第14話 潜入
ナーロウ公爵の言葉を受けたAIが無人艦隊を展開させていく。
あっという間に布陣が敷かれた。
半分は宇宙空間にそびえる公爵の居城を守るように。
そしてもう半分は、タツヤの乗るスワローテイル号を取り囲むように。
「どうした? 恐ろしくて声も出ないか? 古代戦艦は強い。が、所詮はスペックに頼った強さ! 先史文明の兵器同士で戦った経験などあるまい」
圧倒的兵力差に勝ち誇る公爵。
だが、モニターに映るタツヤは余裕のある態度を崩さない。
それどころか、公爵の言葉を鼻で笑って見せた。
「気でも狂ったか。お前が振り回していた玩具が、今度はお前に向けられているんだぞ?」
『だったらどうした』
「……推進器を狙って航行不能にしろ。間違っても撃墜はするなよ?」
『お前こそ古代戦艦と戦ったことねぇだろ。ほえ面掻かせてやる』
そして、戦いの火蓋が切られた。
夜空に散らばる星の如く、公爵の無人艦隊が展開していく。
その布陣を前に、スワローテイル号は左右の実弾発射口から弾丸を吐き散らかした。
音速の10倍にも達した弾丸が無人機のシールドを食い破り、そのまま艦橋を破壊した。
「なっ!? 先史文明の遺物を解析して作ったシールドだぞ!?」
『マスターに代わって私がお相手しましょう。先史文明を舐めるな』
「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」
高速で移動する無人機の隙間を縫うようにスワローテイル号が宙を奔る。
ほぼゼロ距離で艦橋を撃ち抜かれた無人機たちが
反撃する無人機たちの弾丸は一発たりともスワローテイルまで届かない。
『接続が切れると自己判断すらできない
スワローテイル号の周辺に
ツバメの計算によって無人機からのレーザーを捉えた歪みは、光を歪曲させてそのまま撃ち返す。
無人機のシールドにぶつかり、宇宙空間に火花にも似た煌めきが散る。
ツバメはそれらを確認すると同時、レンズの角度を調節していく。
「ッ!?」
複数のレーザーを収束させた光が、シールドをブチ抜いて無人機を爆発させた。
『空間レンズにすら対応できない癖に、よくも解析したなどと言えたものですね』
「な、なんだ……何なんだそれは! 私が手に入れた遺物にはなかった! ”
『惑星を蒸発させ、銀河系を滅ぼす力のぶつかりあいがあったのですよ。激戦地にあった兵装が残っているとでも?』
「そ、そんな……それは誇張された伝説では……!?」
『あなたが手に入れたのはせいぜい僻地に回された払い下げ品か、まともに戦えない者に渡された自衛用の玩具でしょう』
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な! そんなはずはない! ええいクソ! さっさとあの戦艦を撃ち落とせ!」
『おや、あなたが御執心の自動人形はよろしいので?』
「うるさい! お前が乗っているのが本当に古代戦艦ならば、そうそう大破などしないだろう!」
『支離滅裂ですね……マスターのようにエレガントでスマートな方に仕えられて幸いだと判断しましょう』
無数の無人機が陣形を組み替えながらスワローテイル号に殺到する。
囲んで降参させるのではなく物量で圧殺するための陣形だ。
自分の動線を確保するため、スワローテイル号は容赦なく射撃していく。
が、破片の間を無理やり埋めるように次の無人機が船体をねじ込んだ。
『スマートではありませんね。そのレベルのシールドでは、座礁の可能性もあるのでは?』
「2000の無人機だ! お前さえ潰せるならば何機でも使い潰してやる! ワタシに盾突いたことを後悔しながら潰れ死ね!」
『……はぁ。本当に、マスターとはえらい違いですね。一つお伺いしますが、どういう計算をすれば2000匹のコバエの体当たりでゾウに勝てるのですか?』
「ッ! ぶ、ブチ殺してやるッ!」
『死という概念はございませんので、遠慮申し上げます』
スワローテイル号の左右に、大量の空間レンズが生成された。
同時、スワローテイル号が空間レンズに向けてレーザーを放つ。
レンズによって歪曲した光は、ナノ単位の精密な角度計算によって分裂――二本に分かれる。別のレンズに当たりさらに歪曲、分裂。
それが繰り返され、たった二本のレーザー光が空間を埋めるほどの量へと分裂した。
レーザーを溜めるスワローテイル号は、左右に輝く歯車を
『当機のレーザーでは残骸すら蒸発してしまいますので、2048本に分割致しました。あなたが解析したと
全方位に向けて射出。
公爵の用意した無人艦隊は、その全てが物言わぬ
「……ばか……な……!」
――ズンッ。
絞り出すように
——否。
伯爵の乗った要塞型戦艦が揺れたのだ。
「し、侵入者です!」
「馬鹿な! どうやって!?」
『マスターもそちらに着いたようですし、サポートにお迎えの準備と忙しいので、これで失礼しますね』
***
「生きた心地がしなかった……まさか今度は自分から乗るハメになるとは思わなかったぜ」
「乗ったことがあるんですか?」
要塞型戦艦にたどり着いた俺は脱出ポッドから飛び降りる。
次いで棺桶を背負ったニアちゃんが降りるのを手伝って、額の汗をぬぐった。
汗で服まで濡れていた。
と言っても乗り心地が悪かったわけじゃない。俺たちが使ったのはニアちゃんが乗ってた貨物船の脱出ポッドだが、ツバメが改造してくれたのでかなり快適だった。
じゃあなぜこんなに汗だくなのかと言えば、要するにトラウマだ。
ただでさえ脱出ポッドには良い思い出がないのだ。ツバメが操るスワローテイルと公爵の無人機が撃ちあいをする宙域をこっそり進むとなれば汗が止まらなくなるのも仕方ないことだろう。
「まぁ、ツバメがうまくやってくれたから問題なく侵入できたけどな」
無人機の
会話で公爵の気を引きながらも裏で要塞のドッグをハッキング。
俺たちを要塞内部に潜入させてくれたのだ。
「おじい様と一緒に脱出したら、後でたくさんお礼を言いたいです」
『お礼は不要です。マスターの役に立つことこそ当機の存在意義ですので』
「だからこそ、だろ。ありがとうな」
ツバメ謹製のレーザー銃を握りしめ、艦内を走り抜ける。道案内は通信端末から聞こえるツバメの声だ。
ハッキングで拾ったデータのほとんどが無駄なものだったが、その中にこの戦艦の見取り図が存在していたのだ。
俺たちの移動に合わせて内部の監視カメラもリアルタイムでハッキング。
目指すはお祖父さんが囚われているであろう場所だ。
「人嫌いってだけあるな……監視カメラをツバメが抑えただけでここまでザルになるとは」
ニアちゃんの代わりに自動人形入りの棺桶を背負い、小走りに進む。一応は伏兵を気にしているが、敵どころかトラップやセンサーの類も見当たらなかった。
本来は敵が入り込むことのない要塞艦だ。
AIばかりで裏切れる人間が存在しないのが裏目に出たのだろう。
俺の背後には、は、と短く息を弾ませるニアちゃん。
お祖父さんの救出に当たり、どうしても同行したいと言って聞かなかったのだ。
本当は安全なスワローテイル内部に残っていて欲しかったのだが、居ても立ってもいられなかったらしい。俺もお祖父さんの顔すら知らなかったので、渋々同行を許した。
「大丈夫か?」
「は、はい! ふぅっ……ふぅっ……」
目的の部屋が近づいてきたので少しだけ速度を緩める。
「自動人形まで持ってくる必要はなかったんじゃないか?」
「念のため、です。何かあった時に、おじい様の身柄と引き換えにできるかと思いまして……」
「まぁ、それはそうだな」
ヘンタイ公爵のことだから、自動人形と引き換えなら喜んでお祖父さんを渡してくれるだろう。
……まぁ、真正面から喧嘩を売った訳だし、交渉しようとした直後に撃たれる可能性もないではないけれど。
『次の廊下を右に曲がった突き当りのドアです。他に比べて異常に厳重なロックが掛かっています』
「あいよ」
ちらりと覗けば、そこには武装したアンドロイドが二体、立っていた。
機械的なセキュリティだけでなく、物理面でも警備を敷いてるってことはアタリだろう。
「やるか。ちょっと離れていて」
「はいっ……!」
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