人魚

・人魚

別のライブで歌った「化身」、その時の自分を忘れられないとファンから聞き、それを更新したいと思った。という選曲理由がインタビューに書かれていた。

おそらく誕生日ライブで歌った時のことかな。聴いてみたけど、確かにインパクトが強いセットリストだった。特にサビの裏声と地声が激しく入れ替わり続けるパートを歌い切っていたところは、素直にすごかった。ラストの「声を聞いた」の力強いロングトーンも合わせて、「忘れられない」と言うファンがいるのも納得。


一方ライブで歌った人魚は、化身と比べてしっとりした曲調。ただ、書かれている言葉にはむき出しの感情が載っていて、聴く側を刺してくる。ステージ上で表現したものは、「化身」の時に負けず劣らずだったと思う。バンドも生演奏で、ウエムラさんもいた。ファンの人はどう思っただろう。

曲を歌うボーカル自身が「人魚」となる歌詞。


「ああ 灰になってしまった

貰った花は既に枯れていた

愛を簡単に言う

最低の

最低の人」


最初は黄色い照明で照らされていたりゅしぇん、歌い出しで照明の色が白に、灰色になる。花が枯れてしまった演出。

枯れて灰になってしまった花=愛。貰った時は素敵だと思った愛は、すぐに灰になってしまった。あなたがくれたのは愛はその程度のものだった。その程度の気持ちで愛を語る「最低の人」。


「最低の

あなたは

「生きることは、傷つくこと」

破れたこの気持ちは、

どこにいくの」


薄っぺらい愛を私(人魚)に語ったあなたは、「生きることは傷つくことだ」とか、分かったような口で私を納得させようとする。その考え方は正しいかもしれないけど、今この瞬間の、傷つけられた私の心はどうすればいいの。破けた金魚すくいのポイみたいに。


「明け方、私は人魚みたいに

泡になっては消えてゆくのでしょう

こんな拍手を浴びたって

腹の足しにはならないし

愛してなどと言ってはいなくて

この退屈を56してほしい

欲しいのはあなた

占めて溢れる

まだ、恋の仕方も知らない

恋の仕方も知らない」


アンデルセンの「人魚姫」で、人魚は王子からの愛をもらえずに、海に身を投げ泡になってしまう。あなたに傷つけられた私も同じように。

人魚は美しい声を持つ。歌う人魚=この曲を歌う人にとって、聴いてる観客に拍手をもらっても嬉しくも何ともない。欲しいのは「あなた」だから。すごい歌詞。それくらいあなたの愛が欲しかった、ということ。私の中をあなたの存在が占めて溢れてる。けど、自分は恋の仕方すらわからない。愛が欲しくてもどうすればいいかわからない。


「朧になってしまって

昨日のことも覚えていないの

涅槃に発ってしまった

この意識と

星降る夜

止め処ない

「生きることは、嘘をつくこと」

なぜならこの気持ちは

ここにはない」


朧になった、世界がぼやけてしまったような感覚で、昨日のことも覚えていない(昨日に振られたのか、昨日のことすら覚えてられないのか)。涅槃(悟りの世界)に意識が飛んでいってしまった。

止め処ない。いまだに溢れ出ている気持ちとか、あなたが私に言ったことを繰り返してしまう、とか。

「生きることは、嘘をつくこと」

これも「あなた」が言ったことのはず。けど、この言葉は正しいかもしれない。だって、今自分の気持ちはここにないから。心なんてどこにもない。


「明け方、私は人魚みたいに

花になっては枯れて行くのでしょう

なけなしの私の

ナルシズム満たす愛燦々

もとから空耳なんかはなくて

すべて私の独り言でした

世界は今日も続くし

心などここにない

サーカスティックに崩壊」


赤や黄色い花となって枯れていく人魚。愛を裏切られた私の自分を肯定する気持ちは擦り切れていて、それを満たす愛は観客の拍手。それすらも自分が作り上げたものかもしれない。「サーカス」は「内容のない出来事」も意味するらしい。拍手されても意味がない。私が欲しいのはそれじゃない。


「明け方、夢うつつとつかない

水面に泡となる走馬灯

世界が終わる時ここに

私とあなただけでした

愛してなどと言っていなくて

この退屈を56してほしかった

間違っていたのはあなた

負けたのは私

恋の仕方も

恋の仕方も知らない」


人魚が泡になって消えていく。世界が終わる時、人魚が4んでしまう時、自分の中にはあなたと私しかいなかった。

「生きることは傷つくこと」「生きることは嘘をつくこと」そんな間違いを言っていたあなたと、そんなあなたに負けた私。私は恋の仕方もわからないから。

りゅしぇんは裏声の出し方が上手できれいだから、ポル火の楽曲が合ってるなと思う。特にサビは高音の裏声が儚くて、曲のテーマにぴったりだった。人魚、良い曲でした。

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