第10話 手品のタネ明かし

「もう一度、確認しよう。包川には協力者がいる。そして、彼が角脇たちに復讐をしたいと願ったのは、その協力者から異能を与えられて、かつそそのかされたからだろう」


 レインが静かに述べた。


「異能という力を得たから、それを使ってみたくなった。そこに使い道というか目的も与えられた……」


 彩は独り言のように、確認するように言った。


「ちょっと待ってくれ、レインさん。異能を与えられたってのは……」


 正岡が言いかけたことを、レインが答えるように言う。


「ええ、『魔女』から与えられた可能性がある」


「どうして、そう言える?」


「接触した時、包川本人が『ウィル』を知っていたからです。彼は『あの方たちがおっしゃっていたウィルの異能者か?』と言っていた。俺たちの組織は、一般市民が知ることはまずない、裏稼業に近い会社なのに」


 レインはそう言うと、さらに続ける。


「それに、彼はレベル1のグリーンから、いきなりレベル3のオレンジに上がった。その事実が大きい。いきなり発現したと警察もお考えでしたよね」


「だとしたら、包川を異能者にした目的は何だ?」


「いくつか考えられます。一つ目。滝石さんと角脇さんが『魔女』の逆鱗に触れた可能性。つまり、『魔女』にとって不都合なことを知ってしまった。だから消し去られた。彼女は変わってしまったから……」


 さらに、レインは続ける。


「二つ目。異能者による事件であれば、警察は『ウィル』と連携する。こちらの手の内を探ろうとしているのかもしれません。三つ目は、他の計画を進めるために囮となる事件を起こした。あるいは、これらの組み合わせ……」


「ちょっと、レインさーん。『魔女』が絡んでそうとなって、熱くなりすぎてませんか? 裏はあるかもしれないけれど、包川が復讐をしている事実に注目しないと」


 シャインが本筋に戻そうとした。今は考えるよりも、包川を捕まえる行動を起こした方が最短距離だ、と思って言ったのだった。


「シャインさんの言うとおり。まずは包川を確保してからだ。取り調べればわかるだろう」


 正岡も賛成した。


「ところで、レインさん。滝石さんのオフィスビル屋上での転落死については、どのようにお考えですか?」


 彩は目を輝かせた顔で、レインの言葉を待つ。


「ん、彩ちゃん、そっちも同じだよ。角脇さんは横に飛ばされたけど、滝石さんは上に打ち上げられたって感じだと思うよ。透明な風船の能力で」


 シャインがさらっと説明した。彩はちょっと寂しそうな表情になる。


「あるいは、透明な風船に乗せられて上空に連れていかれて……割るとか落とすとかだったかもしれない。とりあえず、包川の異能は、『透明な風船トランスパレントバルーン』とでも名付けるか」


 レインが補足し、異能を命名した。シャインは、わざわざ英語で名付ける必要なんてないでしょうと心の中で呟く。


「すいません。お二人で、包川を確保することはできるのでしょうか? お話から、かなり強力な異能の様ですし……」


 彩が、不安を示した。


「彩ちゃん、それは大丈夫。レインさんじゃ異能の相性が悪くてダメっぽいけど、私がいるから」


 そう言って、シャインは画面越しにVサインをする。


「い、いや。雨が降っていれば……俺でも問題ない」


 レインはひきつった顔をして、弁解するように言う。


「……でも、ここ数日は天気の良い日が続くって、天気予報になっていますよ」


 週間天気予報を素早く画面共有して、彩は静かに告げた。その冷静な一言に打ちのめされて、レインはうなだれた。


「ふふっ。じゃ決まりですね。私がやっつけちゃいます」


 シャインは、自信満々の顔になって言った。


「で、次はどうやって包川に接触して、確保するんだ? 警戒されている可能性もあるだろう」


 正岡が、レインとシャインに尋ねた。


「条件は日中。場所は広い公園や郊外の草地など、陽のあたるところがベストだ。包川がターゲットにしている斗沢さんに囮になってもらうのがいい。包川が現れたら、接触するのはシャインだ。まぁ、包川が現れない可能性もあるけれど……」


 レインが簡潔に述べた。


「では、斗沢さんへの協力依頼は警察からしますね。また、仮に広い公園の場合は、人払いもこちらで手配しましょう」


 彩が段取りの補足を提案した。他の三人は賛同する。段取りの詳細などを詰めた後、オンライン会議は解散となった。


 包川を誘き出す作戦の実行は、事前に警察にて把握している斗沢の予定も踏まえて、明後日となった。天気は快晴の予報となっている日である。


  *


「ね、レインさん、ちょっと教えてくださいよ。昨晩、包川のあの強烈な空気砲を、どうやって吹っ飛ばされずに耐えたのですか?」


 シャインは、疑問を口にした。


 レインが人を吹っ飛ばして殺傷する透明な砲撃を耐えたのを、シャインは見ていたからだった。


「ああ、あのタネ明かしか。あの砲撃は道全体に撃たれて逃げ場がない可能性があったから、耐える選択をしただけだよ。もちろん異能は使った」


 レインが答えたが、具体的な説明がなかった。


「ちゃんと教えてくれないと、次回は助けてあげませんよ」


 シャインが不満をあらわにし、軽く脅迫する。レインは面倒くさい顔をして、しばらく思考した後、告げた。


「簡単に言えば、道路のアスファルトと俺の靴底の間に水を張って接着した」


「ん? どういうことですか?」


「例えば、ガラスの板が二枚あって、片方に水を垂らす。その上に隙間が無いようにもう一枚のガラス板を乗せると、二つの板はくっつくだろう。それと同じようなことを異能を使ってやっただけだ。もちろん、アスファルトも靴底も凸凹しているわけだけれど、異能を使えば水を隙間なく張れる」


 より詳しくは、水分子の分子間力や水素結合による作用の説明が必要だ。それらをイメージしてあの時、異能を発動させた。だが、シャインはそこまで興味ないだろうとレインは考えたのだ。


「あー、なるほど。何となくわかりました」


 それを聞いて、レインは予想どおりだなと思った。


「シャイン、包川の透明な風船を割る時は、拳よりも手刀の方が良いだろう。破裂しないで、しぼませることができると思う。熱をつけてもいい」


「そうですね。まぁ、でもそこまで細かく考えなくても、大丈夫ですよ。太陽の下で闘うなら、負けないですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る