トリコロージュ
・トリコロージュ
中華風の音色や、歪んだ(ひずんだ)電子音が耳に残るしっとりした曲調。
MVも、中華な城郭を舞台にした物語で、城に閉じ込められた(閉じ籠った)子の様子が描かれている。
インタビューでも触れていた、椅子に座ってのパフォーマンス。手足を使った何気ない所作が映える(はえる)。椅子も中華風でかわいい。
この曲を歌配信で歌ってたので聴いてみたけど、その時は原曲キーで、特に高音は出しづらそうだった。ライブだと少しキーを下げることで、音域や地声と裏声のバランスがよくなっていて、聴いていて心地いい。
スクリーンの映像は、「ちゅ、」の時と同じく中華テイストだけど、扱っているモチーフは風景やシンボルが中心なので、また別物。
この曲はおとなしめの曲調だけど、その中に「胸に秘めた芯の強さ」が巧く(うまく)表現されていて、とても好き。
「この生活の 虜になっちゃうよLady
光を失った おさがりの宝石を
永久(とこしえ)に纏ってく」
「光を失ったおさがりの宝石」が指すものは聴く人によってそれぞれ違うはず。共通するのは、それが光を失っている=価値がないように感じられること。誰かから譲り受けた、または拝借した「おさがり」であること。原曲のMVだと、大切な人から譲り受けた指輪のことを示す。
自分にとって大切だった「何か」のことだと思う。
「救われたあの日から 救いが義務になるなんて
まるでフィクション トレパネーション
受けた気分になってんだ
足枷と腐りに縛られて
たった一度の光出会うため
この部屋でずっと忘れた 何かを待つ囚人」
原曲を参考にするなら、過去に自分を救ってくれたのは、大切だった「何か」。おさがりの宝石のこと。
自分を救ってくれた存在のことを忘れられず、「救われるのを待つ」ことに縛られてしまっている。
「出されたものは 満遍なく 残さず平らげて
優等生な屍人 誰より無個性だった
住めば都って暗い歌
また何度も何度も吐き捨てて
挙げ句の果て食べる行為が
それ自体が苦手になった」
救いを欲してる自分は、周りから与えられるものを手に取ってはみるけれど、そこに自分の意志はない。自分らしさもない。
「住めば都」は、最初は違和感があっても徐々に慣れていくよ、という意味だと思う。でもそれはある意味で自分の意志を放棄しているともいえる。
食べたものを「吐き捨て」、気に障る歌を「吐き捨て」、結果的に自分にとって「特別」になり得る何かを探すことが嫌になってしまった、と解釈した。
「夜中 ふと目に映った きらめく 仮面の舞踏会
馬鹿らしいほどに 狂おしいほどに
年甲斐も無く 惹き込まれたら」
Bメロで雰囲気がガラッと変わる。ライブでも照明が青く暗くトーンダウンして、夜中を演出する。「夜中」の声の伸びも良くて、曲中で一番好きなパート。
「仮面の舞踏会」だから、本当の自分を偽って、または蓋(ふた)をして、嫌なことを忘れるために夢中で踊る様子だと思う。
「生活の虜になっちゃうよ Lady Lady
「よく似合ってる」ってさ
「おあつらえ向き」ってさ
その後のことは見向きもしないくせに」
仮面をつけた生活に依存してしまいそうだよ
でも、心の内では、仮面をつけたその場限りの関係で、自分に対してわかったような口をきく人間に対する嫌悪感がある。
椅子に座ってのパフォーマンスは、立ってするものとは全く違って見える。身体の可動域はいつもより狭いはずだけど、足を組んだり、肘をついたり、屈み込んだり。手や足を器用に遊ばせて、他のセトリの振り付けとは別の魅力がある。椅子に座った緑仙はきれい。
「希望有りきの絶望にさ 依存依存」
「いつか報われる」「認めてもらえる」
「気休めの呪文で 己を騙すの」
「仮面の舞踏会」というフレーズもそうだし、緑仙の配信者として活動する中で感じていた気持ちと重なるものが、多い曲のはず。
「痛みだってさ 癒えぬ傷だってさ
すべて生きていくため 乗り越える試練
他愛もないことでしょう」
「妬み嫉み野次馬劣等面子だって
生きていくため 乗り越える試練
仕様がないことでしょう」
自分に立ちはだかる壁に対して、自嘲気味なところも緑仙っぽいと感じたけど、実際のあなたはもっと芯があって、困難に立ち向かっていける人間かな。
この曲は自分にとって大切にしていたものを取り戻せなくても、前に進んでいく歌だと思う。悩んで落ちていった自分の「濁り」を肯定して、周囲の言動も気にせず、自分に立ちはだかる壁(痛み)に向き合う。仮面の下に隠した本当の自分は、自分で大切にする。
ステージで、最後に後ろを振り返るのは、MVの再現。女の子を閉じ込めていた男の子も、城に囚われている点で同じだった。だから「あなたも虜でしょう?」で終わる。
美しさ、華やかさの中に潜む強さを感じられる曲。緑仙に合っている。
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