむような目で見てきたせいでもあるが。


「どうしますサトル様?次は何をしますか?」


「…………じゃあ、近くの飲み屋に……」


「酒場ですか?……ですか?そこで何をするのですか?」


「アンナは知らないだろうが、情報収集は酒場って決まってるもんなんだよ。だいたいどこの酒場にも一人ぐらい謎の情報通がいて、ただでは教えてくれないけど、お使いをクリアしたら情報をもらえるんだよ」


「……はあ?……よくわかりませんが、わかりました。……おい、そこの通行人A、ここの近くの酒場はどこか、教えてくれないか」


「ああ、騎士様ではないですか、ここらではそこの角を曲がって突き当たりに一軒ありまっせ……ちなみに肩に担いでいるのは放火犯ですか、捕まえたんですか⁉️」


「いや、違うぞ、この人は罪人なんかじゃない」


「では、なぜそんな捕まえるようなことを……はっ!まさか、これが騎士様流のプロポーズ⁉️もう二度と離さないからな(物理的に)ですか⁉️」


「……やだ、アンナかっこいい///……キュン♡」


「そんなわけあるか!この人は国王が任命した、この国の探偵なのだぞ!あとサトル様もややこしくしないで下さい!」


「なっ、なにぃ!そんなお偉い方でございましたか……これは失礼しました。ではなぜそのような状態に?……はっ!まさか、これがお偉い様方に流行っていると噂の肩車プレイ⁉️それでしたらもっとそれっぽいムードがあちらにはありますよ」


「おお、よく知ってるな通行人A……実はな、この肩車プレイ、上から色々見えてな、普段は見れないメロンとメロンの隙間が外でも見れたりな――」


「な――なわけあるか‼️……もういい、行きますよサトル様……後、それセクハラですよ」


 顔を真っ赤にさせたアンナは俺を汚物を見るかのような目で見てきた後、聞いた飲み屋へ足を進めた。



 **



 ――ガラァン――

 俺を肩に担いだアンナは聞いた酒所の扉を開けた。

 中には、以下にも柄の悪そうな冒険者が多く、入ってきたアンナに皆の視線が集中した。


「おぉお〜……騎士様がこんな酒屋に何の用なんですかねぇ〜?」


「ここは騎士様のような高貴なかたが来るところではございませんよ〜、もっと他にやる事があるんじゃないんですかねぇ〜?」


 あからさまな皮肉の拒絶をアンナは気に留めることもなく


「調査に来たのだ……ではサトル様、どうぞ」


「ありがとう、アンナ……ここにいる中で、情報屋はいるか?」


「はっ!……いたとしてもアンタらなんかに渡す情報なんかねえよ」


「そーだ、そーだ……帰れ!帰れ!」


 なかなか話を聞いてくれない様子に、俺も少しフラストレーションが溜まっていたが、それよりも先についに堪忍袋の尾が切れたのか、アンナが怒気を纏いながら腰の剣を鞘ごと持って、勢いよく床に突きつけた。

 ――ドォン――

 束の間の沈黙ができ上がった。

 そしてアンナは再び口を開いた。


「良く聞け貴様ら……もう一度だけ聞くぞ、情報屋は誰だ?」


 流石の迫力に怖気ずいたのか、この酒屋のカウンター席の端っこに座っていた、見た目周りの屈強な戦士と全く同じな男が遠慮がちに手をあげた。

 自慢の筋肉もお怒りの騎士様の前では情けないほどショボンと縮み上がっていた。


「……はっ、はい……自分、情報屋やってます……」


 アンナはちらっと目をそちらにやり、

 

「サトル様はあなたに用があります……サトル様、どうぞ」


 俺はアンナに促され、その男の隣のカウンター席についた。

 ここに来て俺は冷静に戻った。

 俺はアンナに探偵の仕事をちゃんとしているようなふりをしなくてはいけない。

 ただもう考えるのが面倒くさくなってきた。

 もう勢いだけでいけば良いかな……そう俺は決意した。

 

「……君が情報屋なんだな……例の件、どうなっている?」


 俺が聞くと情報屋は一瞬なんの事かわからずぽかんとしていたが、俺の訴えるような目を見て話を合わせてくれた。


「よお兄弟、例の件だな?それなら、偉いことになってんぞ。例のあれがアレになってな」


「ほうほうほう……あれがアレにか。それはあの魔将の羅刹どもとも関係があるのか?」


「サトル様?なんですの魔将の羅刹とは?」


「おお、兄ちゃん……羅刹まで知ってるとはな、さすがだぜ。羅刹とはな魔王軍暗殺部隊を率いている偉い奴の名前だ。裏の魔王なんて呼ばれてんだぜ。まあ騎士様でも知らないのは無理ないぜ、なんせ魔王軍でも限られたものしか、その知らない存在なんだからな。俺と兄ちゃんがちょっとばかし特別なんだよな」


「ああ、そう言うことだアンナ」


「……ははぁあ……?」


「で、話を戻すぞ。兄ちゃんの考えの通り、今回の件は奴らの小手調べといったところだ。……おそらく近いうちにもっと大規模なのが来るぞ」


「やはりか……じゃあ今回の件は羅刹の手下の魔三銃士が起こしたってことか?」


「……魔三銃士?」


「いや、そうじゃないらしい。羅刹の下も一枚岩じゃないらしく、穏健派と過激派に分かれているんだ。それでその過激派を率いているのが、魔王の兄弟の次女の血濡れ姫<トリスタン>らしい。」


「過激派?穏便は?トリ……リタン?」


「ほう、あのトリスタンが率いているのか……ふっ、面白い」


 すると、俺の座っているのと逆のカウンター席の端に座っていた、フードを頭まで被った人物が急に立ち上がって、俺たちに向けて叫び出した。


「おい、そこの貴様ら……」


 その人物の呼びかけは明らかに俺たちに向けられたモノだったが、俺らが何か言い返す前に別のところから返事が返ってきた。


「はい、お客様……お会計は2880 円となります」


 カウンターにいた店主がフードの者に答えた。


「あっ、はい。えっと、現金でお願いします………………じゃないんだよ!お前じゃないよ俺が聞いてるのは、そこにいる奴らだよ」


 そう言い、今度は俺たちにの方を指を差してきた。

 今度こそは俺が答えるか、そう思い口を開こうとした時だった。


「えっ!僕のことですか!……こんな僕に声をかけてくださるなんて、優しい///……好き、お友達からよろしくお願いします!」

 

 フードの奴から見て俺たちが座っているところのさらに奥にある、この酒屋の部屋の角に一人体育座りで酒を飲んでいた男が急に立ち上がってそう叫んだ。


「だ!か!ら!お前でもないんだよーー!俺が聞いてるのは、カウンター席に座ってるお前らだよ!」


 ついに我慢できなくなったのか、フード野郎は俺のそばまで来て耳元に囁いてきた。


「どこでその情報を知った……それは魔軍でも最高機密の情報のはずだぞ、人族風情がなぜそれを知っている」


 俺と情報屋はただカッコいい言葉を並べて、それっぽいことを言っていただけなのだが……俺は少しの間こいつが何を言いたいのか良くわからなかったが、ハッと気づいた。こいつも俺たちの会話に参加したいのだと。

 確かに、毎日上司やら、顧客から、色々と理不尽を受けるのが仕事だ。だから、こういう酒の場ではそんなしがらみから解放されたい、何も気にせず昔のようにバカしたい、そういう気分になるのはよく分かる。

 だからこの人も俺と情報屋が今やっていたようなただただカッコよさそうな名前を並べて、以下にもそれっぽいことを言うだけの、俗に言うバカな行為を一緒になってやりたいのだろう。


 そうと分かれば拒む是非はない。俺はすぐさま彼へ会話のボールを返した。


「……ふっ、それはな俺たち人間をあまり舐めるなよ、魔族ども」


 そう言うと、目の前のやつは自分のつけていたフードを脱ぎ捨てた。


「言葉の使い方には気を付けろよ。……こっちは今すぐ殺すこともできるんだぞ」


 フードの者の顔は人間と見紛うほどのモノだったが、明らかに異質なものがあった。頭部に二つの角が生えており、目が赤色に光っていた。

 ――コスプレかな?目もカラコンかな?

 そして彼女は俺の方に手を向けてくると、触れてもいないのに急に俺は首が締め付けられるような感じがした。


「――がぁっ――」

 

 喉から声にならない音が出てきた。

 俺はなんとか逃げようと手をジタバタとさせたが全く効果はない。

 少しずつ意識が遠のきそうになった時、女の魔物がいた所に一筋の線が通った。


「貴様、魔族か?」

 

 俺には見えなかったが、魔族の女はいち早くそれを察知したのか後ろに飛んで避けており、剣を振るったアンナを鋭い目つきで睨め付けていた。

 そのおかげか、俺を襲っていた圧迫感から解放され、情報屋に引っ張られ店の裏側まで退避した。


「大丈夫だったか兄ちゃん?……ありゃ本物の魔物だよ。冒険者でもねぇアンタが死ななかったのは相当運がいいぜ」


「あいつ……魔物だったのか?……初めてみたは……」


「にしても運がねぇな、俺ら……ただカッコよさそうなこと並べてただけなのに、魔物がそれに入ってくるなんて……まさか俺らが言った出まかせが実は全部本当の事でしたってことないよな?」


「はっはっはっ……面白いこと言うな情報屋の兄ちゃん、そんなまさか。じゃあ兄ちゃんはあいつは魔王軍の本当の秘密をペラペラと喋っている人間がいたから俺らを襲ったって言いたいのか?…………ないよな?」


「……不安になるなよ、俺だってわかんねぇよ」


「まあ、あとはアンナに任せるしかないんだけど……」



 ……一方その頃酒場内では……

 


「……今日起きたあの爆発はお前が起こしたのか?」


「はっ……そうだが、それがどうしたってんだ?今更そんなこと知ったって無駄なんじゃねぇのか?どうせすぐ死ぬんだからよぉ!」


 魔族の女はそう叫ぶと同時に手を上にあげ、何やら力を込め出した。

 すると手のひらの上で何かが赤く光り出したと思ったら、その光はだんだん強く、大きくなっていき、気がつくと1メートルを裕に超えるほどになった。


「戦うのは久方ぶりだから、ちっとは楽しませてくれよ騎・士・様!……メラ○ーマ!」


 そう言い、手を前に振り下ろすと巨大な炎の玉はアンナ目掛けて飛んで行った。

 アンナは咄嗟に左に大きく飛んだ。

 しかし、その瞬間火の玉は大爆発を引き起こし、凄まじい衝撃でアンナは店の外まで吹き飛ばされた。

 かろうじて受け身をとり地面に転がりすぐさま立ち上がったると炎の向こうからゆったりとした足取りで魔族が近寄ってきた。


「あれあれ?軽く打っただけなのに壊れちゃうなんて脆い建物だね人間の作ったものは……お前にはもうちょっと耐えて欲しいんだけどなぁ?」


 ――なら相手に攻撃の準備をさせないほどの速さの先制攻撃ならどうだ。

 アンナは相手が先ほどのように魔術を発動する前に大上段から切り掛かった。

 しかし、相手も甘くなかった。アンナの速さに反応し、手をアンナの腹の前に置いて……アンナの剣が魔族の女の首を捉えるその瞬間、魔族の女の手のひらとアンナの着ている鎧の腹部も接触し、次の瞬間腹部で爆発が起きた。

 その爆発は先ほどに比べ小さいながらも、さっきと違いアンナは直撃を受け、再び後方に弾き飛ばされた。


「あれ、危ないね〜……もう少し早かったら俺、死んでたわ。……まあ、騎士様、二撃でこんな虫の息になるなんて情けないね、死んで出直して来なよ」


 魔族の女は情けなどかけるわけもなく、アンナにトドメを刺そうとしていた。

 アンナはただでは死ねないと、重い体を鞭打って動かし、剣を支えになんとか立ち上がった。


「あれ?もう立ち上げれないと思ってたんだけど……案外根性あるじゃん」

 

「ふっ……騎士が民の前でみっともない姿を晒せるわけがないだろ」


「……そっか、じゃあ俺の最大限の敬意を込めてアンタを殺してあげるよ騎士さん」


「そうか、じゃあ私ももうひと頑張りと行こうかな……負けるわけにはいかないからな」


「名前はなんていうの騎士さんは?」


「アンナ……グレミー王国騎士団副団長、アンナ・ユーリンだ。」


「アンナか、覚えとくよ騎士アンナ。私の名はトリスタンだ。この私に殺されること、黄泉の国で誇ってもいいぜ」


「断る……私は死ぬわけにはいかないからな」


 アンナは決死の覚悟を決め、剣を中段胸の前に地面と水平に構えた。

 トリスタンは最初と同じように手を上に上げ、今度は先ほどの倍以上の大きさの火球を生み出した。

 そして飛び出そうとした時だった。

 トリスタンの後方、酒場があった場所からサトル様が走って来たのだ。

 ――まずい。トリスタンは私を殺したら次はサトル様を殺しに行くだろう。私はその為に逃げる時間を稼ぐつもりだったのに、サトル様が来てしまったら無駄死にになってしまう。


「ダメですサトル様!来ては!」


 私は必死で叫んでいた。

 おそらくサトル様にも届いただろうに、だが彼は私の意に反して足を止めなかった。

 私の不審な様子にトリスタンが後ろを振り返った。


「なんだ何の力を持たない人間風情が、貴様じゃ俺は止められん……あとで殺してやるから大人しくしてろ」


 トリスタンはサトル様を一瞥しただけで興味を失ったらしく、視線を私に戻した。

 しかし、私は気づいてしまった。

 サトル様の無謀とも言える作戦に。

 トリスタンがもう少しサトル様を警戒したら、下等な人間風情と驕らなければ絶対に成功しないであろう攻撃。

 しかし、おそらくそれすらも読んでこの作戦を決行したのだろう……彼は探偵なのだから。

 サトル様は後ろで情報屋に支えてもらいながら、酒場にあった大きな酒樽を持っていたのだ。

 そして悠然と立っている魔族の女の頭を目掛けてそれを二人がかりで投げた。

 樽はトリスタンの頭にぶつかると同時に弾けた……おそらく先程私にやって来たのと同じように小爆発を起こしたのだろう。

 トリスタンはそれで防いだつもりになっていたのだろうが、今回はそれが良くなかった。

 爆発で酒樽は破裂し、中に入っていた酒が周囲に飛び散った…………もちろんトリスタンも頭からアルコールを被った。

 次の瞬間、トリスタンの頭上にあった火球からなのか、爆発からなのか、わからなかったがアルコールは引火し、一瞬でトリスタンを火だるまに変えた。


「グァあああああああ――――」


 トリスタンは体が燃えたことにの垂れ苦しみ始めた。

 その隙を私は逃さなかった。

 すかさずトリスタンとの距離を詰めた。

 トリスタンも必死に抵抗しようと火球を放とうとしたが、残念ながら火に苦しんでいたせいか対応が起きらかに遅かった。

 すでに剣の間合いに私は入っており、毎日訓練したように剣を振り下ろすと、苦しむ声は聞こえなくなり、ただ炎がメラメラと燃える音だけがその場に響いた。

 そしてバタッと倒れる音が二つ重なった。


 

 **


 

「アンナ!」


 俺は急いで倒れたアンナに駆け寄った。

 アンナの容体は酷く、身体中に焼けた跡があり、素人目で見ても重体とわかるほどだった。


「誰か!救急車呼んでくれ!早く!」


「救急車?……はわからんが回復魔術を使えるものを呼んできたぞ」

 

 そう言ったのはマスターだった。

 マスターは杖を持った女の冒険者を連れて来てくれた。


「どいてください、今ヒールしますから」


 そう言うと、女冒険者は手のひらをアンナに向けると何やらブツブツと呟き始め、しばらくすると緑の優しい光がアンナの体を包んだ。

 すると、あんなに酷かった全身の傷が何事もなかったかのような白く美しい肌に戻った。


「これで大丈夫です。しばらくすれば起きるでしょう」


 女冒険者はそう言って俺を安心させてくれた。



 **



 次の日

 アンナの目が覚めた。

 その知らせを聞き俺はいち早くアンナの病室に飛び込んだ。


「アンナ!わかるか?」


 俺はアンナに問いかけた。

 

「ああ、サトル様。ご無事でしたか……昨日はありがとうございました。私が弱いばかりに魔族一人から守ることもろくにできないで……」


「いや、そんなことは問題じゃない、心配するな」


「いいえ、サトル様はテロを起こした人物を見つけるという己の職務を全うしたのに対し、私は果たせず、ましてやサトル様に守られるという。……お恥ずかしい限りでした。今後は恐らく違うものが私の代わりに入りましょう……サトル様は引き続き頑張ってください」


「いやだ!嫌なこった!俺の護衛はアンナだけだ、それ以外は認めん……だから、早く本調子になってくれ」


「……こんな騎士の恥晒しの私でよろしいのですか?」


「ああ、アンナじゃなきゃ嫌だね、仕事もボイコットしちゃうかも」


 そう言うとアンナは破顔させた。


「サトル様はお優しいんですね。ありがとうございます、ではこうして寝ていれませんね、今から騎士アンナ、サトル様の護衛兼監視の任に戻ります」


 そして、アンナはベットから立ち上がった。


「もういいのか?……まだどこか痛んだりしないのか?」


「はい、もう大丈夫です……元気満タンってやつです。それでは、早速ですけど宰相様に報告に行きましょうか」


 そうして俺たちは、最初に俺が宰相に引っ張られて話を聞かされた別室でリゼルに報告をした。


「それで、昨日の事件の犯人はもう見当がついているのかね、探偵殿?」


「宰相殿、すでに昨日のうちに捕まえましたよ……主に探偵殿の活躍で」


「……ほうほう、どのような活躍だったか詳しく聞いてもいいかね?」


「はい……探偵どのは現場に一度行っただけで、魔王軍のまだ明らかになっていなかった裏組織のボス、その組織の状況、そして今回の主犯が血濡れ姫<トリスタン>であると看破し、まるで知っていたかのように酒場に居たトリントンに巧みな会話術で自白させ、最後は巧みな知恵で彼女を討って見せたのです」


「何⁉️それは全て真か⁉️」


「はい、この目でしかと見届けました……全てサトル様の探偵としての実力です」


「いやはや、サトル様……この度は事件解決ありがとうございました。実はサトル様の実力をこれまで少し疑っていたのです、試すような真似をしてしまい申し訳ございませんでした。私はもう確信しました。サトル様はこの国を救う救世主となってくれるに違いありません。王にもそう進言しておきましょう」


 宰相のリゼルはウッキウキでこの部屋から出ていった。


「……えー、どうするアンナ、これから」


「今日ももちろんお仕事ですよサトル様……この都市だけでなく、他の都市でも事件はいっぱい起こっているのですから、この国が平和になるまでは休みなんてありませんよ」


「……あー、ヤスミガイチニチモナカッタラ、シゴトモウマクイカナイトオモウナ〜〜」


「……むむ、それは困りますね、どうしましょう………………」


「じゃあ、アンナこうしよう。事件を一つ解決したらアンナと一日お出かけする日を設ける……それなら俺、やる気マックスになるよ」


「……1日お出かけ…………デート?…………エッチなのは……無しなので……あれば、いいですよ」


 そういうアンナの顔はゆでダコのように真っ赤になっていた。

 やっぱりアンナは可愛い、こんなに可愛い子が近くからいなくなるとか許せるわけないだろ。

 

「じゃあとりあえず、今日はアンナと一日デートってことでいい?」


――――ボッン――――

 アンナの顔から湯気が噴き出てきた。


「……さっきの約束は今さっき結んだものなので……今から解決した事件一件ごとに……ご褒美があるだけですので……昨日のはノーカンです‼️」


 ――なんと!あんなにピュアだったアンナがルールの抜け穴をつくなんて狡いことを……これは一本取られた


「……なっ⁉️じゃあ今日も仕事ってこと⁉️」


「そうですサトル様!……まあ頑張ったら寝る前に頭撫でてあげるので……それで勘弁してください……」


「わかった頑張る!」


 そう言って再び事件を解決せんと道に飛び出すのであった。

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異世界に召喚された⁉️俺も勇者になれるのかと思ったら何故か探偵になったんだけど 〜ただの元サラリーマンがやったこともない探偵を異世界ですることに、勢いだけで乗り越えてやる‼️ ケルケル @Levyfive55

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