第3話
「いーんじゃない?ジャージで」
山瀬さんに練習試合で他校に行くとき、どんなコーデがいいかと聞いてみれば、そんな回答が返ってきた。
「顧問って皆どんな格好してるの?」
「色々だよ。でもジャージとか動ける恰好が多いかな?私たちは全員ジャージだから」
「じゃ、私もジャージでいいや」
「服はなんでもいいけど体育館シューズは忘れないでね」
「了解」
「ま、車に荷物積むときにもう一度確認するけどね。みのりんが車出してくれて本当に助かるー」
「ま、それぐらいはね。あとあだ名で呼ぶな」
「はい、交代」
「え、私は必要ないよ!?」
今は、屋外。まだ体育館の使用時間ではないので校庭の片隅で柔軟運動をしていた。ただし部員は5人なので1人余る。なので私が山瀬さんの柔軟運動を補助している。
私が開脚して足を延ばしている山瀬さんの背中を押すまでは良かった。山瀬さん、体柔らかいなぁ。
でも何故私がしないといけないか。必要性を感じない。
「いいからいいから。どうせ待ってても暇でしょ。体がほぐれてスッキリするよ?知らんけど」
「ジャージじゃないし」
今の私はカジュアルな感じのスーツスタイルだ。スカートではなくパンツルックだが運動する服装ではない。
でもそんな私を山瀬さんは鼻で笑う。
「ジャージじゃなきゃいけないほど、たぶん柔らかくないでしょ?ほらほら」
「ちょ、ちょっと!?」
山瀬さんは素早く私の背後に回ると肩に手を置き私を座らせる。
そして背中に体重を掛けてきた。
「だだだだだ!?」
つま先は指先の遥か遠方だが、それ以上私の腰は曲がってはくれない。
「いや、まだそんなに体、屈してないから。はい、次足開いてー」
「ム~~~~~~っ」
「え、それ服が邪魔してるんだよね?それ以上開かないとかじゃないよね?さすがにヒドすぎじゃ?」
90度も開いてない。鋭角だった。ハイレグだったらきっとセクシーと言われる角度。ハイレグじゃないので、ただただ無様なだけだけど。
「運動と無縁だった成人女性を舐めるなよっ!?」
「居直らないでよ、みのりん!」
「いいから私の上から退いて!もう無理!もう無理!」
「わ、わかったから……」
ようやく解放された私は、肩で息をしながら地面に仰向けになる。草とか砂とか服とか髪とかにつきそうだけど、気にしてなんかいられなかった。
「死ぬかと思った……あと、だからあだ名で呼ばないで先生と呼んで……」
私の様子に山瀬さんは呆れる。
「さすがに固過ぎ。もっと手加減するから、いる時は一緒に参加ね?」
「えぇ……何の権限があって先生にそんな事を強要するの……」
「強制じゃないけど、さすがに不健康すぎ。やった方がいいよ」
「……」
そんな訳で、それから夕方、たまに私の悲鳴が校庭にこだますことになった。
「では、忘れ物ないかな?」
「みのりん、靴は?」
「あ、だっただった。あだ名で呼ぶな、先生と呼べ」
私はボールやゼッケンやら部員やらを車に詰め込むと、運転席に座る。
シートベルトを締めてエンジンのスイッチを入れると車を走らせるのだった。
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