第10話『旅立ち』
ーシルヴァレン視点ー
「シロ、大丈夫だからね?お母さんがついてるから」
お母さんは私の手を握りながら、優しく微笑んでいた。
でも、目の端には涙が溜まっている。
後ろを振り返ると、村の方から煙が上がっているのが見えた。
きっとあそこでは、ルシフェルさんが戦っているはずだ。
しばらく歩いていると、いつもリュウと遊んでいる場所に来た。
そこには、見知らぬ男の人が立っていた。
その人は、とても怖い顔をした人で、こっちを睨んでいる。
「待ちわびたぞ、光の力を持つ者よ」
「あなた誰よ!そこ、どいてくれない?」
メイアさんはその人に怖気づくことはなかった。
さすがリュウのお母さんだ。
「おっと、すまない。名乗り遅れたな。我が名は《バハムート》!!光の力を持つ者よ!貴様にはここで死んでもらう!!」
バハムート?聞いたことないなぁ。
それに、光の力を持つ者って誰のことだろう?
「メイア母さん、ここは先に行ってくれないかな?あの人、俺に用があるみたい」
え?
リュウ、何を言ってるの?
「急いで!!あいつがその気になれば、みんな殺されるかも知れない!!」
リュウの顔は、必死だった。
額には冷や汗がビッシリと張り付いている。
怯えながらも、私たちのために戦おうとしている。
メイアさんとアインスさんは、反対していた。
リュウを怒鳴るけど、リュウは悲しそうな顔でそれを拒む。
「いいから早く!!みんなを連れて洞窟へ!!!!」
メイアさんは、村の人たちを進ませたけど、自分は残ると言っていた。
アインスさんも戦うと言っている。
私は、どうしたらいいのかな……。
どうしたいのかな……。
リュウと一緒に戦いたいとは思うけど、口にできない。
体が思うように動いてくれない。
このまま逃げ出したいと思っている私がいる。
「お願い、必ず戻るからさ」
リュウが説得を続けると、メイアさんたちは諦めてしまった。
「……リュウ、帰ってくるのよ?待ってるから」
メイアさんとアインスさんはそう言って、森の奥へと進んでいった。
「リュウお坊ちゃん、あなたが何を背負っているのかはわかりませんが、必ず勝ってくださいね。ご武運を……」
お母さんも私の手を引いて、歩き出した。
でも、大丈夫だよね?
リュウならきっと帰ってくるよね?
「リュウ、絶対だよ?絶対に帰ってきてね!」
リュウはただ、悲しそうな笑みを返すだけだった。
–––––
「私、あの子を、置いてきてしまった……!!」
メイアさんは、ずっと嘆いていた。
「メイア、ルシフェルが言ってたじゃない。『リュウはこれから、いくつもの試練を乗り越えなければならない。そうやって強くなっていく。それがあいつの使命でもある』って……。正直、リュウが龍神の力を持っているってルシフェルから聞いたときは、信じられなかった。でも、あの子の胸の痣が、その証拠なのよね」
アインスさんは、メイアさんを気遣っていた。
アインスさんの目からも、涙が溢れている。
「大丈夫よ。あなたとルシフェルの子だもの。きっと生きてるわ」
「でも、それでも、私はあの子を……」
リュウは、本当に帰ってきてくれるだろうか。
もしかしたら、もう……。
「ダイジョブ!ダンナ、ツヨイ!ゼッタイ、カツ!」
みんなが沈痛な表情をしていると、ゴブさんが大きな声で言った。
他の魔物さんたちや、村の人も頷いている。
そうだよね。
リュウならきっと勝てるよ!
「良い?メイア、よく聞いて」
アインスさんは真面目な顔で、メイアさんの目を見た。
「あそこで私たちがいても、勝ち目は無かった。それどころか、かえって危険な目に合うわ。あの子の足を引っ張るわけにはいかない」
「ルシフェルだって言ってたじゃない。あの子の力は、計り知れないほど大きくなってるって。私たち以上に強い子よ。確かにまだ幼いけど……。それでも、私たちよりは、立派な子よ」
アインスさんは来た道を振り返った。
先ほどリュウと別れた場所では、激しい光が見え、凄い音も聞こえる。
「そうね、あれほどの魔法が使える子だもの。私たちがいたところで、かえって邪魔になるだけね……」
メイアさんは悲しそうな表情をして、静かに呟いた。
––––
洞窟に着くと、みんな寝床の支度をした。
テントを立てる人や、水を汲んでいる人。
みんな疲れきった顔をしていた。
「サティファは、これからどうするの?」
メイアさんとアインスさんとお母さんが話しているのが聞こえた。
メイアさんは、少しだけ元気になったみたいだ。
「今と変わらず、ルーク家に仕えようと思います」
「そんな、仕えるだなんて言い方はやめてよ。私たちはもう家族なんだから」
「メイアの言う通りよ。これからも、一緒に頑張っていきましょ?」
「メイア様、アインス様、ありがとうございます……」
「その、様とか敬語はやめにしましょ?」
「そうね、家族にそんな言葉遣いは可笑しいものね」
「うん、そうだね。それじゃ、メイア、アインス、これからもよろしくね?」
3人は笑いあって、これから一緒に頑張ると誓い合っていた。
お母さんが楽しそうに笑うのを見ると、なんだか嬉しいな。
リュウ、早く帰ってこないかな。
「––––!!?」
何て思っていると、洞窟全体が揺れた気がした。
ゴォン!ともズゥン!とも言える音を立てている。
「なに!?」
「みんな伏せて!!」
メイアさんは飛び上がり、アインスさんは警戒しながらも指示を飛ばす。
揺れが収まり、私たちは慌てて外に飛び出した。
リュウがいるはずの場所からは、大きな煙が上がっていた。
「え?……嘘、でしょ?」
メイアさんは驚愕していた。
メイアさんだけじゃない、私もアインスさんもお母さんも、みんな唖然としている。
「リュウ!?どうしようアインス!!リュウが、リュウが!!」
「落ち着いてメイア!大丈夫!大丈夫だから!!」
「メイア!今は落ち着いて!明日の朝、リュウお坊ちゃ……リュウくんが戻ってきていなかったら、みんなで迎えに行きましょう!!」
「でも……でも!!」
メイアさんはかなり取り乱した様子で、リュウのところへ行こうとしている。
リュウ……大丈夫、だよね?
けど、朝になってもリュウは帰ってこなかった–––––。
––––
「ねぇ!これ見て!!」
翌朝。
まだ日が昇りきっていない時間に、メイアさんの声が聞こえた。
「ん〜……メイア?どうしたの?」
「ふわぁ……ぁ」
アインスさんとお母さんは、まだ寝足りないようにあくびをしていた。
「朝起きて洞窟の入り口の方に行ったら、あったのよ!リュウからの置き手紙が!あと、小さな箱が2つ!」
え!?
リュウからの手紙!?
「リュウは?いないの?」
「うん……。急いで外に出たけど、誰もいなかった……」
そっか……。
でも、リュウは生きてたんだ!
あのバハムートとかいう人を倒しちゃうなんて、やっぱり凄いや!
「そう……。それで、なんて書いてあるの?」
「今読むわ」
メイアさんは手紙を読み始めた。
〜拝啓 僕の大切な家族へ〜
みんな無事に洞窟へ避難しているようでよかった。
昨日、村の方へ行ったんだ。
あたりはめちゃくちゃで、村は壊滅状態だったよ。
でも、僕たちの家は無事だった。
父さんはいなかった。
こんなこと言うのもなんだけど、死体もなかった。
村中探し回ったけど、どこにもいなかったよ。
僕は、まだ父さんは生きてると思ってる。
父さんのことだから、ひょっこり帰ってくるかもね。
ちなみに、とり残された人もいなかったよ。
それと突然だけど、これから旅に出ようと思う。
手紙だけ置いて出て行ってしまう息子を、どうか許してください。
みんなの顔を見たら、決心が鈍るし、母さんたちを説得する方法がわからないから。
本当にごめん。
こんなこと言っても信じてもらえないかも知れないけど、俺は光の龍神の力を受け継いでいるんだ。
俺はその使命を果たさなきゃいけない。
闇の龍神を倒すという使命を。
俺はこれから、たくさんの仲間を集める旅に出る。
一人じゃ倒せないことはわかってるから。
それには、かなりの時間がかかると思う。
でも、落ち着いて時間に余裕ができたら、また母さんたちと会いたい。
今はまだ無理だけど、いつかね。
母さんたちには、これからたくさん心配させると思う。
迷惑もかけるかもしれない。
でも、大丈夫だよ。
俺は必ず、闇の龍神を倒す。
倒してみせる。
それと、もう少ししたらメイシェルとエレナの誕生日だから、プレゼントを用意してたんだ。
俺は渡せないから、代わりに渡してほしい。
それと最後に、伝えたいことがあるんだ。
俺はみんなで一緒に過ごした日々が忘れられない。
あの時間は本当に楽しく、幸せだった。
母さんが俺を産んでくれたことに、感謝してもしきれないよ。
みんなと出会えて本当に良かった。
また出会う日を楽しみにしているよ。
その時は、旅のことを話したいと思う。
ーリュウ・ルークよりー
「……あの子ったら、ほんと、いきなりなんだから」
メイアさんは涙を流しながら、手紙を抱きしめていた。
リュウ、いなくなっちゃうんだ……。
そんなの、嫌だよ……。
「本当に立派になったわね。メイシェルとエレナにプレゼントって、この箱のことかしら?」
アインスさんは小さな箱を手に取った。
蓋には、『エレナへ』と書かれていた。
「うわぁ、よくできてるわね〜!」
中には、綺麗なお花の髪飾りが入っていた。
黄色の石を組み合わせて作った髪飾りだ。
「これもリュウの手作りみたいね。こっちの箱は、メイシェルの分かしら」
アインスさんはもう一つの箱を、メイアさんに渡した。
「……ほんと、凄いわね」
メイアさんは、『メイシェルへ』と書かれた箱を開けた。
そこには、綺麗な鳥の羽の形をした髪飾りが入っていた。
銀色に輝く羽は、御伽噺に出てくるものみたいだ。
「リュウお坊ちゃ、リュウくんは、行っちゃったみたいね……」
お母さんは、悲しい顔をしていた。
「もう!仕方ないわね!ちゃんと帰ってくるのよ!」
メイアさんは笑顔で、元気な声でそう言った。
その顔は、どこか誇らしげだ。
「メイア……。そうね!あの子ならきっと一段と立派になって帰ってくるわよ!」
「うん!それじゃ、メイア、アインス、みんなが起きたら、村へ戻りましょう!復興作業を始めなきゃ!」
アインスさんもお母さんも、みんな元気になった。
私も、リュウと会えないのは寂しいけど、どこかできっと会えると信じよう。
それまでに私も、今度はリュウと肩を並べられるように……。
–––––
ーリュウ視点ー
「さぁ〜てと!それじゃ、行きますか!」
俺は今日の朝早く、洞窟に手紙を置いてきた。
昨日、半ば無理やりパンドラに書かされたものだ。
パンドラ曰く、『黙って行ちゃったら、みんな心配するわよ!最悪、死んだと思い込むかも!』だそうだ。
まぁ、そうするのが正しいと思ったから、俺も手紙を書いた訳だしな。
「リュウ、装備が出来上がるまでの1ヶ月間、しっかり頑張りましょ!」
とりあえずの目標は、ガッチェスがバハムートの素材で作る装備が出来上がるまでの1ヶ月間、街のギルドで金稼ぎをする。
要するに、旅の資金集めだ。
「でもぉ、移動手段はどうするのですかぁ?」
あ。
やべぇ、考えてなかった……。
「と、とりあえずは、街までは歩きってことで!街に着いたら、馬を買おうかなぁ〜……と」
「はぁ、あんたって本当に考えなしよね〜」
「大丈夫ですよぉ〜、いつものことですからぁ」
うぅ……。
なんか遠回しにディスられてる感じ……。
–––––
「んで?今私たちは無一文なのよね?これからどうするつもり?」
森を歩いていると、ふと思ったようにパンドラが言った。
「あぁ、とりあえずは、この周辺の魔物を狩って、その素材を街で売ろうと思う。あと、コレもな」
俺は背負っている大きな袋を地面に下ろしてパンドラに見せた。
その中には、村で回収したドラゴンの素材が入っている。
ドラゴンの素材は希少で、高価で取引されるらしい。
ガッチェスがそう教えてくれた。
「別に背負わなくても、私がしまっといてあげるわよ?」
「そりゃ助かる、結構重くてキツかったんだ。街の外辺りでまた渡してくれれば–––––おっと、魔物だ」
そんなことを話していると、魔物の群れが現れた。
数は4体。
蛇のような姿をしている 魔物、《キラーコブラ》だ。
「……はぁ、『サンダーアロー』」
俺は魔法で、即撃破した。
魔法により生み出された雷が、キラーコブラの体を焦がした。
真っ黒焦げだ。
やっと魔物に出会えたと思ったら、4体かよ……。
しかも小さい。
これじゃあまりいい金にはならないなぁ。
「なぁ〜、こいつって食えるかなぁ〜?」
「はぁ!?あんたこれ食べるつもりなの!?」
「いや、ほかに食うもんもないだろ?」
「私は嫌ですよぉ〜。街まではそんなにかからないと思いますから、早く行きましょうよぉ〜」
なんだよ、そんなに嫌がることもねぇじゃんか。
……これ、本当に食えないのか?
「ご主人様ぁ、本当に大丈夫なんですかねぇ〜?」
「無理はしてるでしょうけど、今は空元気でも無理してくれた方が助かるわ……。もう少し、様子を見ましょ」
「おーい、二人して何やってんだよ? 早く行こうぜ〜?」
–––––
「ねぇ〜、あとどれくらいかかるのよ〜。もう3時間は歩いたわよ〜?私もう疲れた〜」
「家から持ってきた地図によると、《グランヴェール王国》の街までは、あと2時間くらいだな〜」
「パンドラちゃんは、だらしがないですねぇ〜。体力のない女の子はモテませんよぉ〜?」
「うるさいわね!余計なお世話よ!5時間も歩けるのがおかしいのよ!」
「うえぇ……。パンドラちゃんがいじめてきますよぉ、ご主人様ぁ〜」
「あぁー、はいはい」
なんでこいつらはこんなに元気なんだ?
俺はもう疲れたんだが……。
なんて話していると森を抜け、街道に出た。
辺りは一面草原で心地よい風が吹いていて、風に吹かれた草が波打つように揺れている。
街道には、行商人らしき人や冒険者のような人が歩いている。
道から外れた遠くの方には、魔物と戦っている冒険者もいる。
oh、ファンタジー!
「そうだ!街へ行く商人の馬車に乗せてもらいましょ!ついでに情報収集もできるわ!」
「それは名案なのですよぉ!」
「そんな簡単に乗せてくれるのか?」
と思ったが、案外すんなりと乗せてくれた。
優しい人が多い地域なのだろうか。
–––––
「お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい?」
グランヴェール王国の城下町に入る検問所を無事に抜けた俺たちは、乗せてもらっていた馬車の商人に話しかけられた。
「《クヌ村》というところからです」
「あぁ、あの村の子供かい! へぇ〜、こりゃまたどうして?」
「街へ行って、ギルドで冒険者登録しようと思いまして」
「ほえぇ〜、まだこんなに幼いのにね〜。そりゃ立派なこって」
商人のおじさんは気のいい人で、とてもフレンドリーな人だ。
「僕たち、国の情報が欲しいんですが、おじさんは何か知りませんか?どんな些細なことでも、何でもいいんです」」
「グランヴェール王国の情報か?そうだなぁ〜…。そういや昨日、大きな地震があったとか。俺もいたけど、そりゃデカかったぜ?」
あ、俺とバハムートのせいだな。
「それ以外だと、そうだなぁ」
商人のおじさんは、いろんなことを話してくれた。
要約するとこうだ。
・グランヴェールの街では最近、貴族の《グリル・ファーレンガルド》の娘、《エリノア・ファーレンガルド》が、王都にいる国王様に《戦姫》に任命されたらしい。まだ幼い少女なのに、戦いのセンスは抜群なのだとか。
・街には王都から派遣された《蒼天の騎士団》がいて、街の治安を守っている。蒼天の騎士団の団長が、かなり有名人で腕利きの人らしく、人望もある人なんだとか。
「まぁ、後のことは行ってみればわからぁよ。おっと、ほら見えてきたぜ。あれが《グランヴェール王国》の《王都ヴェール》だ」
そう言われ奥を見ると、大きな城壁が見えた。
その城壁から少しだけ頭を突き出しているのは、《グランヴェール城》だろうか。
「ここまでで良いのかい?」
「はい、ありがとうございました!おかげで随分と早く到着できました!」
「良いってことよ!それよりも、《貧民区》のガキどもには気ぃつけろよ?ぶつかってきたかと思えば、財布をスラれてることが多いからな」
「ご忠告ありがとうございます。お世話になりました!」
「おう!それじゃあな〜、良い旅を〜」
行ってしまった。
「さぁてと、着いたなー!」
「そうね!」
「えぇ、着きましたぁ〜」
ここからだ。
ここから俺たちの冒険は始まるんだ。
「んじゃ、頑張っていきますか〜」
「よ〜し!気合い入れるわよ!」
「はいなのですぅ!」
俺たちは馬車を降り、グランヴェール王国の城下町の散策を始めた。
ついに俺たちの冒険が始まったのだ––––。
ー第2章竜王編終了ー
〜第3章冒険編へ続く〜
龍刻の転生者 勇者 きのこ @bravemushroom
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。龍刻の転生者の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます