第5章 あやかしだと言われても<6>
固く忙しい足音が焦りを表しているようだ。
心に余裕がなさすぎた、と
建物へ入った早々だ。
エントランスで囲まれる。銃を構えた五人の戦闘員、そしてヘルメットを被らないチーフの
もちろん黙って聞き入れなどするわけがない。
「拘束類いのお話しなら、お断りします。僕たちはとても急いでいます」
天風のはっきりした拒否に、父親ほど離れた
「ならば実力行使をもって聞き入れてもらうしかない。我々は
いきなり致命的とする弱点を突いてくる。昼間の一件で、すっかり天風の状況をつかんでいるようだ。昔から知る人物だけに、気質は承知している。
天風が
「どうして渓多のおじさんは、ここまで僕の邪魔するのですか」
チーフを付けない、かつての呼び方をしてしまう。
相手は表情を一切動かさずだ。
「任務だからだ」
「嘘です、それ。もし任務なら先ほどと同じく他分隊まで動員して当たるはずです。なのに今は自家の戦闘員だけで来ている。渓多さんの一存とは言いませんが、己れの意向とする部分は大きいはずです」
ここで初めて第二分隊チーフが感情を表に出した。苦味を含んだ顔を向けてくる。
「相変わらず天風は変に鋭いところがある。そうだ、これは私の意向が強い。だが我が分隊の戦闘員も強く同意してくれている」
「どうして、そんな……」
「
きっぱり断言してきた。だからこそ天風は疑義を呈す。
「
「だが非常に可能性が高い。もし妖だったら、どうする? それを家族に迎えるなど正気の沙汰ではない。今は良しとしても、いずれ破滅を招くぞ」
渓多チーフの確信に満ちた言を正面から受け止めていながら、天風はこの場をどう切り抜けられるか考えていた。引き取る意志は変わらない。背後にある
うっとするうめきが、不意に上がった。
取り囲む第二分隊の右手にいる戦闘員が発生源だった。
どさり倒れていくなか、背後から同じ戦闘スーツに身を固めた者が現れる。別の分隊であることはスーツに走るラインの色が第二分隊を示すブルーではない点から判別できる。
色はグリーン、第七分隊であった。
囲いのなかへスライディングで飛び込んできては、天風の前へやってくる。すっと立ち上がれば、黒のバイザーを上げた。
「遅くなってすみません、チーフ」
ヘルメットから覗く目が笑いかけてくる。
「来てくれたのですか。ありがとう、
「や、やですよー、チーフ。名前で呼びますぅ?」
思いきり顔を赤くする栞里に、天風は相も変わらずだ。
「でも僕は任務中でも名前で呼んでます」
「特別ってわけじゃないんですか」
妙にがっかりしている自分に気がついた栞里は慌てて呟く。や、やだ、わたしったら……、とあたふたしている。
愛莉紗は興味深く眺めていたが、天風が気に留められるわけもない。あくまで感謝に通じる声で謝罪する。
「でも、すみません。辞めるとか言っている僕のために来てくれるなんて申し訳ないです」
「チーフの意志はともかく、まだ第七分隊は解体していないんですから。わたしは部下として来るのは当然です」
栞里は右手にした武器を掲げた。M二○三系グレネードランチャの銃身先を第二分隊チーフへ向けた。
標的と定められても渓多チーフは眉一つ動かさない。
「それを撃つということがどういう結果をもたらすか。解っているんだな、
「ええ、もちろんです。クビになるくらいの覚悟は出来てます」
にっこりして答える栞里だ。
それに応答した者は会話のやり取り相手ではなかった。
「えー、そーなんですか、栞里さん。それだけの腕を持っておきながら辞めるなんてもったいなくないですか!」
代わりに天風が異議を唱えるときた。
「えー、それってチーフがいいます? この仕事において、わたしなんかより咸固乃天風を失うほうが、ずっともったいないことだと思います」
「あっ、そっか。僕が言えることではなかったです。すみません」
本気で謝る天風である。
うん、もぅ、と栞里は唇を尖らせたものの、すぐに明るい顔つきを見せてきた。
「想像していたよりおもしろい方ですよね、チーフって。だからわたしも最後まで部下でいることを優先します」
栞里さん、と呼ぶ天風は感激しかない様子だ。
「さぁ、第二分隊のみなさん、どうします? チーフやその奥様を狙う暇はありませんよ。急いで渓多チーフの護衛に回らなければ、そちらの分隊に未来はなくなりそうです」
ヘルメット越しとはいえ、いずれの第二分隊戦闘員に怯みが窺えた。
ふっと栞里が笑みを浮かべた時だ。
「撃て」
渓多チーフが命令を下せば、慌てたのは栞里だ。
「冷静な判断力を失ってませんか。わたしの性格は聞き及んでいるでしょう。それに渓多チーフが消えたら第二分隊は解散となりますよ」
「撃てと言った相手は第二分隊戦闘員だけではない。詩加波戦闘員、
えっ? と驚きを上げずにはいられない天風であった。
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