chapter12:With sadness

ホープたちが捜索を続けていた間、船内は相変わらずのゆったり感が満ち溢れていた。僕、クモヤケントも『ヒストリッカー』のレポートを今読み返しているところだ。


「なるほど、彼らの返り血を浴びるのも厳禁になるのか...」


返り血から皮膚を通って寄生体は入り込む、時間はかかるがやがては成長をして体内から爆発させて誕生すると。本当にとんでもない生物だ、近づいたまま攻撃してしまえば攻撃した本人でさえも死んでしまうとは。


みんなが心配だ、こんなやつがマリスにいないことを祈るしかない。


「ケントくん一旦通信室に来てー」


ここで艦内放送で僕を呼んでいるため通信室へと向かった。アンテナか何かが故障してしまったのかと考える。そういえば施設に向かってからみんなから一つも通信が入って来なかったのもあって何かトラブルに巻き込まれたのかと心配もしていた。


通信室に入り、ミスズちゃんに事情を聴くことになった。呼んだからには何かしら理由があるからだ。


「お待たせ、どうしたの?」


「あ、ケントくん!実は相談があって...」


「どうしたの?」


「マリスに向かった開拓者に私のお父さんも混ざっていたんです。ずっと連絡も無く、どうしているのか心配だったんです。


お父さんは開拓の道30年のベテランなのでよほどのことがなければ何事もなく帰ってくるとは思うんですが...」


確かにしばらく連絡が途絶えると心配になる気持ちは分かる。確かミスズちゃんは片親家庭でずっと父親と2人で生活をしてきたらしい。そしてミスズちゃんの大学の学費を稼ぐため、今回マリスに長期出張へ向かうことになったと以前話していた。


「大丈夫だよミスズちゃん、きっとお父さんは...」


そう言いかけたところでようやく向こうから通信が来た。



『こちらアラタ、通信室応答願います!』



『こちらミスズです。通信どうぞ』


『緊急事態です。救助に向かった施設で謎の生物に遭遇、救助者は1名だけです。女の子です。』


「え...」


ミスズちゃんはその言葉を聞いて固まってしまった。艦内についに暗い話題が持ち込まれてしまうとは思わなかった。ミスズちゃんは気を取り直して通信を再開した。


『了解しました。至急皆様は帰還してください。ミナミ様に医務室の準備をさせておきます。』


『了解です、すぐに帰還します!』


通信が切られ、ザーッと砂嵐の音が部屋の中に響きわたる。ミスズちゃんは固まったままだ。


「ミスズちゃん...」


「わかっていたんです、開拓の仕事は危険が付きもの。いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたんです...


でもまさか顔すら見れずに死んだなんて言われても、信じられるわけないじゃないですか...」


ミスズちゃんは泣きながら言った。通信だけで死んだと言われる気持ちはミスズちゃんにしかわからない。けど少しでも寄り添って泣いてる女に優しく抱きしめてあげることはできる。だから僕はそうしてなだめていた。


アラタくんが言っていた未知の生物、特徴までは言っていなかったけどもしかしたらヒストリッカーなんじゃないかと思った。もしそうだったらみんなが返り血を浴びてないか確認しなくちゃならない。

ミナミさんにもしっかりと共有する必要がある。とりあえず医務室に行くことにする。ミスズちゃんも連れて行こう、メンタルケアは女性どうしの方がしやすいだろうから。



   

      ーーーーーー


「ミナミさん、今大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ!あれ、ミスズちゃんも一緒だったん..だ。ミスズちゃん何かあった?」


赤く腫れた目を見てすぐ何かあったと気づいた。さすが女の勘はよく当たると言うもんだと思う。

ミスズちゃんと僕はミナミさんにさっきあった出来事を伝えた。マリスに向かったアラタくんたちは生存者を発見したがミスズちゃんの父親ではなく1人の少女だったことを。そして報告にあった未知の生物が、僕が発見した『ヒストリッカー』ではないかと。ヒストリッカーの生態も合わせて説明した。


「そうだったんだ...じゃもし返り血を浴びている人がいたら最悪は船内に入れないようにしていかないとね。きって手遅れになってるだろうから。あとミスズちゃん、私と少しお話しよっか。」


ミナミさんにミスズちゃんを任せた僕は引き続き船長室へと向かった。船長はお腹を壊したと連絡があった以来、一度も部屋から出てきていない。まだトイレにこもっているのかと思いながら部屋の前のブザーを鳴らした。案の定出て来ない、伝言として船長のデバイスにメッセージを送った。


『船長、体は大丈夫でしょうか?

先ほどアラタくんから通信が入り、生存者を一名確認できたとのこと。あとは施設内にて未知の生物と遭遇、幸い現在はまだ死人は出ていないです。回復次第、今後についての打ち合わせなどをできればと。

          クモヤケント』


メッセージを送った僕が次に向かった先は、この船のメインコンピューター『OWLDO』の元へ向かった。きっと彼女ならいいアドバイスをもらえると思ったからだ。様々な観点からの意見をもらえるならきっとトラブルがあってもすぐに対処できるようにプログラムされている。


メインコンピューターの端末室にてキーボードを入力してアクセスしていく。入力した文章や音声により、回答をしてくれる。


『ようこそ、クモヤケント様。

今回はどのようなご用件でしょうか?』


『ヒストリッカーと名付けた生物について教えて。』


『申し訳ありませんが情報が少なすぎます。

ある程度情報を入力してください。』


『目がついてなく体温で敵を察知する。生物の体に寄生して誕生する。口が6つに裂けていて人を捕食していく。』


さすがにここまで情報を入力していけば多少なりとも何かを伝えてくれるだろう。


『すみません、こちらは権限者が閲覧できる情報になりますので開示できません。』


OWLDOはきっと何かを知っている、だが意図的に隠している。アスカさんを呼んで対象してもらうことにする。


連絡をして少し待っているとアスカさんが端末室にやってきて画面を見せると不思議がっていた。


「おかしいね、この情報は役員権限なんかじゃないわよ。だって会社の利益にならないもの。」


「じゃあ他に権限者って他に誰かいるの?」


「この船の船長と、あとは陸軍所属のマコトさんが閲覧できるわ。」


「けど船長は今連絡つかないし、マコトさんは捜索隊にいるから閲覧は難しい感じだね。」


「そうね、私の方でなんとか会社側に連絡してみるから一旦は保留にしましょう。」


こうしてこの件はアスカさんに預けて引き続き僕は自室に戻り研究を続けることになった。




       ーーーーーー


私アスカタムラはケントくんに見せてもらった画面について考えていた。普通もし会社権限で見せられない場合は必ず最初にエラーの表示が出るからだ。私のいる会社は確かに利益しか考えないけどだからこそ逆に未知の生物に関してはおそらく会社にも莫大な利益がもたらせるはずなんだ。


ケントくんが見つけた生物を兵器運用していけば会社のさらなる成長を見込めると思う、私の出世も早くなる。けどだとしたらOWLDOがなんであんな表示しか出さないのかが疑問になる。私は自分のデバイスから会社に連絡をすることにする。


『現在ユメノトビラに乗船している私、アスカタムラはクモヤケントの発見した未知の生物を兵器運用したいと考えている所存です。ですがメインコンピューターのOWLDOが情報を渡さずにいる状況に置かれております。至急本社側から権限者閲覧の許可をいただきたいと。返答をお待ちしております。』



「これであとは大丈夫かな、さてと少しシャワー浴びようかな。」


私はシャワーを浴びるために服を脱ぎ、シャワー室へと向かって行った。パソコンには少し時間が経って返信が来ていたようだけどそれに気づくのには時間がかかってしまったのはとある理由が関係していた。



『残念ですが今回のこの未知の生物に関しては保留とさせていただきます。尚この件に関しては我々本社預かりの案件となりますのでご了承ください。

p.s.これよりコマンドメントは未知の生物の運用をしていく方向になりますので把握をよろしくお願い致します。』

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