第55話 魔女の名は
「
「そうなんですよ。レインさん、教えてくれないんです!」
そう言うと、シャインは口を膨らませる。有澄は、それを見て声をあげて笑った。
「雫、わたしから教えてもいいかしら?」
「……
レインが先に『魔女』の名前を告げた。有澄がすぐさま補足する。
「原初の魔女が、真継映理様よ。今は少々ややこしいことになっているから、そう覚えていた方が良いわね。それから、雫。真継映理様と、様を付けて伝えるべきでしょう?」
そう言われたレインは、有澄の顔をチラッと見た。だが、雨男は、訂正しなかった。
「有澄。あの白と黒の双子のことを聴きたい。彼女たちは『ノーブル・ギャンブル』では?」
「ええ、そう。不本意ながら、そこに居たわ。でも、もうそこに居る理由は、先ほどなくなったの」
そう、有澄は微笑む。
「『ノーブル・ギャンブル』すらも、有澄は狙っていたのか?」
「雫、咲輝、あなたたちは『ノーブル・ギャンブル』と先日、やりあってましたね。あんなギャングやマフィアみたな組織は、この街に不要でしょう? だから、潰すために弱らせたくて」
シャインは、有澄の言葉に驚く。そして思い出す。確かに、アメジストに目の前で逃げられたのは、銀髪の令美が異能で連れ去ったからだった。
「有澄ちゃんも、私と同じなんだ。『ノーブル・ギャンブル』は、やっつけちゃった方が良いよね?」
「そうよね、咲輝。令美と栄美は、あの組織でいいように利用されていたのよ」
「えっ、そうだったんですか。それじゃ、ますます許せないですよ。今日から、令美ちゃんと栄美ちゃんの味方になろうっと」
シャインと有澄が何だか意気投合していくのを、レインはひきつった顔で見ているしかなかった。
「……有澄。衣折さんから報酬の提示に『雨宮家の惨劇』についての情報があったはずだ。それを教えてくれ」
レインは、糸のような細い目を見開き、有澄を見つめながら言った。彼女は少し考え込んだ後、確認する様に問う。
「咲輝がいる、この場でもいいのかしら?」
「ああ、かまわない。……俺とシャインは、似た者同士だから」
有澄は、淡い水色のサングラスの奥にある三白眼を細める。そして、短く告げた。
「あの惨劇の犯人は、『真継映理様』ではない可能性があります」
レインは、ぐっと右手の拳を握った。そして、天井を見上げる。静かに息を吐いて、目を閉じた。シャインは、心配そうにレインの顔を見ている。
「……つまり、魔女の
レインが、確認するように言った。
「ええ、そうよ。複製体の実物を見たから……雫、あなたも可能性を考えたのではないかしら?」
「…………それは否定しない。だが、彼女だろうと複製体だろうと、肝心の謎が残る。どうして、『雨宮家は滅ぼされたのか』だ」
そう疑問を提示したレインの鋭い視線を、有澄は受け止めて応える。
「『魔女』、つまり真継映理様を狙って、四家を崩壊させようと動いている者がいます」
「……そいつは、雷殿家か? 命音区は雷殿家の管轄。そこにユニオンセル生物学研究所がある。雨宮家の惨劇、その犯人が複製体ならだが」
「ええ、その可能性は十分あると思うわ。でも、雷殿すら、そそのかされているかもしれない。だから、引き続き調査が必要なの。複製体が犯人なら、その前に真継映理様の『細胞』を入手した者がいるはず。その者は四家である可能性が高いのは、わかるわよね?」
二人のやりとりを、シャインは静かに聞いていた。だが、二人に問う。
「レインさん、有澄ちゃん、『魔女』はなぜ狙われるのですか?」
その問いに、レインは黙っている。有澄が先に口を開いた。
「原初の魔女・真継映理様は、昔から狙われていたわ。『異能を創り出す異能』を持っているから。そして、ある意味、『不老不死』だから。どちらも、魅力的でしょう? 欲しがる者が後を絶たなかったのよ」
「そして、時の権力者にすら狙われることがあった彼女は、忠誠を誓う四家に異能を与えて、守護を命じたんだ。彼女は、歴史の表舞台には決して出ないようにしていた。『魔女』と呼ばれるようになったのは、その力を求める者たちがつけた隠し言葉なんだ」
レインが有澄の言葉を引き継ぎ、シャインに伝えたのだった。
「……咲輝。『魔女』がいるこの街は、特別政策指定都市になって十年余り経っているわ。その意味がわかるかしら?」
シャインは、ハッとしてレインの顔を見た。雨男が代わりに応える。
「想像どおりだよ、シャイン。おそらく『魔女』を狙っている何者かは、政治的な決定すらコントロールできるってことだ。この街で、異能者による犯罪が増えているのも関係しているだろう」
「……と、ということは、レインさん。あ、あの事件も?」
シャインは、苦しそうに、そして寂しそうな顔になって、問うた。
「ああ、そうだ。シャインが巻き込まれた、あの事件も、おそらく無関係ではないだろう」
それを聞いて、晴れ女は顔を伏せた。握った右手の拳が震えている。
「……シャイン、大丈夫だ。約束しただろう。その時が来るまで、俺はお前の相棒だ」
レインの言葉で、シャインは顔を上げた。そして、晴れ女は泣きそうになっていた顔を、無理やり笑顔にした。
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