第6章 救いたいと言われても<3>
厨房で座り込む裸の男に、寄り添う美女の
「あらら、すごいわー。
覗きに来た
「メリさんが凄いおかげで安心してお風呂に入れるようになったのです」
「天ちゃんにとって、メインヒロインなわけね」
「メインも何も僕にとってメリさんこそです」
元気はつらつで答えていた天風だが、ふと目に止まった愛莉紗の表情に慌てた。
「す、すみません。実習の関係なくせに、鼻血ぶーなくせに、僕、調子に乗ってしまいました」
「そうじゃない、そうじゃないの。ただわたしは悪役令嬢だから、きっといつまでも天風にとってのヒロインではいられないと思う……」
「そんなことはないと思います。少なくともメリさんが僕を嫌にならない限り、ずっとこのままです」
天風……、と呼ぶ愛莉紗の声は小さく震えている。感激を抑えられないまま目を向けたら、あら? となった。
一見して判る、どんより黒い空気を全身にまとう天風だった。
どうしたのよ、と愛莉紗が訊かずにはいられない。
「こんな僕じゃ、いつ愛想尽かされてもおかしくなかったのでした。もしかして明日にでも捨てられるかもしれなかったのでした」
なんでそこまでネガティブに……、と愛莉紗が指摘というよりツッコミかけた。
どんっ、と天風の背中を侖田が叩いた。
「なに情けないこと言ってんの、天ちゃん。捨てられそうになったらその脚にすがりついてでも離さないくらいの気持ちでいなさい。まずはそこからよ」
そうです、そうでした、そうします! と天風が元気を取り戻していた。
まともに受け取っている夫役に、はははと愛莉紗は冷や汗を浮かべるような笑いを挙げるしかない。
「さあさあ、二人とも、急ぐんでしょ。ペットも含めて今の家族実習を終わらせないために」
「はい」と天風が、「そうです」と愛莉紗の返事が食堂内に響く。
侖田が椅子に丸くなっていた三毛猫ニンの首をつかんだ。天風の肩に乗っけようとした。が、途中で運ぶ手が止まる。掲げては、だらんとした猫の身体をまじまじ見つめては驚きを挙げてくる。
「あら、この三毛猫、珍しい」
「何がです」
訊く天風に、侖田はニンの腹より下から目を離さない。
「男のものが付いているじゃない。三毛猫のオスなんて滅多にいないのよ」
「そうなんですか、男だけで凄いんだ、ニンじゃもは」
ほぼ辱めに遭っている上に、天風の褒めも引っかかる部分がある。
じゃも〜、と三毛猫ニンが力なくうなだれているように愛莉紗の目には映る。たぶん間違いないだろうと思われる次第である。
ぽんっと天風の頭に三毛猫ニンが置かれた。
「いーい、あなたたち。ちゃんと帰ってきなさい。自分はもういいなんて考えちゃダメよ」
猫を頭に載せる姿がとてもよく似合う演出した侖田がちょっぴり真面目な顔をした。
「大丈夫です。昔の僕ならそう考えたかもしれませんが、今はメリさんにニンじゃももいます。それに何がなんでも希愛を連れて帰りたいと思えています」
元気満々な天風の答えだった。
だからだろうか。
笑顔で二人と一匹を送り出した侖田は、すぐに食堂に設置された電話を取った。あなた、と呼びかける相手へ矢継ぎ早に言葉を繰り出している。
「わかった、今すぐ手配しよう。それにしてもキミが頼み事など珍しい。余程のことなんだね」
受話器の向こうから響いてくる年配男性の渋い声だった。
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