第5章 あやかしだと言われても<4>
夕闇が濃くなっていく。
そろそろ身を潜めながら近づこうと
ふと上空を見上げ、右腕を上げた。
三毛猫ニンが肩にしがみつく
「来ます」
天風が鋭い一言で返す。
程なくして前方を塞ぐように広場中央へ降り立つ二つの影があった。
上空から砂埃を立てて着地すれば、両者ともにこやかな表情を振り向けてくる。
「ハァ〜イ、隊長さん。あたしらの気配を察するなんて、さすがね」
「機械の力に頼っているだけじゃないんだな。想像していたのと違って立派なもんだよ、隊長は」
現在、天風を隊長などと呼ぶ者は二人しかいない。しかも先日に会ったばかりだ。
「ソーヤーさんとムーアさんに、褒めてもらえると嬉しいです」
まず頭を下げてくるから、ラストネームを呼ばれたほうは相変わらずにこやかだ。
ホント大したものよ、とブロンドヘアの白人女性であるロススト・ソーヤーが両手を振る仕草を取ってくる。
いやいや謙遜すなって、と褐色の筋肉に筋が浮かぶイーニス・ムーアは気さくに返してくる。
ところが天風ときたらだ。あのぉ〜すみません、と何やら気まずそうな顔を見せた。
なんだなんだ、と戦闘用スーツでやって来たロスストとイーニスは思わず前のめりである。
申し訳なさそうに天風が種明かしをした。
「僕の右目って、義眼なんです。普段は普通にしているんですけど、今回はいつもより遠方を望めるようにしてあります。すいません、僕じゃなくてプロテーゼのおかげで二人をいち早く把握できただけです」
「でもすげぇーじゃねーか。何キロ先も見えるのか?」
「そこまでは無理です。せいぜい数百メートルくらいですかね。普段は必殺技を出すとき用って感じです」
イーニスの問いに、あっさり解答を寄越す天風である。だからだろう、ロスストがやや困った口調で言う。
「隊長さん、そんな簡単に教えたら良くないね。あたしらの素性をよく知らないでしょ」
「だけど
「知ってたの?」
「いえ、知らないです。だけど他のシティから派遣されてくる人は、だいたい僕の調査で来ていると本部長から聞いています」
なるほどね〜、とロスストが納得している。
あの二枚目の狸か、とイーニスは苦笑している。
肝心の天風といえば急いでいる。
「そういうことでいいですか。僕はいつまでも話しをしている暇がないのです」
ロスストとイーニスが顔を見合わせている。目で互いの意思を確認したようだ。
「悪いね、隊長さんの言うことは聞けないよ」
「ああ、俺たちは協力して事に当たるよう言われているんだ」
嘆息を吐いた天風だ。決して良い話しなわけがない。それでも
「僕の行く手は邪魔しないでください。本当に急いでいます」
「悪いな、行く手どころの話しじゃないんだよ」
答えたイーニスは指なし手袋をはめていく。手の甲に当たる部分には突起物が見える。完全に武器とするものを装備していた。
「先日の魍獣に対して、隊長が見せた戦闘力に驚いたよ。こいつはヤバいって」
「だからプロテーゼを付けていない今がチャンスね。抹殺するのは」
もうイーニスとロスストから笑みは消えていた。
「天風……」と愛莉紗だけでなく、「天風殿……」と三毛猫ニンまで心配そうにかけてくる。
「後ろに下がっていてください。全力出すけど沈着冷静に、かつ急ぎます」
天風は真面目そのものだが、なぜか聞いていたほうはウケていた。了解とする一人と一匹の返事には明るさが混じっていた。
ロスストが鞭を取り出した。
「良かった、隊長さんがやる気マンマンで」
「急いでますから」
そう言ってはダッシュをかける天風だ。鞭が飛んでくる。
ウソ、と思わず発してしまうほど信じられないとするロスストだ。
空気を裂いてうなる鞭が、悉く避けられている。そんな経験はほとんどしたことがない。
懐に飛び込まれれば、手にした鞭は叩き落とされ、背後を取られた。
「どうして隊長さん、すごすぎるよ。実は足にプロテーゼ、付けてたりする?」
腕を捻じ上げられたロスストが背後へ問いかけた。
「付けてません。けれど僕は通常の補足機でも自分の身体に付いてこられるよう、常日頃訓練しています」
「だからってここまで身体能力上げるなんて、普通はできないね。やっぱり咸固乃天風はスゴいよ」
すっかり降参のロスストである。
天風としては、とても有り難い。交渉材料を得られた。
「すみませんが、こちらは人質を取らせていただきました。だからイーニスさん、引いてくだ……」
言い切らないうちだった。
まともに喰らったら無事ではすまない拳が飛んできた。
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