第18話 vsヘッジホッグ
「ヘッジホッグは広域破壊をコンセプトとして設計された戦艦です」
「強いのか?」
「当機の敵ではありません」
ニヤリと笑うツバメに緊張がほぐれる。
相変わらずクールな口調ではあるが、肉体を得たことで一気に人間らしさが増していた。
じいさんと話すニアちゃんの邪魔をさせないためにも、こいつにはさっさと退場してもらわねばならない。
様子見を兼ねて圧縮実体弾を撃ち込んでいくが、余裕で回避される。
同時、バチリと紫電を放ったヘッジホッグ号に、大量の魔法陣が浮かび上がった。
ぞわりとうなじが逆立つ。
――あれはヤバい。
スワローテイル号を振り回すように操縦して回避。
俺たちがいたところを”
「
「敵が作った同様の兵装ですね。出力も精度も低いので別物です」
「ってことは喰らっても大したことない……?」
「……当機の実力なら、直撃しても
「大破じゃねぇか! 無駄に
「帝国製はデザインも性能も連邦国家製に劣っていますので」
おそらくはツバメが作られた時代、敵国だったところなんだろう。
なんだか無駄に張り合っているが、あれに当たれば即座に死ぬことだけは間違いない。
だが、逆に言えば——
「当たらなきゃどうということはない!」
「その通りです。ですから当機の敵ではないと申し上げたのです。高速機動戦艦と名付けられた
”惑星砕き”を避けながら近づく。さすがに連射はできないらしくヘッジホッグ号は実弾射撃に切り替えてきた。
現代兵器ならば全部当たっても大したダメージは入らない。
それ以前に全部見てから避けられるだろう。
だが、相手はツバメと渡り合えるレベルの古代戦艦だ。出力も戦術も現代戦艦とは一線を
「クソ! リロードが早ぇ!」
しかも大量の実弾にレーザーを混ぜてきやがる。
迂闊に突っ込めば思わぬ一撃に沈められるだろう。
「落ち着いて回避をお願いします。当機の性能ならば余裕です」
安全マージンを取りすぎている自覚はある。
だが、相手の手札がある程度見えるまでは、
先史文明の兵装は予想できない効果を持っているものが多いのだ。
『慎重だな』
「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ! 戦闘中にお喋りか!?」
『君が攻めてこないから退屈でね……私のヘッジホッグと渡り合える古代戦艦と聞いていたから楽しみにしていたんだが、とんだ期待外れだ』
余裕ぶったイングリッドは通信モニターの先で勝ち誇るような笑みを見せた。
『先史文明から伝わる至言をくれてやろう――攻撃は最大の防御だ』
ヘッジホッグ号が膨らんだ。
否、装甲の至るところが解放され、格納されていた銃身が飛び出したのだ。
ハリネズミのようなシルエットから、無数のレーザーが発射される。
「がぁぁぁぁ! こなくそぉッ!」
『ふふふ。強襲殲滅戦艦の実力、冥途の土産に味わって
360度、全方位に放たれたレーザーが湾曲してスワローテイルに殺到する。
空間レンズに似た技術だろう。
スワローテイル号との最大の違いは、離れた位置にもレンズを生成、レーザーを湾曲させられるところだ。
『ヘッジホッグは空間レンズの生成が得意技でね』
避けても曲がって追尾してくるレーザー弾幕が俺たちに襲い掛かる。
スワローテイル号を振り回して必死に回避する。空間レンズで少しずつ無効化しながら移動するための空間を確保。無理やり鼻先をねじ込むように移動していく。
おそらくはこれが相手の切り札だろう。
対複数用の全方位レーザー。
そして強敵用の”惑星砕き”。
実弾はバリエーションがあるだろうが、全長が200メルトル以下の小型戦艦だ。
「暇させて悪かったな。今からお前を撃墜してやるよ」
『楽しみだね』
言いながら放たれたレーザーを空間レンズで跳ね返し、
撃ち漏らした実弾は空間レンズで受け止めた。レーザーと違って相手に反射させることはできないが、実弾の勢いを殺す程度のことはできるのだ。
チマチマと圧縮実体弾で反撃しながら距離を詰めれば、イングリッドは簡単に
『小賢しい!』
スワローテイルに向けて突進しながら前進の砲塔を解放する。
再び全方位レーザーを放って勝敗を決めるつもりだろうが、それこそが俺の狙いだ。
「何しろウチの主砲は改修中でな」
『負ける言い訳かね?』
「いいや……的になるのを待ってたんだよ!」
相手が無防備な状態でなければ防がれる可能性があった。
「主砲――”
『所詮は猿知恵だな。全方位レーザーの発射中でも多少は動けるのだよ』
ヘッジホッグが”惑星砕き”を避ける。
「奇遇だな――スワローテイルもそうなんだよ」
”惑星砕き”を発射しながら船体を急旋回させる。
星をも崩壊させる極光がスワローテイル号の動きに合わせて振り下ろされた。
巨大な光刃がヘッジホッグの右翼をごっそりと蒸発させる。
『クッ!? 何だその動きは!?』
「止まらなきゃ撃てないんじゃ高速機動戦艦なんて名乗れねぇだろ?」
通信越しのヘッジホッグ艦内が赤のランプに染められる。
古代戦艦とはいえ無視できない損害って訳だ。
被害を確認するために視線を走らせるイングリッド。
だが、それ自体が大きな隙だ。
スワローテイル号は空間を歪めての高速機動でヘッジホッグと激突するほどの距離まで近づく。
目を離したイングリッドには、瞬間移動したように見えただろう。
『なっ!?』
「しこたま喰らえ」
ゼロ距離射撃。
ヘッジホッグの破損部分に鼻先を押し付け、ありったけの圧縮実体弾をぶち込んだ。
基本的に外側が固い古代戦艦だが、内側はそこまでではないのだ。
イングリッドの敗因は一つ。
対古代戦艦の経験がないことだ。
古代戦艦の性能任せに戦うだけの雑魚なんぞただの的だ。
『クソぉ! 私は”三等星”だぞ!? ヘッジホッグのマスターなんだぞ!?』
「経験不足だな。俺が今まで戦った古代戦艦はこんなもんじゃなかったぞ」
『何を言っている!? 古代戦艦と戦った経験でもあるというのか!?』
「ああ。死ぬほど戦ったよ」
シミュレーション内では古代戦艦とも何度も戦った。
だからこそ慎重になってたんだよ。
意味不明な兵装のせいで何回ボッコボコにされたことか……。
「何はともあれ、俺たちの勝ちだ」
俺の宣言の後、ヘッジホッグ号が連続した小さな爆発に呑み込まれた。
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