第二章 竜王編

第6話『魔物を救う勇者』

 






 ー天界 夢幻都市 アルデシアー


 ここは、天界にある夢幻都市 アルデシア。

 あたりは幻想的な景色が広がり、見る者を魅了する。


 そんな都市の中心にある、山のように大きな城にいるのは–––––神々の王、ゼウスだ。


 彼は《全能神》と呼ばれ、その名の通り、あらゆることを知り尽くし、どんなことも行える力を持つ全知全能の神だ。


 だが、彼にも例外はある。

 龍神と同等の力を持つ彼だが、龍神を倒せるか?と聞かれたら、首を横に振る。


 そんな彼が住む城の名は、《無敵城 アスモデウス》


 この山のように大きな城の中では、他にも多くの神々がいる。


 城の廊下を急ぎ足で歩く彼女も神の一人。


 《天界の守護者 アテナ》

 神々の中でも美しく、気高い女性。


 碧色の髪から覗くルビーのように赤い瞳。

 誰もが羨む美しさだ。


 彼女は、ある大きな扉の前で立ち止まり、深呼吸をした。


「失礼します。アテナ、ただいま戻りました」


 アテナは勢いよく扉を開け、中に入る。

 そこには多くの神が椅子に座り、みな険しい表情をしている。


 その中で、一際大きな玉座に座る老人。全能神 ゼウスが口を開く。


「よく戻ったな。ではさっそく聞かせてくれ」


 彼は落ち着いた声で言った。

 その言葉にアテナは膝をつき、頭を垂れた。


「はっ!人間界で感じた光の龍神の気配は、間違いありませんでした。光の龍神の力を受け継ぐものが現れました」


 光の龍神の気配が人間界からしたということで、彼女はそれを確かめるべく人間界へと赴いていた。


 その言葉を聞いたゼウス以外の神がざわつく。


「やはりか……。して、その力はどれくらいだ?」


 ゼウスは、ややため息交じりで聞いた。


「姿は幼く、性別は男性。それと、魔力の総量が異常なまでにあります。その大きさは–––––どの神々にも劣らないかと」


 彼女は自分の目で確かめたが、いくら龍神の力を受け継いでいたとしても、普通では考えられないほどの魔力量だった。


「馬鹿な!! たかが人間如きが、我々神々に匹敵するほどの魔力だと? ありえない!!! それが本当ならすぐにでも–––」


「–––騒ぐな。ふむ、それほどまでにか。アテナよ、そなたはどう思う?」


 ゼウスの急な問い掛け。

 おそらく彼は、その少年をどうするかと聞いているのだろう。


「正直に申し上げますと、このままでは危険です。ですが、彼の目的は、あくまでも闇の龍神だと思われます。このままにしておいて、彼に戦わせるのが良いかと」


 このまま野放しにするのも危険だが、闇の龍神と戦わせて、どちらか片方が弱ったところを総攻撃すれば、勝機はあると思う。


「私も同意見です。このまま潰し合わせてればよろしいかと」


 口を挟んだのは、椅子に座って話を聞いていた1人、《大天使 ガブリエル》だ。


 彼は落ち着いた雰囲気のする男性で、神々の中でもとても頭がキレる。


 青い髪に赤い瞳、いかにもといった感じだ。


「そうか、その少年の名はなんという?」


「……リュウ・ルークです」


 アテナがその名を口にした瞬間、再び周囲がざわめき始めた。

 皆、ルークの名には険悪感を覚えている。


「ルーク、あれの息子か。あの者には、本当に手を焼くな……」


 ゼウスもまた、ルークの名には嫌な思い出がある。


「これもまた、運命なのでしょうか……」


 アテナの脳裏には、過去の記憶が蘇っている。


 –––––ルーク……神の怒りを買った者の名。


「まぁ良い。それで、闇の龍神の動きはどうだ?」


 それに答えたのは、ガブリエルの隣に座っている天使だ。


「闇の龍神の復活が近いからか、他の竜王の動きも怪しいですね。それに、冥王竜は光の龍神の気配を感じ取っています。奴が動くのも、時間の問題かと」


 そう言うのは、燃えるような赤い髪に黄色い瞳を持つ、《大天使 ミカエル》だ。


 彼もまた魔界へと赴き、その様子を探っていた。


「そうか。ならば、お手並み拝見といこうではないか。もしも奴の息子が勝つことができたのなら、またどうするかを、改めて考えるとしよう。今回はこれで解散とさせてもらう」


 ゼウスはそう言うと部屋から出て行った。


 後に残されたものたちは、皆険しい表情をしている。


 アテナは部屋から飛び出し、廊下を歩くゼウスへと駆け寄った。


「ゼウス様! 奴は……は、何を考えていると思われますか?」


 《堕天使 ルシファー》


 かつては、天使種の最高位の階級の《熾天使》であったが、神々の考えを否定した男。


【人類種を始めとした下界にいる種族は、神をも超える力を秘めている】


 彼はゼウスや他の神々にそう言い放ち、天使の力と記憶を引き換えに人の住む世界へと転生した変わり者。


 今は魔法界の女性と結婚し、ルーク家の当主として生きているはずだ。


 彼は他の天使などに優しく接していて、みんなの憧れだった。

 アテナも、よく彼に助けられた。


「……知らぬ。愚か者の考えなど、理解できぬ」


 ゼウスは一言そう言い放ち、踵を返して行ってしまった。


 アテナは、拳を強く握った。


 悔しい。

 彼に助けられても、彼を助けることはできないのか。


 アテナは、人間界で笑って過ごすルシファーを見て、羨ましく思った。

 彼の息子、リュウ・ルークは、本当に彼によく似ていた。


 彼女は思う。本当に彼は間違っているのだろうか……と。

 彼はその手で幸せを掴み取った。それは間違っているのだろうか。


 彼女は答えを出せない。

 そして結論づける。答えなど無いのだと。






 ––––––––––







「んー! 今日もいい天気だ〜! シロ〜、はやく行こうぜー!」


 俺はもう7歳になり、かなり多くの魔法や戦術、剣術を覚えた。


 まぁ、実戦で使えるかはわからんがな。


 シロの5歳の誕生日パーティーに、俺は魔法で丁寧に作った、綺麗な蝶の髪飾りをプレゼントした。

 シロは気に入ってくれたらしく、毎日のようにつけている。


 あの時のシロは可愛かったなぁ〜。


 ピョンピョン飛び跳ねながら、サティファに「見てお母さん!リュウからプレゼントもらったよ!!」って言って見せびらかしていた。


 俺もシロも大きくなり、そろそろ学校に通い始めようかという話も出てきている。


 この世界での学校は前世と違い、様々な種族やいろんな年代の人が通っているらしい。

 ロリっ子やショタっ子もいるし、綺麗なお姉さんやダンディーな男性もいる。


 俺とシロは、今日も魔法の特訓をするために森へ行く。


 ガッチェスからは、まだ連絡は来ない。


 頼んだ武器もそうだが、能力面にもかなり無理言ったから時間がかかるのだろう。


「待ってよー! リュウ、張り切りすぎだよ!」


 シロの成長は、とても凄い。


 魔力総量もかなりあるし、魔法だってかなり多く使えるようになった。

 俺も少し危機感を覚えるくらいだ。


 ついでに言うと、発育もいい。

 胸も少し膨らんできた。


 おっと、別に俺はロリコンじゃないぞ?

 あくまでも説明だ、説明。


「リュウ、夕飯までには帰ってくるんだぞ!」


 後ろからルシフェルの声がする。

 うちの妹達も、もうすぐ5歳になる。


 だが、今でも俺に甘えてきてくれるから、「お兄ちゃんキモーい」とかは言われない。


 もし言われたら、立ち直れないだろうな……。



「ここら辺でいいかなぁ。よし! 『禁断の箱パンドラボックス』 『奇跡の箱ミラクルボックス』」



 俺が叫ぶと、パンドラとミシェルが現れた。


「ふあぁ〜。おはようリュウ、シロ。今日も魔法の特訓?」


「おはようございますぅ〜! 相変わらず、元気ですねぇ〜??」


 最近俺は、パンドラとミシェルも入れて、シロとの魔法の特訓をしている。


 最初はちょっとシロも人見知り? してたが、今ではすっかり仲良しだ。


 パンドラとミシェルに魔法の使い方などを教えてもらい、どこがダメでどうすればいいかを聞いている。


 おかげで、俺もシロもかなり魔法の使い方は上手くなった。


「なぁ、パンドラ。この魔法なんだけど、どの魔法と組み合わせて使ったらいいと思う?」


「あぁ、これね。これとこれを組み合わせて交互に使ったら、隙も少なくなるわ!」


 俺がパンドラと話していると、決まってシロとミシェルがつまらなそうな顔をする。


「あの二人、仲が良いですねぇ。私もご主人様とイチャイチャしたいですぅ」

「え!?だ、ダメ!」


 ミシェルはつまらなさそうにため息をつき、シロは頬を膨らませる。

 おやおや、嫉妬かい? 可愛いねぇ〜。


「–––––!!」


 なんだ?

 なんか今、誰かに見られていた気がしたんだが。


 ……誰かいるのか? 魔物かもしれない。


「リュウ、どうしたの?」

「静かにッ! 何かいる……」


 シロは気づいてないようだ。


 だが、勘違いじゃないはずだ。

 ……確かに何かいる。


「っ! パンドラちゃん!」


 ミシェルも気配を感じるようだ。


「ええ、魔物ね。それもかなりの数だわ。囲まれてる……」


 やはり魔物か。


 さて、どうするかな。


「シロ、俺の後ろでカバーに入ってくれ。パンドラとミシェルはシロを守ってくれ」


 俺は小声で指示をする。

 敵の姿は見えないが、かなりの数がいるのはわかる。


 どうしてこんなところに……。


「まず俺が広範囲魔法で攻撃し、敵の姿を確認する。敵が確認でき次第、戦闘を開始する。いいな?」


 そう言って、俺は手に魔力を込めた。


 使う魔法は風魔法の『ウインドスラッシャー』

 前方広範囲に風の刃を飛ばす魔法だ。


 魔法を放とうと、手を前に突き出した時だった。

 木々の間から、魔物が飛び出してきた!


 –––––しまった! 先手を取られたか!?


 俺は即座に魔法を放とうとして、動きを止めた。


 なぜなら、目の前にいる魔物は地面に突っ伏して、土下座に近い格好をしていたからだ。


「オ、オネガイ、シマス。ドウカ、コロサナイデ、クダ、サイ」


 この魔物は見たことがある。


 赤茶けた帽子に緑色の肌。

 身長は俺とそんなに変わらない。


 –––––ゴブリンだ。


 ゴブリンって、喋れるのか……?


 目の前のゴブリンがそう言うと、他の魔物達も出てきた。

 どうやら全員、戦う意思はないようだ。

 全員、怯えた表情をしている。


 魔物はゴブリンだけじゃなく、虎のような魔物や蛇のような魔物、いろいろな奴らがいる。


「オレタチ、ココカラ、トオクノトコ、スンデタ。デモ、ワルイリュウガキテ、オイダサレタ。オレタチアルイタ。トオクトオクノトコ、イコウトシタ。デモ、モウムリ。ミンナ、ツカレタ。ハラヘッタ。チイサイヤツラニモ、ナニモタベサセテ、アゲラレナイ。コノママジャ、ミンナ、シヌ」


 うぐ、聞き取りにくいな……。

 魔物が喋るなんて本でも見たことないぞ……。


「リュウ! こいつらのいうことに耳を貸してはダメ! こいつらは魔物なのよ!?」


 パンドラは意味がわからないという表情で叫んでいる。


「オネガイシマス! セメテ、チイサイヤツラダケデモ! 」


 確かに彼らは魔物で、魔物と人が出会えば問答無用で殺し合いをする。

 人にとって魔物とはそういうもので、逆もまた然り……。


 でも、何だろう……。

 こいつらが生きるのに必死だってのは、伝わってくる。


 生きようとしているのに、魔物だからといって簡単に殺せるだろうか?


 襲ってきたなら話は別だが、こいつらは攻撃してこない。

 むしろ、子供だけでもいいから助けて欲しいと必死になっている。


「リュウ、なんだか可哀想だよ……」


 シロも俺と同じ気持ちなのだろう。


 ここで殺すことはできるが、それでいいのか?


 –––––いいわけがない。


「–––そうだな。パンドラ! こいつらは俺たちを死に物狂いで襲えばいいものを、わざわざ命乞いしてる。お前の言う通り信用はできないが、殺す必要もない。俺は話だけでも聞こうと思う。それでも反対か?」


 パンドラはしばらく考えたあと、黙って首を横に振った。

 だが、警戒は怠っていない。俺もその方が安心して話せる。


「なぁ、話してくれないか?何があったのかを……」






––––––––––






 言葉は聞き取りづらかったが、内容は理解できた。


 要約すると、この魔物の大群は、ここから北にある山に住んでいて、木の実などを食べたりして過ごしていたらしい。


 そこに、凶悪なドラゴンがやってきたらしく、山を荒らし、そこに住んでいた魔物たちを襲ったらしい。


 それに恐れた魔物たちは、安全な場所を探すために旅に出たようだ。

 だが、そう簡単に食べるものも見つからず、見つかったとしても、この数の魔物が腹一杯食べれる量ではないようだ。


 大勢を引き連れての移動。

ここら辺は定期的に魔物狩りが行われているため、見つかるのも時間の問題だった。


 もうダメだと思った時、俺たちを見つけたようだ。


 襲おうとした魔物もいたみたいだが、すぐに俺たちが気づいたため、リーダー格のゴブリンが戦闘になると踏んだようだ。


 体力もない自分たちに勝ち目があるはずもなく、命乞いをしたようだ。


「オネガイシマス……タスケテクダサイ」


 正直言って、助けるのは難しい。

 魔物は敵だと考えるのが普通だし、こいつらを助けることが正しいとも限らない。


 仮に、ここで俺が見逃したとしても、定期的に魔物狩りを行っているのだから、いつかは見つかって殺されるだろう。


 俺は『龍眼』を使った。

 最近気付いたことなのだが、龍眼は遠くのものを見たりするだけではなく、思考も読めるようだ。


 相手の考えていることまでは読めないが、筋肉の動きや気配なんかで大体は察しがつく。


 龍眼は他にも能力があるらしいが、まだ全部が分かったわけじゃない。

 そこらへんのことはこれから調べて行くつもりだ。


 龍眼で確認したところ、ゴブリンは嘘をついているわけではなく、騙そうとしているわけではないようだ。


「–––はぁ……。わかった、一応父さんに頼んでみよう。交渉次第では、ここに住むのを許してもらえるはずだ。だが、あまり期待はしないでくれ」


 俺はルシフェルを呼びに帰った。






 ––––––––––






 ルシフェルに事情を話すと、すぐに森へと出かけてくれた。


「むぅ、魔物の命乞いは初めてではないが、襲ってこなかったのは初めてだな」


 俺から話を聞いて、ルシフェルは訝しげに言った。

 というか、他にも喋る魔物がいたというのにも驚きなんだが……。


「父さん、どうにかして助けてあげられないでしょうか?」


「ルシフェルさん、お願い! この子たちを助けてあげて!」


 俺とシロが必死に頼むと、ルシフェルは仕方のなさそうな顔をした。


「わかった……。とりあえず、村の人たちと話し合おう。心配いらない、俺がなんとかするから」


 ルシフェルはそう言って、リーダー格のゴブリンに言った。


「お前がリーダーだな?怖いとは思うが、俺と一緒に来てもらう。村の人たちに、ちゃんと自分たちが脅威ではないことを話すんだ。悪い人たちじゃないから、きっと分かってくれるはずだ」


「ワカッタ。オレ、イク。ミンナニ、ハナス。オレタチ、ワルイヤツ、チガウッテ」






 –––––その夜、村では集会があった。

 議題は、『魔物との共存』についてだ。



「ふざけるな!そいつらがもし襲ってきたら、どうするつもりだ!?」


「その時は俺がこの村の長として、責任を持って始末する。そのあとで、俺は自分の過ちを認めよう」


 当然、村人たちは共存を拒んだ。


 村の住人たちは皆、魔物たちに恐怖している。

 当たり前だ。そう簡単に受け入れられるはずがない。


 魔物と人は殺し合う、それは子供でもわかる道理だ。


 しかしルシフェルは、この魔物たちを恐れる必要はないと言うことを説明する。


「それに、そいつらと共存して、俺たちになんの得があるんだ? ただ黙って怯えてろって言うのか?」


「そんなことは言わない。こいつらにも、きちんと働いてもらう。例えば、今俺たちは定期的に魔物狩りをしているだろ? それをこいつらにも手伝わせる。見張りもだ。そうすれば、俺たちの負担も減る」


 ルシフェルは村人達の質問をちゃんと聞いて、それぞれが納得できることを言う。


「オレタチ、キョウリョクスル! ムラノヒト、ゼッタイニ、オソワナイ!」


「うわぁぁ?! 魔物が喋った!!」


「黙れ、魔物の言うことが信じられるか!」


 おいおいゴブリンくん、そんなに大きな声を出したら逆効果だぞ?

 しかしなぁ……このまま話してたんじゃ、きりがないな。


 俺は意を決して、意見を言うことにした。


 正直ここは黙ってルシフェルに任せていた方がいいのかも知れないが、このままじゃ話が終わらない。


「–––––魔物の言うことが信じられない。気持ちは分かります。ですが、この魔物たちも同じはずです。目の前でこうやって自分たちを殺そうと言っている人たちを見て、魔物も俺たちを信じることができるでしょうか? 殺られる前に殺ろうと考えるのではないでしょうか?」


「子供に何がわかるって言うんだ!」


 おぉう……そんなに怒鳴らないでよ……。

 やはり混乱して、感情的になっているのだろうな。


「子供に何がわかるかって? じゃあ、逆に聞きますけど、おじさんに何がわかるんですか? 父さんは皆さんにわかってもらおうと話しています。このゴブリンもそうです。俺からしても、悪い話には思えませんがね」


 実際にルシフェルが提案したものは全て、この村の大きなメリットになるものだ。


 それを分かろうともせずに否定するのはおかしいんじゃないか?


「……そうね。少し怖いけど、このゴブリンさんも悪い魔物には思えないわ。それに、魔物と共存している国もあるって話も聞いたことがあるし、私は賛成だわ」


 酒場のおばさんもフォローしてくれている、まさしく鶴の一声だ。


 人望のある酒場のおばさんが賛成したことで、村人の大半の人は分かってくれたらしく、賛成意見の人が出てきた。


 だが、このおじさんは頑なに反対意見のようだ。


 いつ裏切って襲ってくるかもわからない魔物が近くにいるのは、やはり恐ろしいようだ。

 その気持ちも、もちろんよくわかる。


「リュウの言う通りだ。もし魔物が俺たちに恐れて村を襲ったら、それこそ悲惨な事になりかねない。それにこいつは話のわかる奴だ。こいつにしばらく、魔物たちの動きを見張って貰えばいい」


 おじさんは少し落ち着いてきたらしく、考えるように唸っている。


 もう一押しだな。


「そうよ! それにこの魔物たちは、生きるのに必死なのよ! それなのに私たちを襲ってこないんだから、信用する価値はあると思うわ!」


 アインスも説得してくれている。

 その言葉に周囲の人たちも頷いている。


「……わかった、俺も少し頭を冷やそう。たしかに、共存することは、悪いことばかりじゃないな」


 どうやら分かってくれたらしい。


 それにしても、案外あっさりと魔物たちを助けることができたな。

 この世界じゃ案外、珍しいことじゃないのかもしれない。


 そういえば昔、なにかの本で魔物の国があるっていうのを見たなぁ。

 御伽噺程度に思っていたからよく調べなかったけど、もし実在するなら少し興味がある。


「アリガトウ、ゴザイマス! オレタチ、ガンバル!」


 村人たちにひとまず認められて、ゴブリンも嬉しそうに安堵の表情を浮かべた。


「みんな分かってくれたようで助かった。それじゃ、お前は今日から『ゴブ』だ! これから一緒に仕事をするんだ。名前がないと不便だからな!」


 ルシフェルは唐突に魔物に『名付け』をした。


 その瞬間、周囲の人は驚きを隠せなかったが、俺はそれが何を意味するのかをまだ知らなかった。






 ––––––––––






 こうして、村人と魔物たちとの共存関係が成立した。


 いや〜、一時はどうなることかと思ったけど、無事に解決できて良かった。


 シロたちにカッコイイとこ見せれたかな?





















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