第4話『龍神の祠と鍛冶屋ガッチェス』

 






「今日も1日、お疲れ様です♪どうでしたか?魔物との初めての戦闘は」


 俺は今日も女神と夢の中でこれからのことを話したり、この世界のことを勉強したりする。


「そうだな……少し不思議な感じかな。生き物を自分の手で殺したはずなのに、不快感がしない。俺はおかしくなっちまったみたいだな」


 俺は今日、魔物と戦い–––––殺した。

 この世界で生きて行くなら当たり前のことだが、少しくらい不快な感じがするもんだと思っていた。


 俺が不安そうに言うと、女神は優しく俺を抱きしめてくれた。


「–––そこらへんは、人それぞれでしょう。とりあえず、今日あなたは魔物との戦いで勝利しました!この調子でどんどん行きましょう♪」


 優しく頭を撫でられながら、そう励まされた。


「そろそろ、貴方には武器・・があっても良い頃合いでは無いでしょうか? 武器があるのと無いのとでは戦術の幅も違いますよ♪」


 武器か……。

 確かに、大物と戦う時には武器があるのとないのじゃ違うはずだ。


「この世界には、魔法の補助をしてくれるアイテム《魔法石》が存在します。魔法石は、魔物やドラゴンの体内。時には、《迷宮ダンジョン》の奥に眠る宝だったり」


 魔法石、か。

 あのゴブリンみたいな死体から取り出すのは少し気が引ける。


「それで、俺はどんな武器を作ればいいんだ?」


「武器の系統や形状はあなたに任せます。好きな形などを鍛冶屋に言えば作ってくれるはずです。材料となる魔法石なんですが、森の中の洞窟に“龍神の祠”があるはずです。そこにある魔法石を使ってください。きっと、あなたの役に立つはずですからね」


 龍神の祠なんてのが近くにあるのか。

 ちょっと興味深いな。


「その龍神の祠というのは、この世界でどれくらいあるんだ?」


 俺の問いに、女神は少し考えて言った。


「そうですねぇ……。多くの祠が存在していますが、ほとんどが龍神を祀ったもので本物は少ないですね。ですが、今言った祠は本物です。この先で多くの祠と出会うでしょうが、その違いにも自ずと気づいていくはずです」


 偽物なんてあるのか。

 でも、本物がこの近くにあるなんて、ちょっと都合が良すぎる話だが、気にすることはないか。


「鍛冶屋って、この村にそんなのあったかなぁ。俺は見たことないけど……」


 俺がそう言うと女神は苦笑いした。


「無理もありません。彼は村の外れの森の中で鍛冶屋をしていますからね。腕はいいのですが、責任感が強くて……。とにかく、村の人に聞けばわかると思いますよ」


 なんでそんなとこにあるのかは知らんが、その人なりの理由があるんだろうな。


「わかった。武器のことは俺が決めるとして、龍神の祠とやらに行って魔法石をとって来よう」


「はい!あっ、そうだ。祠には、鍛冶屋の人も一緒に連れて行ってください。彼なら魔法石がどこにあるかわかるはずですから!それでは、頑張ってくださいね」


 女神の微笑んだ顔が、次第にぼやけて意識が朦朧としてきた。

 今日も頑張っていこう–––––。






 ––––––––––






 俺は目を覚ますと、隣を見た。

 そこには、天使のような寝顔をしたシロがいる。


 俺はシロを起こさないようにベッドからそっと出た。


 支度をして外に出ると、ルシフェルがいた。

 彼は俺より先に起きて、剣の素振りをしていた。


「おはようございます、父さん。今日もよろしくお願いします」


「あぁ、おはよう。それじゃ、始めるぞ」


 普段は父親の顔のルシフェルも、剣を握って向き合えばたとえ俺相手でも目付きを鋭くする。


 1人の剣士として扱ってくれているのが、俺は嬉しい。


 もちろん全く歯は立たないし、ルシフェルもかなり手加減してくれている。


 たとえそれでも、父親からこうして剣を学べるのが俺にとって特別なのだ。



 –––––



 ルシフェルとの稽古が終わり、鍛冶屋のいる村の外れへと行くことにした。

 シロがついて行きたがっていたが、家で魔法の勉強をしているように言った。

 途中で危ない目に会うかもしれないからな。


 村の中を歩いて、いろんな人に話を聞いて回った。


 話によると、鍛冶屋の主人はガッチェスといい、無口で子供には優しいが、有名な名工のわりに依頼は自分が認めた人からしか受けないらしい。


 俺は大丈夫だろうか……。

 まぁ、こんなに可愛いお子ちゃまなら問題ないだろう!


 鍛冶屋の場所も聞き、森の中へと入って行った。

 相変わらず普通の森だ。魔物の気配はほとんどしない。


 –––––しばらく歩いていると、木々の間から煙のようなものが見えてきた。


 その下では、中年のおじさんが真っ赤な鉄を打っていた。

 槌を打ち下ろすたびに甲高い金属音が森に響き渡り、火花が散る。


 初めて見たその光景に俺は思わず目を奪われていた。


 俺はタイミングをつかんで話しかけてみた。


「あの……すみません。あなたがガッチェスさんですか?」


 中年のおじさんは振り返り、俺の顔をジロジロと見てきた。


「そうだが……。坊主、何の用でここにきた?」


 ガッチェスは訝しげな表情を浮かべている。


「実は、ある人に武器を作れと言われまして–––––それで、ガッチェスさんと龍神の祠に行き、魔法石をとりに行けと言われてぇ……。もしよかったら、僕と一緒に龍神の祠に行ってくれませんか?」


 そう言うとガッチェスは、鉄の塊を脇に置いた。


「誰に言われたかは知らんが、なぜ龍神の祠のことを知っている?その中にある魔法石の事も……」


 ガッチェスは俺を睨んでいる。やはり怪しいようだ。

 うーむ……。どうしたものか。


「誰に教えてもらったのかは本人が自分のことを言っていいとは言いませんでしたから、言えません」


 ガッチェスはさらに険しい表情になる。

 やばいな、どう話せばいいかわかんない。


「……まぁいい。お前が何者かは行ってみればわかる。付いて来い」


 ガッチェスはそう言うと、立ち上がって森の中へ歩いて行った。

 俺もそれに慌てて付いていく。



 しばらく歩くと、洞窟に入っていった。

 中は冷んやりして気持ちがいい。


 歩いて行くと、石碑のようなものと大きな魔方陣が描かれた扉が見えてきた。

 ここが龍神の祠–––––。


「……着いたぞ。魔法石はこの扉の向こうにある。だが、この扉は龍神の力でしか開かない。わかったなら諦めることだ」


 ガッチェスは大きな扉を見上げて言った。

 龍神の力でしか開けられないのか……。俺にも開けられるかな?


 俺は扉に手を置き、力一杯押してみた。

 ……全くビクともしない。どうやったら開くんだ?

 とりあえず、魔方陣みたいなのに魔力を流し込んでみよう。


「……何度言わせればわかる。これはお前じゃ開けられない。もちろん、俺にも––––な!?」


 重たく閉ざされていた扉が、鈍い音を立てて開いていく。

 成功したのか?ガッチェスはただ呆然と扉が開くのを見ていた。


「お前、一体何者なんだ?どうして扉が開いたんだ?」


 ガッチェスの頭は、?でいっぱいだ。


「さぁ、どうしてでしょう?あ、何かありますよ?」


 扉の向こうには、祭壇のようなものがあり、周りは青く光る水みたいなのがある場所だ。

 神秘的だ……。


 俺は祭壇に近づいた。

 その上には、紅く光る宝玉のようなものがあった。

 これが魔法石なのかな?案外小さいな。首から下げたら、ペンダントになりそうだ。


「ガッチェスさん!これが魔法石なんですかね?僕の武器、作ってもらえますか?」


 俺は扉の前で呆然としているガッチェスに問いかけた。

 その声でガッチェスは我に返ったようだ。


「あ、あぁ……。いいとも、鍛冶屋に戻るぞ」


 俺は魔法石を持って、鍛冶屋に戻った。



 鍛冶屋に戻ると、ガッチェスはすぐに材料を倉庫のようなところから取り出した。

 全部鉄の箱の中に入れて大切に保管されていて、他のものよりも高級そうなものばかりだ。


「あ、あの……ガッチェスさん!?俺、お金あんまり持ってないですよ!?こんな大事に保管された材料なんて使われても、払えるかどうか……」


 俺がそう言うと、ガッチェスは苦笑いして言った。


「気にするな、金はいらん。それに龍神の祠の魔法石を使うんだ。そんじょそこらの素材で作ったんじゃ、バチが当たっちまう。それに、さっきは変に疑ってすまなかったな。まさかこんな幼い子供が龍神の力を持っていたなんてな……。これで、俺もようやく使命を果たせる」


 使命?

 そういえば、女神も言ってた気がするな。

 ガッチェスは責任感がどうのこうのって。


「え……でも、お金はさすがに払いますよ」


「いいや、受け取れん。俺の使命は、龍神の力を持つものが現れた時に至高の武器を作ることだ。その使命がようやく果たせるんだ、金は受け取れん。それにな、どんな名工でも、生涯でたった一本しか至高のものを打つとこはできないんだ。俺にとって、この武器は俺の人生の全てを捧げた武器にしたい。いわば、俺の全てだ。

 そんな大事なものに値打ちを付けることはできん。願わくば、ずっと大切に使って欲しい」


 ガッチェスは強い眼差しで俺を見た。

 漢にここまで言われちゃ引き下がれないな……。


「……わかりました!どうか、よろしくお願いします!」


 俺は深々と頭を下げた。

 この人には、頭が上がらない。


「よしてくれ……。子供に頭を下げられるのは変な気分だ。それよりも、これはどんな武器にしたいんだ?」


 おっと、そうだった。

 それも言わなきゃいけないな。


「実は、こういった武器を作って欲しいのですが……」






 –––––––––






 武器が完成するのには、かなりの時間がかかるらしい。

 完成したら連絡をくれるというので、俺は家に帰った。


 家に帰ると、シロとメイシェルとエレナがリビングで遊んでいた。

 おままごとをしているようだ。


 三人は俺に気がつくと駆け寄ってきた。


「リュウ、おかえり!」

「にーたん、おかえり!」

「にぃ、おかえり!にぃもあそぼー!」


「え?でも、にいちゃん疲れたから––––って、うお!?」


 俺はエレナに手を引かれて、おままごとに強制参加させられた。





 ––––––––––





 –––––ふぅ〜。今日も疲れたな。

 早く家に帰って、愛しい妻の胸で眠りながら娘たちを抱きしめたい……。



「ただいま〜、今帰ったぞ〜!」


「おかえりなさい、あなた!」

「おかえりパパ!」

「かえり!」


 そう言いながら、俺が玄関の扉を開けると、可愛らしい妻と娘たちが俺を出迎えてくれた。

 あぁ、疲れがぶっ飛んでいくよ……。


「あなた、ご飯にする?お風呂にする?」


 そう聞いてくるのは、俺の愛しい妻。シロだ。

 彼女はとても美人で、これ以上の女性はいないんじゃないかと思えてくる。


「ん〜……そうだなぁ。じゃ、シロで!!」

「!!?!!♡♡?!?♡!?」


 俺は妻をギュッ!と抱きしめながら、ソファに座る。

 あぁ、いい匂いだ……。シロのいい匂いが俺を包み込むようだ……。


「あぁー!!ママだけズルい!わたしもー!」

「エレナもー!」


 二人の娘も俺に抱きついてきた。

 あぁ、俺は今なんて幸せなんだ!


「ね、ねぇリュウ!恥ずかしいよ!!」


 おっと、妻が恥ずかしがって逃げてしまった。

 シロは恥ずかしがり屋さんだなぁ。


「じゃあ今度は、ご飯を食べようかな」


「うん!わかった!!あなた、ちょっと待っててね!」


 シロはそう言って、パタパタとキッチンへ走っていった。


「はい、これ!お母さんと一緒に作ったの!」


 戻ってきたシロが持っていたのは、少し焦げた匂いのする卵焼きだった。


 フッ、たとえ消し炭だろうが、愛しい妻が俺のために作ってくれたんだ。食べてみせるぜ!


「お?結構うまいじゃないか!俺、この味好きだよ」


 少し甘めの味付けか。うん、とても美味だ。

 これ、本当にシロが作ったのか?料理の才能あるな。


「えへへ〜、よかった。少し焦げちゃったから、食べてくれないかと思った……」


「なーに言ってんだよ。シロが作ってくれたんだ。食べないわけがないだろ?」


 なんてイチャイチャしてると、娘たちがムッとした。


「じゃ、今度私も作るから食べてね!」


「エレナも作る!食べてくれないとメッ!だよ!?」


「わかったわかった。じゃ、お風呂に入ろうかな」


 俺はそう言って廊下に出ると、サティファがいた。

 なんかめっちゃニヤニヤしてる……。


「あの、サティファさん?これはおままごとですからね?」


「あら?そうなんですか?私、てっきり本当の夫婦なのかと……。あ、でも!リュウお坊ちゃんがいいなら、本物・・になったっていいんですよ?」


 何言ってんだこの人は……。


「それにしても–––––ここへきてからあの子は、とても笑うようになりました。本当にここへきて良かったです」


 ……そうなのか。

 いろいろあったみたいだし、仕方ない。


「いつまでもいてください。俺や妹たちも、サティファさんやシロがいてくれて、毎日楽しいですから」


 俺がそう言うと、サティファは静かに微笑んだ。





–––––






 その夜、俺は夢の中で女神に今日あったことを話した。

 ガッチェスのことや龍神の祠のこと、武器が出来上がるのにかなり時間がかかることも。


「そうですか……。彼、元気そうで良かったです。魔法石の効果はそれぞれなので、出来上がったらどんな効果があるのか試してみてくださいね」


 ほほう、そこは運しだいってことか。

 どんな武器になるのか楽しみだ。


「あと、一つ聞きたいことがあるんだが……。この前話した龍神は人の姿になれる、ってやつ。あれって、他の竜王とかもなれるのか?」


「よく気がつきましたね♪ その通り、他の竜王もなれますよ!ただ、竜王の場合は、人の姿よりも魔族に近いですがね」


 –––––魔族。

 人と魔物の間のような種族で、確か森人種や獣人種とかもそうだったな。

 魔族を嫌うやつらもいるとか……。


 そいつらはダメだな。何もわかっちゃいない。

 ケモミミ少女やエルフっ子の素晴らしさが。


 ……俺もはやく会いたい。


「これからの冒険で、たくさんの道具や武器を手に入れるでしょうから、収納するものも必要でしょう。この魔法を使えば、いくらでも入れることができますよ♪ あとこの中には、冒険で役立つものも入れておきましたので、必要な時に使ってください!」


 そう言って女神は俺の額に手を当てた。

 女神から魔法を教わる時はいつもこうやっている。


 こうして、体に直接感覚を覚えさせ、無詠唱もできるようになる。

正直ズルイってのは自覚しているが、神に挑むならこれぐらいじゃないと……。


「はい、これで大丈夫ですよ♪ さてと、それじゃあ今夜もお勉強の時間ですっ!」







































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