第34話 ゆっくりとした時間のために

「ご主人様、マオさんが来ました!」

 フランがご機嫌でバンッと勢いよくリビングの扉を開けた。窓の側で本を読んでいたログがご機嫌でリビングの中をグルグルと飛び回るフランと入り口の前で立ち止まっているマオを見て、はぁ。とため息ついた

「フラン……」

 読んでいた本をパタンと閉じフランを呼ぶと、エヘヘと笑いながらログの右肩に座った

「お茶菓子の匂いを感じまして、つい……」

 ログとフランが話している間に、マオが恐る恐るリビングに入ってきた。キョロキョロと見渡していると、ログが本をテーブルに置いて椅子から立ち上がった

「僕は作業を続けている」

「了解です。では、マオさんこちらに」

 座っていた右肩から離れ今度はマオの左肩に座り、リビングの真ん中にあるソファーを指差す。ソファーのある方にゆっくりと歩いていると、マオの目の前に一枚の紙が現れヒラヒラと浮かんでログの方へと向かっていく。一瞬見えた紙に書かれた内容に驚いてマオもログが居るリビングの入り口の方に振り向いた

「大会に出るという条件に引っ越しが出来た。申込書も今日来ると校長先生から聞いている」

「えっ、じゃあ……」

 マオが何か言おうとした時、ログがはぁ。とため息をつき、紙を手に持ってリビングを後にした。パタンと静かに聞こえたリビングの扉が閉まる音を聞いて、マオの左肩に座っていたフランが離れリビングと繋がっているキッチンに向かっていった

「マオさん、ごめんなさい。ご主人様、ちょっとここ数日機嫌が悪くて……」

「ううん、ログの機嫌が悪いのはたぶんミオのせいだと思うから……」

「そんなことないですよ。あの家では魔力が落ち着かなかったので、そのせいです」

 二人が話していると、キッチンの戸棚がバンッと勢いよく開いてティーポットとティーカップがカチャカチャと音を鳴らし、お茶の用意をするフランの周りに浮かぶ。その様子を見ながらソファーに座ったマオ。鞄からお菓子を取り出すと、二人分のティーカップを持ったフランと紅茶の入ったティーポットがリビングに来て、マオの前にあるテーブルにティーポットとティーカップがガチャガチャと音を立てながら置かれ、マオもお菓子をテーブルに置くと、フランがニコニコと微笑みつつ紅茶を二人分注ぎ出した

「用意が出来ましたね。ご主人様が戻ってくるまで、二人でゆっくり過ごしましょう」

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