第9話『得たモノと失ったモノ』







 目が覚めると、そこは酷い荒地だった。


 バハムートとの戦いによってできた巨大なクレーター。

 森だったはずの場所は、その気配すら残していない。


 その巨大なクレーターの真ん中に、闇そのものを纏ったような竜とその竜の顔を睨み付ける少年がいた。


 人の姿を保てなくなり、竜の姿に戻ったバハムートとリュウだ。


【––––我の負けだ】


 既にバハムートは瀕死の状態だった。

 身体中ボロボロで、手遅れな程の出血をしている。


【我が力、受け取るがいい】


 そう呟いたバハムートの前に、黒く光る玉が現れた。


 黒い光の玉は、スッと、少年の胸の中に入っていった。


 少年–––リュウはそれに対して一切表情を変えず、力強く拳を握り締めるだけだった。


「––––何なんだよ、お前ら」


 バハムートから受け取った力が自分の中に宿ったのを、リュウはたしかに実感していた。


 それ程までに大きな力を得ることができた。

 この戦いを通して、大きなものを得ることができた–––––。


「–––––ふざけんじゃねぇぞ! 何を失った!? 失ったものよりも大きなものが、手に入ったとでもいうのか!?」


 その叫びは、誰に向けたものでもない。

 ただ、この状況を納得しようとする自分に、虫唾が走った。


 吐き気がこみ上げて来るのを必死で堪える。


 今すぐにでも自分の首を切り落としたい、自分で自分を殺してしまいたい、そんな殺意が心を蝕んでいた。


「––––なぁ、教えてくれよ。どうしたらよかったんだ……」


 無力な自分をひたすら呪い続ける少年に、バハムートは答えない。

 まだ息があるらしく、虚ろな瞳でリュウを見ている。


「なんだよその目……俺はどうしたらよかったんだよ。俺のせいで……」


「これからもこんな思いをして生きて行くのか?次は誰が俺のせいで––––うぁぁぁああ!!!!」


「俺は勝てるのか!!?闇の龍神を倒すことなんて、俺にできるのか!!?そのために、今度は誰を失うって言うんだ!!」


「なぁ……教えてくれよ……。俺は、どうしたらいい」


 –––––俺はいったい、どれだけのものを失うんだ。


 彼の嘆きに答える者はいない、力を失った光の指輪にリュウの涙が落ちる。


 バハムートはもう、答えない。


 その身体は薄く発光し、やがて光の粒子となって消えた。


「なんなんだよ。これから、どうすればいいんだ……」


 何もわからない世界で背負った過酷な運命。

 唯一の心の拠り所であった女神 ミラはもういない。


「–––––リュウ!!」


 背後から大きな声で呼ばれ、リュウは力無く振り返る


 こちらを心配そうに見ているガッチェスが、大穴の上に見えた。


「おい、大丈夫か? それにしても、酷い有様だな」


 ガッチェスは当たりを見渡しながら、大穴へロープを垂らして降りてくる。


「凄まじい音と揺れもようやく収まって来てみれば……ここで何があったかは、想像もつかないな」


 ガッチェスの鍛冶屋は村のはずれにあり、ここから距離があった。

 バハムートとリュウの戦闘が終わったことで揺れも収まり、様子を見にきていたのだ。


「……ガッチェスさん、一つ頼まれてはくれませんか?」


 虚な瞳をガッチェスに向け、リュウは呟くように言った。


「––––俺に装備を一式作ってはもらえないでしょうか? もちろん、金は払います」


 想像もつかないような戦いを終えたばかりであろう少年からのその言葉に、ガッチェスは少し戸惑った様子で答えた。


「それは……まぁ、構わん。だが、時間がかかるぞ? せいぜい1ヶ月くらいだが」


 ガッチェスのその言葉に、リュウは申し訳無さそうに苦笑いをする。


「すみません、ありがとうございます。なら1ヶ月経ってから、また訪ねます」


 大切なものを失った少年は虚な瞳のまま穴の外へと力無く歩き出し、ふと何を思ったのか立ち止まる。


「–––––俺は光の龍神の使命として、仲間を集める旅に出ようと思います。ガッチェスさん、あなたも俺と一緒に来てはくれませんか?」

「構わん」


 ガッチェスは即答した。

 まるで、最初から決めていたように言った。


 ガッチェスは既にリュウが光の龍神だということに気づいていた。

 ここで起こった戦闘も、きっとそれが原因なのだということにも。


「ありがとうございます。では、また1ヶ月後に会いましょう」

「そうか、わかった。後のことは俺に任せろ」


 リュウはそう言って、村の方へと歩き出した。

 村からは黒煙が上がり、空が赤く染まっていた。








 –––––








「………」


 村へ着くと、悲惨な光景が広がっていた。

 村は壊滅していて、辺りはまだ消えていない炎で包まれている。


 広場の方には、巨大な黒竜が倒れていた。

 胸のあたりに大きな傷があり、死んでいる。


 きっとルシフェルたちが倒したのだろう、辺りには騎士の死体もある。


「こいつも使えそうだな……」


 リュウは黒竜の死体を魔法で解体し、辺りを見渡した。

 どこもかしこも破壊されていて、村の面影はない。


「……いない、か」


 いくら見渡しても、ルシフェルらしき人影はない。


「おい、誰もいないのか!!」


 叫んでみるが、返事はない。

 あたりは静まり返り、人の気配はしない。


 解体した黒竜の素材を少し剥ぎ取って騎士が持っていた袋に入れると、リュウは自分の家があった場所に歩き出した。


 幸いにも家は破壊されてなく、そのままの姿で残っていた。


「…………」


 玄関の扉を開けて、中に入る。

 中はシン……と静まり返っていて、人の気配はしない。


 二階に上がり自分の部屋へと向かった。


 部屋へ入ると、机の引き出しにあった文字がびっしりと書かれた紙束を手にとった。

 ミラから教わった事をまとめた資料だ。


「パンドラ、ミシェル」


 リュウは無詠唱でパンドラとミシェルを召喚した。


 召喚された二人はリュウの虚な表情を見て、なんと声を掛ければ良いのかを戸惑う。


 召喚待機状態でも周りの様子は把握していたので、今がどういう状況なのかも理解はしていた。


「リュウ、これからどうするの……?」

「ご主人様……」


 二人は心配そうな顔で気遣っている。


「––––俺はこれから、旅に出ようと思う。母さんたちには悪いけど、黙って出発しようと思う。説得するのは、難しいだろうから……」


 旅に出ることを伝えても、きっと自分のことを心配して反対する。

 リュウの考えは二人にもよく分かった。


「これからやることは3つだ。1つは、ここから少し遠くにある街へ行き、ギルドで依頼を受け金を稼ぐ」


「2つ目は、金が集まり次第、仲間集めの旅に出る。多くの仲間が集まれば、組織を作ろうと思う。俺の力だけじゃ絶対に勝てない、勝つためには仲間が必要だ」


「最後の3つ目は、闇の龍神の撃破。戦力が集まり次第、行動を開始する。闇の龍神がいつ復活するかはわからんが……」


 リュウは資料を読みながら、淡々とした口調で言った。

 感情の無いその声に、二人は少し恐怖すら覚えてしまう。


「二人にも協力してほしい。頼めるか?」


 しかし、その瞳の奥で揺れる怒りの炎を感じ取り、決してリュウの感情が消えているわけでは無いと悟る。


 彼は己すらも焦がしてしまうほどの怒りの炎に身を焼かれないよう、心を殺し必死で押さえつけているだけなのだ。


「もちろんよ!」

「はいなのですぅ!」


 その姿を見て、二人は力強く頷いた。


 少しでもリュウの負担を減らしたい、その一心で決意を固める。


「ありがとう。それと、二人を箱の姿に戻すのもできるだけしたくはない。こんなこと言って情けないが、今の俺は弱い。二人の力が必要なんだ、助けて欲しい」


 弱くなんて無い、情けなくなんか無い。

 リュウのその言葉を否定したかったが、今はただ何も言わず力になりたいという思いでグッと堪えた。


「いいわよ。それに、リュウの役にも立ちたいし……」


「あらぁ? パンドラちゃん、それはどういう意味なのですかぁ?」


「え!? あ、いや……別になんでもないわよ!」


「おいおい。遊んでないで、荷物をまとめるのを手伝ってくれるか?はやく出発しないと、母さんたちに見つかっちまう」








 –––––








 ーシルヴァレン視点ー





 私は、お父さんの顔を知らない。

 お母さんが言うには、私が幼い頃に戦争で死んでしまったらしい。


 お母さんは、一人で一生懸命に頑張った。

 私のために働くお母さんは、日に日にやつれていった。


 お母さんはいつも苦笑いして、

「シロ、ごめんね。お腹いっぱいご飯を食べたいよね……」と言った。

 私は、お母さんがいてくれるだけでよかった。


 ある日、いつものように仕事を探しにギルドへ行っていたお母さんが、大喜びしながら帰ってきた。


「シロ! とてもいいお仕事を見つけたの! 大きなお家に住めるし、お腹いっぱいのご飯も食べられるのよ!」


 私とお母さんは、飛び跳ねながら大喜びした。

 これで、お母さんと一緒に幸せになれる。


 しばらくして私とお母さんは、村へ行く準備をした。

 護衛の人を雇い、馬車を買い、村の村長の家に出発した。


 その途中にある森の中で、道に迷ってしまった。

 しばらく迷っていると、怖い魔物さんたちに襲われてしまった。


 護衛の人が頑張ってくれてたけど、たくさんいたから私とお母さんが乗る馬車も襲われてしまった。

 お母さんは私を抱えて逃げようとしてくれたけど、無理だった。

 私たちは魔物さんたちに囲まれて、殺されそうになった。


 そこにきてくれたのが、彼だった。

 青色の長い髪を後ろで束ね、紅い瞳をした彼だ。

 これが、私とリュウの初めての出会いだった。


 リュウは、私たちを襲っている魔物さんを魔法で攻撃し、他の魔物さんたちからも守ってくれた。

 その時の彼は、とてもかっこよかった。


 リュウと一緒に、リュウのお家に行った。

 お家は、大きくて立派だ。

 お母さんの話によると、とても優しい人たちが住んでいるらしい。


 私は、ルシフェルさんとメイアさんとアインスさんと出会った。

 ルシフェルさんはとてもかっこよくて、優しい人だ。

 リュウは、ルシフェルさんに似ている。


 リュウと一緒に過ごしたひびは、とても楽しかった。

 リュウはとても物知りで、なんでも知っていた。


 私はリュウから魔法を教わり、たくさんの魔法が使えるようになった。


 リュウの5歳の誕生日が近づくと、みんなリュウへのプレゼントを考え出した。


「お母さん! シロもリュウにプレゼントしたい!」

「いいわよ、シロ! じゃあ、お母さんたちのお手伝いを一生懸命したら、買ってあげる」


 私はお母さんに言われた通り、一生懸命お手伝いをした。


 ある日、リュウが出かけているうちに、ルシフェルさんたちと街へプレゼントを買いに出かけた。


「おぉ! これなんて、あいつに似合いそうじゃないか?」


「そうね、いいんじゃない?」


「リュウもきっと喜ぶわ」


「リュウお坊ちゃんの喜ぶ顔、早く見たいですね〜」


 みんなそれぞれのプレゼントを買うため、いろんなお店に入った。

 私は、不思議な格好をした人たちがいるお店に入った。


「わぁ〜! 綺麗な石がたくさんあるよ!」


「これは魔法石だな。そうだ! あいつも魔法石は見たことないんじゃないか?」


 ルシフェルさんに教えてもらい、私はプレゼントを選んだ。

 私が買ってもらったのは、青色の綺麗な石がはめ込まれた腕輪にした。

 リュウ、喜んでくれるかなぁ〜。


 誕生日当日。


 リュウは気がついたらいなくなっていた。

 外に出かけたみたい。


「さぁ! リュウが帰ってくる前に準備を終わらせるわよ! シロも手伝ってくれる?」


 私はメイアさんに言われ、一生懸命お手伝いをした。


 しばらくして、リュウが帰ってくるのが見えた。


「メイアさん! リュウが帰ってきた!」


「あら? あの子、もう帰ってきたの? 今日に限って、帰ってくるのが早いんだから」


「メイア、どうする? 私が足止めしようか?」


「いいわ、私が足止めする。みんなはその間に準備を終わらせておいて」


 メイアさんはそう言って、出て行った。


「メイアのやつ、えらい張り切ってんな」


 ルシフェルさんは苦笑いしながら、そう呟いていた。


 しばらくして、リュウがドアを開けて、入ってきた。

 私たちはそれを合図に、一斉にクラッカーを鳴らした。


『リュウ!!誕生日、おめでとー!!』


 リュウはしばらく、何が起こったのかわからない様子で呆然と立ち尽くしていた。


「ありがとう……ございます。とても……うれしいですっ!!」


 リュウはそう言って、泣き出してしまった。

 私がリュウが泣いているところを見るのは初めてだ。


 みんながリュウにプレゼントを渡し出した。

 なぜかお母さんは、私のパンツをリュウにプレゼントしていた。


 もう! お母さんったら!


 私も、リュウに腕輪を渡した。

 喜んでくれるかなぁ……。


「あれ?シロ……これ、もしかして魔法石か? 高かったんじゃないのか?」


 どうやらリュウは、魔法石のことを知っていたみたいだ。


 リュウが知らないものをプレゼントしたかったのに、少し残念。


「ありがとな、シロ! とても素敵だよ!」


 リュウは笑顔で私にお礼を言った。

 その顔がとてもカッコよくて、ついお母さんの後ろに隠れてしまった。


 リュウの誕生日パーティーは、とても楽しい1日になった。



 しばらくして、私の誕生日が近くなった。

 それにつれて、リュウはよく部屋にこもるようになった。


「いいか? シロ。俺が部屋にいるときは、決して覗かないように」


 リュウはそう言って、部屋の中で何かをしていた。

 気になる気持ちもあったけど、リュウが覗かないでって言ったから、覗かなかった。


 誕生日当日。


 みんな盛大にお祝いしてくれた。

 美味しそうな料理がたくさん運ばれてきた。

 リュウはつまみ食いをして、メイアさんに頭を叩かれていた。


 プレゼントも貰った。


 お母さんからは、綺麗な髪留めを。

 ルシフェルさんからは、可愛い靴を。

 メイアさんからは、水色の綺麗なリボンを。

 アインスさんからは、魔法使いさんがが使う小さな杖を。

 メイシェルちゃんとエレナちゃんからは、綺麗なお花を。


「あ、あのさ……シロ。サティファさんと被るかもだけど……」


 リュウは不安がりながらも、私に石でできた小さな箱をくれた。


「わぁ! 凄く綺麗!!」


 箱の中には、色とりどりの小さな石を使って作られた、虹色の蝶の髪飾りが入っていた。


 凄く綺麗な蝶で、とても高そうに見える。


「それ、俺が魔法でいろんな色の石を作って組み合わせて、少しずつ作ったんだ。気に入ってくれたか?」


 え!?

 これ、リュウの手作りなの!?

 やっぱり、リュウは凄いや!!


「うん! とても綺麗だよ! リュウ、ありがと!!」


「へぇ〜、リュウが作ったのか? 凄いな……良くできてる」


「さすがリュウね!」


「メイアの子とは思えないわ!」


「ちょっと!? それどういう意味よ!? アインス!」


「良かったわね、シロ! リュウお坊ちゃんから素敵なプレゼントがもらえて!」


 えへへ〜!

 リュウが私のために作ってくれたのか〜!

 嬉しいなぁ〜!









 –––––










「リュウ! 待ってよー!


「シロ〜、早くしないと置いてっちゃうぞー!」


 私たちは今日も、森で魔法の練習をしに出かけた。

 リュウはいつも元気だ。


 私の誕生日にリュウからもらった髪飾りは、毎日つけている。

 ちゃんと寝る前に、綺麗に磨いたりもしてる。


 リュウからもらった大事なものだもんね〜。


 最近、パンドラちゃんとミシェルちゃんと知り合った。

 二人はリュウの魔法で出てくる。


「なぁ、この場合はどういう動きをすればいい?」


「そうね、こうすればいいんじゃない?」


 パンドラちゃんとリュウは凄く仲が良さそうに見える。

 ちょっと面白くないかな……。


「ねぇ、シロちゃん。あの二人、仲がいいですねぇ。私もご主人様とイチャイチャしたいですぅ」


「え!? だ、ダメ!」


 もう、ミシェルちゃんはいつもこうなんだから。

 リュウと昔からの友達なのは、私のなのにな。


「!!」


 リュウがいきなり辺りを見渡して、姿勢を低くした。


「リュウ、どうしたの?」


「静かに––––何かいる!!」


 辺りを見渡してみるけど、何も見えない。


 隣では、ミシェルちゃんも何かを感じるらしく、警戒している。


「っ! パンドラちゃん!」


「えぇ……。魔物ね、かなりの数だわ。囲まれてる」


「シロ、俺の後ろでカバーに入ってくれ。パンドラとミシェルは、シロを守ってくれ」


 私は言われた通りに、リュウの後ろで杖を構えた。

 パンドラちゃんとミシェルちゃんも、周りを警戒している。


 すると、茂みから何かが飛び出してきた!

 何かじゃない、あの姿は忘れもしない。


 ––––ゴブリン。


 けど、ゴブリンさんはいきなり地面につっぷせて、降参した。

 ゴブリンさんの言葉は、よく聞き取れない。


 でも、リュウは警戒を解いたようで、ゴブリンさんと話し始めてしまった。

 リュウはなんにでも積極的だし、すぐになんとかしてくれるから、とても頼りになる。


 私もいつか、リュウに頼ってもらいたいな……。







 その夜。

 村の人たちが集まり、話し合いをした。


 みんなピリピリしていて、ルシフェルさんがみんなを説得していた。


 どうやら、魔物さんたちと一緒に暮らそうとしているらしい。


 正直、そんなのは嫌だ。

 とても怖い。


 でも、ルシフェルさんの考えならいいかな、と思う。


「子供に何がわかるって言うんだ!」


 村のおじさんにリュウが怒鳴られた。

 私はとっさに杖を引き抜いたけど、リュウが言い返してたからすぐに腰に収めた。


 リュウはおじさんや他の村の人たちも説得した。


 さすがリュウだよ。

 私だったら怖くて言い返せないもん。


 こうして、魔物さんたちと私たちは、村で仲良く暮らすことになった。

 まだ少し怖いけど、仲良くなれるといいな。








 –––––









「シロ〜! 魔法の練習をしに行こうぜー!」


 ある日のお昼頃、私とリュウはいつものように、森へ行くことにした。

 朝はリュウの姿を見かけなかったけど、どこかに出かけていたんだろうか。




 リュウと一緒に歩いていると、広場の方で村の人たちが、空を見上げて騒いでいた。


 私も空を見たけど、特に何も見えない。

 と、思ったけど、遠くの方に小さなものが見えた。


 なんだろう……。


「みんな! あれはドラゴンだ!! 巨大なドラゴンが、こっちへ向かってきてる!!!!」


 リュウが叫び、みんなが慌てて逃げ出した。


 あれって、ドラゴンなのかな?

 あれが見えるなんて、リュウって目が良いんだなぁ。


 なんて思ってる場合じゃないよね、どうしよう……。

 どうしたらいいのかなぁ。


「シロ!急いで父さんにこのことを知らせるぞ!!」


 私がオロオロしていると、リュウはそう言って私の手を握った。

 私はリュウに手を引かれ、来た道を急いで戻った。








 –––––






 家へ着くと、すぐさま中に入り、ルシフェルさんに広場でのことを話した。


「分かった!!お前たちは急いで洞窟へ避難しろ!俺が奴を倒す!」


 ルシフェルさんはもう、戦いの準備を始めていた。

 メイアさんやアインスさんがそれを止めている。


 ルシフェルさんは、リュウに何かを言っていった。

 私はただ、訳が分からずに呆然と立ち尽くしていた。


「シロ、リュウのことが好きか?」


 ルシフェルさんに、唐突にそう聞かれてビックリした。


「––––うん、大好き!ルシフェルさん、必ず帰ってきてね……」


 私は、リュウのことが大好きだ。

 お母さんに将来の夢を聞かれて、つい、リュウのお嫁さんになる! って言ってしまったくらいに。


 ルシフェルさんは私の答えに満足したように頷いた。

 そして、リュウの方を向いてニヤニヤしていた。

 このやりとりも、もう見れなくなってしまうのかな……。


「シロ、俺の大切な家族を守ってやってくれ」


 ルシフェルさんは最後に、私の耳元でそう呟いた。

 私は力強く頷いた。


 ルシフェルさんは、準備を終えてからすぐに村へと飛び出して行った。

 私はその背中が、とても大きく見えた。

 まるで、魔王と戦おうとする勇者みたいだった–––––。




















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