ミカヅキ

・ミカヅキ


「だれかを励ますために作った曲ではなくて、自分が自分を愛せるように、欠けてても、足りなくても、そんな自分を認められるように、そんな気持ちで作りました。だれかを励ますために作ったわけじゃないけど、でも、この曲が、この動画が、お守りになったらいいなと思います」

某チャンネルに出演したサ百合さんが、ミカヅキを歌う前に言っていた。

乱歩奇譚のED曲でもある。作品中で起こる多くの事件、その犯人は凶悪な人間もいるけど、自身の降りかかる不幸や災難にどうすることもできず、それから逃れるために犯罪を起こしてしまった人たちも少なくなかった。二十面相の正体であるナミコシは、自分のことを受け入れてくれたアケチ(探偵)との絆の証である数式へ執着してしまう。それを証明することが、彼にとっての生きる意味だから。


ステージは足元にスモークがぎっしり焚かれて、空の上にいるみたい。りゅしぇんはスポットライトに、満月に照らされている。天井から客席に降るレーザーライトは、星の光に見える。


「今宵も頭上では

綺麗な満月がキラキラ

幸せそうに世界を

照らしている」


頭上で綺麗に輝く満月は、満ち足りていて幸せ者な自分以外の誰か。光を放ってるみたいに眩しい存在で、自分の手じゃ届かない場所にいるように思える。


「当の私は

出来損ないでどうしようも無くて

夜明け夢見ては

地べた這いずり回ってる」


そんな満月に照らされてる自分は、出来損ない、どうしようもない人間。現状がどうにかなることを願ってるけど、実際は地面に這いつくばって苦しんでる。



「それでも誰かに見つけて欲しくて

夜空見上げて叫んでる

逃げ出したいな

逃げ出せない

明るい未来は見えない ねぇ

それでもあなたに見つけて欲しくて

蝶のように舞い上がるの

欠けた翼で飛んだ 醜い星の子ミカヅキ」


自分は出来損ないでどうしようもない、地面に這いつくばってるような人間だけど、誰かに自分の存在を知ってほしくて生きてる。苦しい今から逃げたくても逃げられない。逃げ先、明るい未来が見えないから。

それでも、この曲を聴いてるあなたに、私の声が届いてほしい。

醜くて欠けた自分だけど、幸せそうな満月に向かって、同じくらい幸せになれるように願って飛ぶ。


「今宵も頭上では

綺麗な満月がゆらゆら

誰かの腕に抱かれて

眠っている

当の私は

ひとりの夜に押し潰されては

誰にも見えない

夜闇這いずり回ってる」


満月=幸せそうな誰かのとなりには、その幸せを守ってくれるような人がいる。それに対して自分は一人きり。幸せどころか、不安を分かち合える人がいない。誰にも知られることのない苦痛と孤独に向き合うしかない。


「それでも誰にも負けたくなくて

宇宙の隅で藻搔いている

追いつきたいや、追い越したい

ああ夢に見たような世界 ねぇ

それでも誰かと比べてばっか

周りを見ては立ち止まって

欠けたものを探した

そんな自分を変えたい」


例え一人きりだとしても、他の誰にも負けたくない、幸せを掴みたい。けど、自分と他人を比べて、自分が持っていないものばかりに目を向けてしまう。そんな自分を変えたい。


「それでもあなたとおんなじ景色が

また見たいから

泣き出したくても投げ出したくても

諦めたりはできない

それでもあなたに見つかるように

サナギは強く手を伸ばすの

欠けたものを抱きしめて

願いを放つよミカヅキ」


サビではハイトーン連発だし、ライブも後半(本気リハの影響もあり)で、高音が続く箇所はかなり苦しそうに歌ってた。

「泣き出したくても投げ出したくても

諦めたりはできない」を歌っている時、感極まったのか声が喉につかえてた。「ミカヅキ」は、りゅしぇんが普段は口にしない本音を、音楽の力でいろんな人に届けてくれたと思う。

「あなた」は、たぶん満月のことだと思う。ミカヅキは空から落ちてきてしまった(幸せを見失った)から、今地面の上でもがいてる。泣き出して助けを求めたい、全てを投げ出してしまいたい、そう思ったとしても、そこまで追い詰められても、諦めたくない。自分を存在を、誰かに認めてほしいから。どうしようもない自分だとしても、そんな自分を大切にしたい。


「今宵も頭上では

綺麗な満月がキラキラ

次は君の番だと

笑っている」


欠けたままでも輝くことができたミカヅキを見て、「次は君が幸せになる番がくるよ」と笑う。本当にそうなるかはわからない。でもそうなってほしい。自分を肯定して、未来に希望を持てる歌だと思う。ライブの中で、とても印象的で、感動した曲。


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