第5話 稼業
腹も膨れたところで空いた客室の一つをニアちゃんに振り分けた。
……まだ俺の居室すら決まっていない状態だったけど、ちょっと眠そうにしてたしまだ子供だから仕方ないだろう。
『後でマスターの居室はしっかりカスタマイズ致します。調度品はもちろんのこと、壁の色やドアの大きさ、天井の高さまで自由自在ですので何でも申し付けください』
「ありがとな、ツバメ」
『……! いえ! このツバメ、マスターの役に立つことが存在意義であり至上命令ですので!』
合成音声なのに、何故か尻尾をぶんぶんふるワンコが幻視できてしまうような雰囲気だった。
「ちなみに
『移動方法によりますね。超重力航行でしたら5分ほどです』
「……はい?」
『ですから、5分ほどです。正確には4分43秒ですね』
どういうことだか聞いてみたら、俺たちが知らない銀河に飛ばさされたブラックホール。
あれと同じようなものを意図的に作り、空間を歪めながら航行することで距離をうんぬんかんぬん。サッパリ理解できなかった。
とんでもなく目立ちそうなのと、早く移動したところでニアちゃんのお祖父さんは着いてないだろうことを考えて超重力航行は無しとなった。
『宇宙海賊を掃討する時にスキャンしておきましたので、一般的な移動方法もある程度は類推できます』
現実的な手段となったのは
星々の間に設置されたゲートを使って、一切の障害物が存在しない空間を通る方法だ。
ちなみにゲートは先史文明の遺物を手入れしたものだ。
『破壊されると脱出が手間なのであまりオススメはしませんが』
「大丈夫だよ。ちっとやそっとのことじゃゲートは壊れないし、何より亜空間に閉じ込められたら普通は出て来られない。自分が巻き込まれるかもって状況でドンパチやるやつは早々いない」
ツバメはできるっぽいけど、普通の船じゃ無理だ。亜空間で遭難したら、食料が切れる前にゲートの修復が終わることを祈る他ない。
「あと、ゲート付近での戦闘は重罪だ。特に戦闘を仕掛けた側は国を超えて指名手配される」
『その程度で止まるものですかね?』
「俺が住んでた地域では約200年前にゲート破壊未遂が起きた。結論として、警察や傭兵を追い払うため、指名手配犯は他の宇宙海賊に討伐されたらしい」
とりあえず宇宙空間で一晩過ごし、俺が起きたら最寄りの宇宙港で懸賞金を貰う。その後は
各惑星ごとにゲートが設置されているので、亜空間を出たり入ったりを繰り返しながらの移動になる。
「ついでに海賊狩りと
ゴミ掃除をして金まで稼げるなんて最高だ。ツバメに開発してもらうための物資や食料品を買い込むために金はいくらあっても足りないからな。
「そういや、ツバメは欲しいものとかあるか?」
『欲しいもの、ですか』
「そうそう。開発用の物資でも良いし、装飾品とか兵装とかでも良い。すぐに買えるかは分からないけど、可能なら検討するよ」
『よろしいのですか!?』
「ああ。拾ってもらってからこっち、世話になりっぱなしだからな。俺を代表として仰いでくれるのは嬉しいが、少しは俺も返せるようにしたい」
『……ツバメは果報者ですっ……!』
「助けてもらってるのは俺だ。遠慮せずに言ってくれ」
傭兵団。何でも屋。運送屋。
言い方は何でも良いし、メンバーは俺とツバメだけだが、福利厚生にはこだわりたいもんだね。
……そうだ。そういうのをきちんと決めておこう。
社訓は宇宙海賊の絶滅。
福利厚生は俺の理想にしよう。ブラック企業とか思われたら自殺したくなる。
あとは——
「社名かー。そういうセンスないんだよなぁ」
『ラウル星系連邦国家、では?』
「さすがに国家を名乗る勇気はない」
『ふむ……それでは、相談してみてはいかがでしょうか』
「相談って……誰に?」
俺の言葉に反応したかのように、ドアがノックされた。金属製の自動ドアだが、俺の部屋なので俺以外には反応しないらしい。
「開けていいよ」
扉の外にいたのはニアちゃんだ。
「あ、あの、その……ですね」
頬を赤らめた少女はもじもじと視線を
「わ、私、普段、おじい様と寝てて……その、慣れないところだとちょっと寂しくて、その」
『つまり
「ヴァッ!? 待て、ツバメ! とんでもないこと言ってるぞお前!」
「よと、ぎ……? って何ですか?」
『一緒に寝ることですよ。広義の意味で』
「そうなんですね。なら、夜伽、したい、です……!」
待ってくれ。
いくら幼いとは言えニアちゃんは美少女だ。
それが頬を赤らめ、恥じらいながら夜伽を所望する姿はどうにも背徳的だ。
俺がロリコンだったら即座に宇宙警察や星間軍のお世話になるだろう。
いや、ロリコンじゃなくても魔が差す男がいてもおかしくないレベルだろう。
あいにくと俺はロリコンじゃないしブラック企業でも歯を食いしばって耐えられるくらいの精神力を持っているので犯罪行為には及ばないが。
あと何年か後だったらヤバかった。
「……危うく宇宙海賊並みのゴミカスになるところだった」
「?」
「いや、こっちの話だ。とりあえず添い寝だけならいいぞ」
相手はまだまだちびっ子だからな。
恥じらう姿と台詞がマッチしすぎて妙な感じになったが、普通に添い寝したいだけなのだ。
広い宇宙で肉親と離れ、一人きり。おまけにお祖父さんの安否すら分からないのだ。一人じゃ寝付けないのも無理はない。
「さ。寝るぞ」
「はいっ」
俺が妙な緊張感に包まれる中、ニアちゃんは疲れていたのかすぐに寝息を立て始めた。
「……おじい、さま……」
ポツリと呟いた言葉に思わず顔を覗き込む。
ニアちゃんの目からは、一筋の涙が流れていた。
……無理もない。
まだ小さな子供だもんな。どれほど強がっていても、不安で仕方ないんだろう。
俺の両親が死んだとき、助けてくれる人なんていなかった。
でも、だからこそ俺はそうなりたくない。
子供が独りきりで困っていたら、手を差し伸べられる大人でありたい。
「……んっ」
「ッ!?」
眠っているニアが俺に抱き着いてきた。
暖かく柔らかな感触。
……俺は大人だ。大人だから大丈夫。何もしない……ッ!
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