第4章
第31話 メイドからの依頼
爽やかな風吹く晴れの日の午後、特殊人材派遣会社『ウィル』の事務所に速達の封筒が届いた。シャインが受け取り、レインに声をかける。
「レインさん、差出人が不明の郵便です。こういうのって、開けるの
そして、レインに封筒を手渡した。
レインは、切手が貼っていない裏面を見る。左下に
「……
「ん? 知っている方からですか?」
シャインが首を傾げた。
「ああ。少なくとも危険はない」
そう言って、レインはハサミで封書の最上を横に綺麗に切る。
中には、トランプのカードが一枚入っていただけだった。ダイヤのクイーン。だが絵柄は、黒いメイド服に身を包んだ麗しき若い女性。大きな蒼いリボンで、髪を一本に結えている。ポニーテールだ。
レインはそのカードを持って立ち上がると、接客用の応接テーブルへと移動する。シャインは彼に手招きされたので、同じくテーブルに来た。
「
レインはカードを持ったままそう言うと、二人に対面する位置の応接ソファにカードを置いた。
「えっと、風社有澄って誰ですか? それに今の何です?」
シャインが、単刀直入に訊く。
「風社は、魔女に仕える四家がひとつ。このトランプのカードは、その家の者、風社有澄の異能なんだ。まぁ、見ていればわかる」
「魔女に仕えるって、……雨宮家もそうだったのですよね?」
シャインの話し方は、どことなく静かで穏やかだった。
「ああ、そうだ。でも、今は四家の話よりも、このダイヤのクイーンに注目しよう。面白いものが見れるはずだ」
レインがそう言ったのと同時に、応接のソファに置かれたカードから光が放たれた。その光の中から、カードの絵柄に描かれていたメイドが静かに現れる。光の中に浮かぶ人影が色を纏っていき、実体化していった。
色と形で浮かび上がった人影は黒色のメイド服を身につけ、大きな蒼いリボンで長い髪を一本に結えていた。カードに書かれていた絵柄と同じだった。
そして、そのメイドの目が静かに開く。はじめにシャインと目が合った。その後、レインに目を合わせる。
シャインは、トランプのカードから人が召喚されたことに大きな目をさらに開いて驚いている。
「はじめまして。
そう言うと、紙透衣折は丁寧にお辞儀をした。
「はじめまして、紙透さん。どうぞ、おかけください」
レインはソファに座る様に促す。彼女はソファに置かれていたダイヤのクイーンを拾うと、静かに座った。そのカードは、メイドの絵柄ではなくなっている。
「
整った顔のメイドは、可愛らしいがよく通る声で言った。伏せがちな目だからだろうか、長いまつげが印象的だ。
「紙透さん、おそらくご存知かと思いますが、それぞれをコードネームで呼んでいただけますか? 俺はレイン。陽向はシャインで」
「……たいへん失礼をいたしました。レイン様、そしてシャイン様とお呼びするようにいたします」
衣折は丁寧に頭を下げた。静かな所作には無駄がない。レインは、さりげなくスキャングラスで紙透衣折を解析した。レベル3、オレンジ。異能者だ。
「紙透さん、よろしくお願いします!」
シャインは、にっこりと元気よく言った。仲良くしようという雰囲気が全開で伝わってくる。今にも、衣折ちゃんと呼びそうだ。
「さっそく、お仕事の依頼についてお聞きしても良いでしょうか?」
レインが話を先に進める。
「……はい。かしこまりました。ご依頼は簡潔に言って、ある人物の護送です。ユニオンセル生物学研究所にて軟禁に等しい状態に置かれている方を、我が主の風社邸までお連れしてきていただきたいのです」
衣折は、可愛らしいが聞き取りやすい声で、依頼内容を提示した。
「もう少し詳しくお話しいただけないでしょうか。ユニオンセル生物学研究所とは?」
レインが尋ねる。
「医療特区に指定されている女神ヶ丘市
衣折は、淡々と説明を続ける。
「彼は、その研究所で『魔女』に関する生物学的研究をしているチームに所属しています。そして、ある疑いをかけられており、近いうちに消されてしまう可能性がございます。風社としては、彼を
衣折の説明を聴き、レインの糸のような目が開く。
「なぜ、俺たちに依頼する?
レインは、依頼の背景を探ろうと衣折の目を見て言った。
諜報とは、簡単に言えばスパイ行為のことだ。諜報員は、敵から情報を集め、また混乱させる情報を流し、自分たちが有利になるための工作をする者たちだ。時に情報を持つ者を抱き込むこともする。
「疑問は、ごもっともでございます。ですが、我が主の風社有澄様から、雨宮雫様……あ、失礼いたしました。レイン様へ、二つお言付けがございます」
衣折は、レインの顔をまっすぐに見て言った。
「ひとつ目、『
それを聞いたレインは口元に手を当てて、考え込んだ。複雑な顔をしている。
シャインが先に口を開いた。
「レインさん、私は四家ってよく分かりませんが、魔女を追いかけているレインさんにとっては、近づくチャンスですよね? 断る理由は無いように思います。私は手伝いますよ」
「……シャイン。風社と雲城、そして雷殿。この三家は、雨宮が魔女に会うことをある意味、拒んでいるんだ。……もう魔女に仕える四家ではないと」
レインは、静かに伝える。
「風社邸まで桐明育久の護送を成功させた際には、金銭的な報酬とは別に、レイン様にも真実に近づくための情報を共有するとのことです」
衣折は、レインの事情をすでに理解していて提示した。いや、正確には、メイドの主人である風社有澄による提案だろう。
「風社有澄様からの依頼を受けていただけますか?」
メイドはレインに問うた。
レインは黙っている。顔を下げ、スキャングラスの縁を指で摘んだ。熟考している。
「衣折ちゃん、私たち二人は依頼をよろこんで受けます!」
シャインが、レインに代わって快諾の意思を示した。そして、もう『ちゃん付け』が始まってしまった……。
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