第4話 死を目指す緊張
「千明君!千明君!千明君!...餅つき雀!!」
「んあっ!」
体を掛かった毛布を薙ぎ払って体を起こす。
「起きた?おはよう」
「...おはようございます。って何でスーツ着てるんですか?今日は土曜日ですよ?」
「休日出勤。まだ寝ててもいいけど、私もう行くからね?」
「...分かりました」
「じゃ!」
優菜さんが玄関までスタスタと歩いて行く。ドアが閉まりガチャリと鍵が掛かった音が聞こえる。それを見届けた後ソファから起き上がって、使っていた毛布を畳む。
「ふぁーー。意外とグッスリ寝れたな。お腹空いた」
水道から水を出して手にすくって飲む。
「なんか買いに行くか」
机の上に置かれた予備の鍵を手にして、僕も玄関を出る。優菜さんは不用心だと思う。出会って1日も経っていない、どこの誰かも分からない僕に家の鍵とオートロックを解除する4桁の暗証番号を教えてくれたからだ。
もし僕が悪い奴でこれを悪用するような人間だったら大変だ。でも僕はそんな事はしない。優菜さんは見る目は確かのようだ。
「はぁ、疲れた」
家の近くにもコンビニはたくさんあったのに、わざわざ昨日いた広場の近くのコンビニまだ歩いて来てしまった。
コンビニでバナナを買って、昨日も座ったベンチに腰を掛ける。
「おにぎりでよかったな。こんなに食べれないや」
バナナを日本食べてギブアップ。残りをリュックに押し込んで立ち上がって移動する。
広場の前を流れる小さな川を眺める。川を流れるのは水だけではなかった。桜の花びらが次々と流れて来る。それもそうだ。この川に沿って桜の木がびっしりと立ち並んでいる。僕の頭に降り立った花びらを、親指と人差し指で慎重につまんで川に流す。上を見上げると桜の木には、もう緑が舞い込んでいる。
桜の木々の合間からデカデカとした、家電量販店の看板が見える。ずっと欲しいと思っていたゲーム機を思い出して、家電量販店に駆け込む。
「やっぱり高えよなぁ...」
3万円するゲーム機はいつ見ても高い。今見たら気軽に買おうと言う思考になると思ったが、僕は思ってる以上に貧乏くさいようだ。明日死ぬかもしれない状況でも、無駄遣いはしたくない。
「ん」
また心臓がドキドキして来た。何でこんなに緊張してるんだ。緊張する事は大抵の場合は嫌な事だ。でも、この緊張を乗り越えてしまえば、小さな事でいちいち緊張しなくてよくなる。死体になる事が出来れば鼓動を忘れ去っても許される。
「ああぁ、まだドキドキして来た」
ドキドキの元を来ている服ごと強く握る。
「...もう帰っちゃおうかな」
そうすれば一旦はこの緊張から解放される。でも、それじゃ意味がない。先延ばしにしてるだけ。逃げ続けてるだけの人生じゃ駄目だ。ケジメをつけて今日終わらせよう。それに今逃げたら優菜さんの家の鍵返せないし。
「航大くん?」
逃げるように、この場から立ち去ろうとする僕の背中に声が刺さる。聞こえたのは見ず知らずの街で呼ばれるはずのない自分の名前。聞き覚えのあるような、ないような声に少し硬直して立ち止まる。硬直から解き放たれてから後ろを振り返る。
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