chapter11:What awaits you
入口の方へ向かう私たちは救助したレナ様を守るように囲んで進んでいた。
いろいろと辛い思いをしてきた彼女をどうにか救えないかと考えながら、ヒストリッカーたちがいつでも来てもいいように武器を構える。相変わらず下水道は汚いが先ほどと何かが違う。どこかで誰かに見られているんじゃないかと思うくらいに違和感を感じる。
「なんかさっきと少し様子が違うようだな。」
「そのようだな、どこかに目がついてるんじゃないかと思うような感覚だ。」
「え、それってまたあいつらが襲ってくるってことかよ。冗談じゃないぜ!今度は完全に逃げ場なんてないんだぞ!?」
確かにこの下水道はやたら狭いから襲われれば戦っていくしかない。それに出入り口も限られてしまうから大群で襲われた時点で詰みになってしまう。
だがそれを恐れてしまっては救助した意味もなくなる、私たちは慎重に事に構えなくてはならない。
「だがあいつらは確か目なんてないはずだ。一体なにがどうなってるんだか。」
カスミ様は一つの疑問を問いかけた。
確かにヒストリッカーには目は付いていない。人間の体温を感知して襲ってくるから何かに見られているというのはただの勘違いなのだろうか。それとも何か別の存在によって監視されているのか。謎が深まるばかりだ。
「とりあえず下水道をまずはさっさと抜けよう、この臭いにはもううんざりだ。」
マコト様をはじめ、皆様はもうあまりこの臭いに耐えられそうにない、なるべく早く通過して息を整えさせていけるようにしていきたい。
「まずはあの昇口までダッシュで向かいましょう。仮に襲われても私とマコト様で対象可能です。」
「だね、まずはここから早く出よう。」
皆様は意見が一致したようで小走りしながら昇口に向かうことに。だが次の瞬間...
『警告、警告。
下水道に生命反応を探知、ただちに迎撃せよ。」
突如建物全体に機械によるアナウンスがされた。この建物を管理しているものが取り付けた防衛システムで認証コードを持っていない者が長時間滞在すると自動的に反応してしまう。そして迎撃をするものといえば
「グギャァー!!」
ヒストリッカーたちが天井や下水道の排水口などから数匹ずつの複数グループで襲ってきた。
「キャー!!」
レナ様はヒストリッカーたちを見て叫んでしまった。家族の仇でそして殺した張本人たち。小さい子供にはあまりにも異質な存在だ。その叫びを聞いたヒストリッカーたちはレナ様に目がけて襲い掛かろうとしている。聴覚が優れていることをここで理解する。
「クソ!こんなタイミングで!
ホープ、いくぞ!!」
マコト様は私に声をかけて戦闘に入る。
銃は使用できない以上、必然的にナイフなどの近接武器中心に動くことになる。だがあまりにも近づいて返り血を浴びた時には人間では寄生されてしまう。本来微粒子の細胞から誕生した生物だからだ。なので基本的には私が中心になってヒストリッカーを迎撃する必要がある。私はカスミ様から受け取った短刀を構え腕や足をまずは切りつけていく。
私に返り血が大量に付くが寄生されることはまずない。命がある生きている生物じゃないから。次々と襲いかかるヒストリッカーたちの喉に突き刺したり回避をしながら追撃をしたりカスミ様ならどのように動いていくだろうかを考えながら切りつけていく。
「はは、すごいやホープ!
もうあれをあっという間に使いこなすなんて!てかお前は戦わないのかよ?」
マコト様を発破かけるような言葉を言ったカスミ様はにやけていた。
「見くびるな、銃以外でも戦う術は身につけている。」
マコト様はそう言いながらあるものを取り出した。小さい小石だ。そしてそれを投擲できるようにパチンコも備えていた。それを引っ張り放つ。頭部に直撃をしたヒストリッカーはゆらゆらと動いている。まるで顎に直撃を受けたボクサーのように。
「こういうこともあろうかと用意していたがまさかこんなところで活用するとはな。」
次々とヒストリッカーの足止めをしてもらい、私がとどめを刺していきなんとか侵攻を防ぐことに成功した。
「なんとか片付けられたな。」
「はい、ですがあまり長居は禁物ですね。すぐにここを出ましょう。」
すぐに移動を再開してなんとかまずは下水道を出ることに成功した。
ーーーーーー
エレベーターで先ほどの通路のエリアまで戻ってきた私たちはレナ様の体調などを心配していた。返り血を浴びていないか、メンタル的に大丈夫なのかを。唯一の生き残りとしてはあまりにも子供だが無事に1人でも連れて帰ることができたことに私たちは安堵していた。
「しかし妙ですね..,」
「どうしたんだアラタ?」
アラタ様は突然自分の意見を発した。何か思い当たるものがあるのか今まで黙っていたのが嘘のようにスラスラと話し続ける。
「あのアナウンスですよ。
おかしいんですよね、エンジニアとしてはあまりにも不可解なことで。
まず、どうしてあの時あんなアナウンスが流れたんでしょうか?普通僕たちが侵入した時かホープが監視室で資料や生き残りの開拓者を調べる時の防衛として作動するはずなんです。」
「確かに言われてみればなんでこんなにすんなりこの建物の中に入れたんだって思ったな。」
「確かこの施設はコマンドメントの所有物のはずです。救難信号を受け取った場合必ず誰がその施設に入るのかを会社に連絡するはずなんです。今回の開拓の旅の場合は社員であるアスカ様が会社に日報と合わせて通知しているはずです。
なのにあのタイミングで警報を鳴らした。それもヒストリッカーたちに迎撃を命じる力があるしあのタイミングで都合よく下水道にヒストリッカーたちを呼べるなんておかしいじゃないですか?
なぜ操れたのかもしくは本当に偶然なのか...いえ、おそらくこれは誰かが意図的に仕組んでいます。」
「ちょっと待ってアラタくん。
それじゃまるで私たち船員の中にそれを仕組んだ人間がいるって言ってるようなもんだぞ。」
どんどん話が膨らんでいくアラタ様の話の内容。まるで何者かが陰謀を企んでいるように事を話す。
「そのまさかですよ。何者かが僕たちを殺そうとしてるんです。理由は分かりませんがそれ以外に考えられません。」
「アラタさすがにそりゃあんまりだ!
じゃ何か?まさかこの中に犯人がいるってことか!?いい加減なこと抜かすなよ!ごほっごほっ!」
ツトム様は怒りのあまりむせてしまった。
だがその通りで人を疑うことは非常に簡単だ。そして騙すのも。その何者かがもしかしたら私の知っている人で何かしらの計画のためにわざと襲われるフリをしているのならとんだ悪魔だ。できればそう考えたくはない。
「極めつけは救助活動です。
ヒストリッカーたちは先ほどの開拓者たちを襲い、寄生させて数を増やしていきました。ほぼ全員分。これもその何者かが最初からそうなるように仕組んだんじゃないんでしょうか?」
「そんな!!お父さんとお母さんがそんな理由で殺されるなんて...うぅ...」
レナ様はそれを聞いて泣いてしまった。
「おいアラタ!さすがにレナちゃんの前でそんなこと言うんじゃねぇよ!!」
「もちろん嫌われる覚悟で言っています。
だからこそ、ハッキリしたことは一つです。
この救助活動自体間違ってたんです。
それこそ何者かのいい格好のエサに過ぎなかったんです。」
「それはどういうことだい?」
「食べ物など腐ってましたし下水道の処理も全然されていなかった。いくら深刻な状況だとしても少しは対策を立てるはずです。なのにあんな臭いをさせていた。
レナちゃん、確認するけど最後にご両親と会話をしたのはいつだい?」
「ぐすん...1ヶ月前...」
1ヶ月?ってことは1ヶ月間レナ様は1人で生き延びていたことになる。
「救助する開拓者たちは、もう救難信号を送った時にはすでに亡くなっていたんです。」
「え?」「なんだと?」「は?」
皆様はその言葉を聞いて動揺していた。
その仮説を信じるなら、じゃあ一体だれがその救難信号を会社に届けたのだろうか?っという疑問が真っ先に思い浮かぶからだ。
「その何者かが送っているのは間違いないかなと。ただ、まだその何者かが誰なのかはこれからになりますが。
僕たちはまんまとハメられたんです。何者かの未知の計画通りに。」
衝撃的なことを話していくアラタ様は絶望の顔をしながら話していた。
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