第3話 古代戦艦の実力
「こちら高速機動戦艦スワローテイル、艦長のタツヤ・フジシロだ。応答願う」
モニターに映る武装船団と輸送船に通信を送る。
オープンチャンネルなので相手が受信できないことはないはずだが、武装船団のうちの何隻かがこちらに回頭してきた。
当然、通信への反応はない。
『マスター。粗雑で野蛮な砲塔がこちらに向けられておりますが。殲滅しますか?』
AIのはずだが、ずいぶんと主観的な観測結果である。
しかも相手をディスってる割にツバメの提案も野蛮だが。
『通信
「繋いでくれ。こちら高速機動戦艦スワローテイル、艦長のタツヤ・フ——」
『助けてくださいっ! 宇宙海賊ですっ!』
モニターに、エプロンドレスのワンピースを身にまとった少女が大写しになった。
12、3歳くらいだろうか。肩口で揃えられた栗色の髪。
くりっとした瞳に長い睫毛。
すっと通った鼻梁と桜色の艶やかな唇。
将来的に美女になることが約束されたような少女だった。
目に涙を浮かべ、必死の形相で懇願する彼女が呟いた言葉が俺の脳内でリフレインする。
「宇宙、海賊……?」
『はいっ! お願いします! このままでは艦内に乗り込まれてしまいます!』
「了解した。しばらく待機しておいてくれ。絶対に動かないように」
宇宙海賊。
俺をブラックホールに射出しやがったクソどもの同類だ。
「ツバメ。殲滅できるか?」
『ご命令を』
「殲滅するぞっ!」
俺の意思を叶えるため、メインモニターに観測情報が溢れ、兵装一覧が表示された。
ほとんどが改修中でグレーアウトしているので、選べるのはたったの2つ。そのうちの1つが勝手に選ばれる。
『マスターが乗っている場合、ツバメは正当防衛レベルの反撃しか行えません。射撃をお願いします』
「はいよっと。圧縮実体弾射撃……?」
目の前に出てきた操縦桿を握った。
射撃そのものに自信はない。だが、ツバメの演算能力を使っての弾道予測がモニターに表示されていた。
これなら誰だって当てられるだろう。
『近接戦闘時、味方を爆発に巻き込まないように開発されたものです。着弾と同時に重力波を発生させ、マイクロブラックホールを4ナノ秒間生成し——』
「よくわからんが、輸送船を巻き込まないんだな?」
『はい』
即座に
早ければ早いほど良いのだ。
スワローテイルの左右から伸びた槍型の機構が変形、先端部に銃口が現れた。
発射された弾丸が吸い込まれるように武装船団の一隻へと突き刺さった。
寸分
二次元的な魔法陣が船を取り込む形で現れた。
「なんだあれは!?」
『ヴェルカ式平面積層型魔法陣ですね』
「いや、種類じゃなくて——」
俺が質問を続ける暇もなく、船体が内部へと引きずり込まれるように歪んでそのまま大破した。
「爆発どころか
『この程度の戦闘でゴミを散らかすなど、マナー違反です』
マナーについて小一時間問い詰めたくなるようなドヤ感だが、今はありがたい。
輸送船を誤射する心配はなく、巻き込む心配もないなら撃ち放題だ。
魔法陣も意味は分からない。
だが、ツバメが扱い、俺にプラスになるなら問題ない。
宇宙海賊どもが撃ち返してくる。
実体弾頭の軌道予測がモニターに表示されるが、
『回避します。マスター、少々揺れますのでご注意を』
「揺れてないんだよなぁ」
『お褒めに預かり恐縮です』
いや、褒めてもないんだけど。すごいとは思ってるけどさ。
船首を宇宙海賊どもに向けたままスワローテイルは真横に滑る。
船尾のスラスター以外にも推進機が存在しているのだろうが、まるきり出鱈目な移動に思わず笑ってしまう。
「宇宙海賊どもの驚く顔を見たかったぜ」
『かしこまりました。ハッキングします』
「えっ」
俺が止める暇もなく、サブモニターにどこかの船内が映し出された。小汚いおっさん共が唾を飛ばしながら怒声をあげている。
『なんだ今の動きは!?』
『クソ! さっさと撃墜しろよ! 護衛を呼ばれたら面倒だぞ!』
『それより銃撃が妙だ! 爆発せずにぶっ壊れるとかどうなってんだよ!』
『知らねーよ! 新兵器じゃねぇのか!?』
『逃げるか!? 本隊に連絡入れて指示を仰ぐぞ!』
『馬鹿! この航路を割り出すのにいったいいくら積んだと——』
あっ、接続が切れた。
丁度俺が撃った船だったらしい。即座に
結局、五分もしない内に宇宙海賊は全滅した。後に残るのは圧縮で出来上がった金属塊
再び輸送船と通信を繋ぐ。
『危ないところをありがとうございました!』
「いや、別に構わない。助けは呼べるか?」
『それが、推進器も長距離通信機も破損してしまいまして……』
なるほど。このままだと身動きが取れないわけか。
「最寄りの宇宙港まで
『船内の食料を全部差し上げます!』
「いや、お金は払うよ」
『宇宙海賊を撃退していただいた上に曳航までしていただくのですから受け取れません!』
意地でも受け取らないぞ、といった雰囲気の少女。一生懸命な様子を見て思わず口元があがった。
「それじゃ、そっちと接続する。武装は敵対と見なす。解除を頼む」
『入艦時に全身をスキャンいたします。体内に隠した爆薬まで見逃しません』
さすがに、行きずりの人間相手に自爆テロまではやらないだろ。
「見つからないようにやれるか?」
『威圧効果が下がりますし、体表の武装しか発見できませんが』
「それで良いよ」
『では、相手が武器を取り出した場合にのみ、撃退する許可をお願いします』
「分かった分かった。過保護だな」
『ツバメにとってマスターより優先するものはございませんので』
お、おう。
ありがたくも重たい言葉だ。
それから10分ほど後、大荷物を引きずった少女がスワローテイルに入艦してきた。
左右の大きなバッグには、
いいとこのお嬢様っぽく見える彼女が背中に担いでいるのは、
「……棺桶……?」
目を伏せた裸の少女が入った、金属製の棺桶だった。
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