イツライ

・イツライ

1stライブ、本当の本当に最後の曲。

めちゃくちゃかっこよかった。楽曲のパワーも、もちろんあるだろうけど。

なんというか、改めて聴いてみると、不思議な曲だなと思った。歌詞の内容は、決して明るいものじゃない。だけど、ステージ上のりゅしぇんも、バンドメンバーの人たちも、ぼろさんも、すごく楽しそうにこの曲を演奏していて、観客の人たちも同じように楽しんで聴いていた。

歌詞に書かれている期待と失望、痛みが混ざり合いつつ、前を向いて進んでいく意思が、この曲を少し変わったものにしているのかもしれない、と思った。


「期待してもしょうがない

本当はしらない

伝わんない痛いのも辛いのも嫌いなのも

もっとちゃんとぼくを見て見ぬふりして

聞こえちゃいないその言葉もイツライ」


期待してもしょうがない。誰も僕の本当の気持ちは知らない。僕を見ている視聴者にも伝わらない。コメントで傷ついて痛いのも、伝わらなくて辛いのも、わかってくれないあなたが嫌いなのも。

もっと僕のことをちゃんと見て。出来ないなら見て見ぬフリをしていて。

という言葉すら聞こえちゃいないんだろうな。嘘だよ、何も言ってないよ。


「学校行きたくねえなあ」


「理想論は語らない

簡単に笑わない

泥になって流る季節と眠りたい

すっと死んだ目でぼくを見つめないで

からまってる布から手を離せ」


「学校生活は穏やかに過ごせればそれで良い

嫌な事がなければ

楽しい事もなくて良いんだ」


期待してもしょうがない、理想論は語らない

2つの言葉は似ている。期待や理想が大きければ大きいほど、それが叶わなかった時に負う傷は深い。簡単に笑わない。ぬか喜びはしたくない。嫌な事がないなら、楽しい事もなくて良い。「泥になって」は、もう何にもしたくないなぁ、というような無気力さを表現したのかな。


「魔法のよう 色を変えて

また 街に溶けて

機械みたい 不確かなものなど

執着しないで」


死んだ目でぼくを見つめる人たちは、魔法みたいに色を変えて、またどこかへいなくなっていく。相手は人間のはずなのに、まるで機械みたいに感じられる。人らしい温もりとか体温が伝わってこないから。そんなものに執着なんてしないで。そうやっていびつに僕に絡まった布から手を離してくれ(もしくは、自分自身が手を離さないと、という意味かな)。


「いま擬態したいみたいなそんな夜が

間違って傷ついて愛しくなる

痛い正解も望むまま

いつか忘れるから知りたいんだ

僕らのいまが真実

そんなイツライ」


りゅしぇんという存在に擬態したい夜。言うべき事や振る舞い方を間違って、傷ついて、けど愛しくなる、待ち焦がれる時間。

自分を見てくれてる人たちの反応は、自分に痛みを与えるものだとしても、それが正解、正直なリアクション。けど、痛みはいつか忘れるから、本当のことが知りたい。

僕らが過ごしている今この瞬間起こっていることが真実で事実。擬態した自分(=嘘)だとしても。


「はあ、まだ朝か…」


「誤解してミスってドープ

諦念のロンリーガール

いくらだって叫ぼうが暖簾に釘 念仏

きっと僕だっていつかそんな風に

腐って泣くのかな」


周囲の言うことを誤解して、取るべき行動を間違うdope(間抜け)。全てを諦めた独りぼっちの女の子。なぜなら何を言ったって、自分の本心は誰にも伝わらない。暖簾に釘は、「暖簾に腕押し」と「ぬかに釘」を合わせたもの、どちらも意味がない、手応えがないという意味。念仏は「馬の耳に念仏」。

「ぬか」は発酵させて利用するもの。何を言っても(=釘)通じない人たち(=ぬか)を「腐ってる」と表現している。自分もいつかそうやって、何も感じない人になってしまうんだろうか。


「まって少しだけ

おいてくのはだめ 急がないで

奇跡みたい

嘘まみれの夜を

待ち焦がれてほしい」


まって。自分の前からいなくならないで。置いていかないで。急がないで。


教室にいるクラスメートは、死んだような目で自分を見ている。体育の時間は、保健室からみんなの様子を眺めている(実際そうだったのかは知らないけど、それくらいの疎外感があったのは事実のはず)。


僕にとっては奇跡みたいな存在の夜を、逆にいえば、僕みたいな存在にとって嘘みたいな夜を、待っていてほしい。少なくとも、自分は待ち焦がれてる(はず)。


「いま理解しない答えが飛んでくのを

手を振って見送ってまたさよなら

時代的な妄想の中で

いつか焼け野原になろうとも

きみの心が真実

そんなイツライ」


誰かに何かしらの質問をされて、一応答えてみるけど、理解はされない。どこかへ消えてしまう自分の回答に手を振って、他の人たちと同じようにどこかへ去っていく誰かを見送る、さようならと。VTuberという時代の産物、りゅしぇんという空想の姿で生きてる今。それがいつかすっかり消えてなくなってしまったとしても、今君(視聴者)が感じたことが、僕に対する真実の評価。嘘まみれの夜の出来事だとしても。


「大歓声の夢うつつ

切り取って飾ろうか幻でも」


自分が今浴びている視聴者からの声。それを切り取って、大切に飾ろうか?その称賛の声が、本当の自分を捉えていないような言葉だとしても。

そうはしない。


「期待したい見たいんだずっと今を

幾千もの落胆でもいなくなっても

嫌いたい いばらの花束を

抱きしめて痛みを信じてさ」


それでも自分は期待したい。今この瞬間、僕を見ている人が何かを感じてくれる時間に。何度期待を裏切られても、目の前から人が消えていっても。嬉しくない称賛の声を浴びたとしても、その痛みがいつか別の何かに変わることを信じて。


学校で落としたピアスを届けてくれた誰か。本当の僕に気づいてくれたのだろうか。僕のことをしっかり見てくれているのかな。だとしたら、嬉しいような、不安なような。昼の自分と、夜の自分との境界が曖昧になっていく。


引き込まれる前奏のドラムパターン、トゲトゲしたギターの音色、不安を煽るピアノの旋律。ラスサビで打ち上がったキラキラ光るテープ。笑顔のりゅしぇん。

「擬態したいみたいなそんな夜がまだ」

「まだ」、強い叫びだった。「自分はまだ活動を辞めない」、その意志が伝わってくるような。

最高のライブでした。またこの最高を更新してください。

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