君になりたいから
・君になりたいから
「君になりたいから
明日も擬態して夜になる
君になれないまま
眠って 今日も風が吹く
僕は眺めてる」
りゅーしぇん
本名は仙河緑。18歳の高校生。
自分のことが大好きで、
自分はなんでもできると思っている。
拳法を習っており、
プライドが高く負ける事が嫌い。
高校デビューに失敗したため
配信を通して友達を作ろうと
考えている。
友達はできていると思う
僕からはそう見える
だって君は僕の目標だから
その台詞と一緒に映し出される仙河緑は、学校の屋上で、1人でご飯を食べてる。
配信上の自分、りゅしぇんは、活動を通じて、少しずつ知り合いや仲の良い人が増えている。けど、現実の自分はそうじゃない。
「君になりたいから」
りゅしぇんという存在でいたい。りゅしぇんに近づきたい。だからその姿に擬態して夜の時間を過ごす。
けど、現実はそう簡単に上手くいかない。擬態した自分の姿のようにはなれず、眠りにつく。りゅしぇんという、自分だけど、自分の目標である存在を、俯瞰して遠くから眺めてる。
「君になりたいから
本当と嘘を混ぜあった
君になれないなら
あなたはどこかへいってしまうのかな」
りゅしぇんとしての姿には、実際の自分と、こうありたい自分、キャラクターとしての自分が混ざり合っている。
自分が、みんなが望むりゅしぇんとして振る舞えなければ、僕を見ているあなたは、興味をなくしてどこかに行ってしまうのかな。
「街中が静まって
二人きりこの部屋で
痛いくらい喉が冷えた
「間違ったこと」なんて
君を責め立てたら
悲しそうな顔 僕と同じ
初めて見た」
誰もが静かに寝てる夜に、自分はりゅしぇんとしてみんなに向かっている。画面の向こうで自分を見てくれている人はたくさんいるけど、実際は、部屋に1人きり(2人きり)。
配信上で、何か失言をしてしまって焦る。りゅしぇんとしての自分を責める。けど、りゅしぇんも僕も、同じ自分自身だ。
「早く春になってよ」
「夜を愛してる
君と同じくらい愛してる
迷ったり 泣いたり 全部
君になりたいから声を上げた
まだいてほしい
君と世界中まで見てみたい
そんな僕らの歌 笑いつかれたら
少しだけ君に近づけたような気がした」
夜を愛してる。配信の時間を愛してる。配信者としていられるりゅしぇんの存在を愛してる。迷ったり泣いたり、辛いこと悩み事たくさんあったけど、りゅしぇんでいたいから活動し続けた。
りゅしぇんという存在に、いつまでもいてほしい。りゅしぇんの姿で、もっといろんなことをしてみたい。そうすれば、目標である君に、近づけそうだから。
「君になりたいのに
誰かの声を怖がって
君になりたいのに
涙で流れていく今日だ」
スマホを取り出してTwitterをチェックすると、りゅしぇんについてのツイートやリプライがたくさんある。
「かわいい」
「かっこいい」
「ふふ、おもろ」
ツイートにいいねを押す。
みんなから君はこう見えているんだ
「仙河が笑っている珍しい…」
「やっぱり仙河先輩って」
「笑顔も絵になるなあ」
廊下で自分を見ていた学生たちのセリフ。
「うっ、なんか視線感じる…」
「…羨ましいな」
廊下にいた学生たちは、自分のことをどう思っていただろうか。笑顔も絵になるなあ、なんて思ってくれてるだろうか。
りゅしぇんが羨ましい。
君みたいになりたいけど、周囲の人間にどう思われているのか、何を言われてるのか。それを知るのが怖くて、自分を出せない。悔しくて、泣いて、今日が終わる。
「うぅ、身体が痛い、補習の体育め…」
「今日はこの後ダンス教室があるのに…」
「でも、前より動けて、体育楽しかったかも」
「ダンスのおかげ?」
「嘘ついて 間違って
誰もわかってくれない
一人ぼっち そんな世界
べそかいて 顔真っ赤
君は笑いながら
「僕がいるよ」って
そんな君になりたいんだ」
下校中
「今日は遅刻もしていないし、体育も受けて
自分えらすぎる」
「後はダンス教室に行って終わりだな!」
「配信どうしようかな」
「休もう。
今日はそうしよう」
嘘をついて、言うべきこと、立ち振る舞いを間違ってしまう。そんな自分のことを理解してくれる人は誰もいない。自分は世界で一人ぼっち。泣いて顔を赤く腫らしていても、
「僕がいるよ」
りゅしぇんの存在が、そんな自分を励ましてくれる。
ライブでのパフォーマンスのために練習していたダンスのおかげで、体育の時間が楽しく感じた。学校にちゃんと行った。この後はダンス教室がある。
少しずつ、現実世界での自分を取り戻している実感がある。今日は配信はしなくていいかも、そう思えるくらいに。ピアスは付けずに帰る。
「夜が煌めいて
君も同じように煌めいて
綺麗だし 愛おしい だから
いばらの花束を抱いて眠ろう
まだ覚めないで
もっと この目に焼き付くまで
まるで恋みたいだな
おかしくて笑ったら
君も同じように笑ってるような気がした」
配信の時間、りゅしぇんは輝いている。綺麗で、愛おしい自分の姿。自分にとって大切な時間。だから、自分を見ている誰かからの無理解な愛でも、受け取ることができる。
ずっとこのままでいたい、この時間が続いてほしい。まるで自分に恋してるみたいで可笑しい。りゅしぇんも同じように笑ってる。君と僕は、一緒だから。
「いつも下校中は夜の配信のことで頭がいっぱいだったけど、最近は学校のことも考えている」
「君のおかげで境界が曖昧になっていく」
「僕は変わっていくよ」
現実の自分、こうありたい自分、その境界が、りゅしぇんのおかげで曖昧になっていく。僕は、今までの自分から変わっていくよ。「君になりたいから」。
「君になりたいから
明日も擬態して夜になる
君になれないけど
笑って今日も風が吹く」
4月
大学生になった、遅刻はまだしてない
…そりゃそっか
君に近づく為に僕もがんばっていく
だから
1日を良さげに過ごして
君を迎えにいくよ
これからのりゅしぇんは、憂鬱な日中からの逃げ場所じゃない。春が来て、そういう自分とはお別れ、卒業したから。
バンドの演奏なしで、ソロの歌い出し。キーが少し高くなっていたせいか、いつもより暖かい声色に思えた。歌ってる途中、何度も声に詰まってた。ライブへの思い入れ、この曲への思い入れ、これまでの活動、人生とか、りゅしぇんが何を思っていたかはわからない。ブルーレイを観ていた感想としては、この日ライブを観に来ていたお客さんに、りゅしぇんがライブに託した思いが少しでも多く届いていたらいいな、と思いました。1日の間だけど、時間と音楽と共に過ごしたのだから、ちゃんと届いたはず。
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